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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
六章 金色の回想
111/374

□月星暦一五三六年二月⑯〈肖像画〉

 騒ぎを聞きつけて、散っていた五大公が集まっていた。

 戻る者と残る者をふりわけ、アウルムは再び神官長に会いに行った。


「アウルム様、私はこのジェライドの街を統括していた中央神殿の神官長をしていました、ミドルと申します」


 神官長が、また挨拶をしてきた。同じ顔、同じ声で初めて会うかのように同じ言葉を紡ぐ。

 目の色は茶色かっただろうか。

 違和感を覚えたが、追求するまでもないと、アウルムは流した。


「もう少し滞在するつもりだったが、予想外の事態が起きたので、帰らねばならなくなった」

「私も見ておりました。立派な演説でございました」

「聞いていたのなら話が早い。大神殿の神官や瓦礫の撤去等人員は置いていく。追加の人員も必ず送ろう」

「助かります」

「食料は足りているのか?」

「お城の食料庫のものを使わせて貰っていますので暫くは保ちます」

「そうか。引き続き頼む。一刻も早く、再び人が暮らせる場所になるように尽力したいと思う」

「期待しております」


   ※※※


 城に戻った時には日が落ちていた。弓張月には数日満たない月が、西の空に輝いている。

 突然の王の死に大騒ぎの城内を避けて、アウルムは自身の部屋に戻ると、副官のウィル・ネイトが忍ぶように訪ねてきた。


「アウルム様、紙の資料の方は量が多いので、今回は王の私物と見られるもののみです。後ほどお届けします。公的資料は残っていただいたヴェストさまに回収をお願いしてきました」


 ウィルは運んできた四、五枚づつ布に包んだ包みを三つ示した。


「肖像画は優先してお持ちしましたが……」


 包みから一枚を取り出し、差し出してくる。


 見せられた絵には、アトラスに嫌という程似ている顔があった。


 ジェイドの息子、ライネスの父親スフェンの若い頃のものらしい。


「やはりか……」

 アウルムは思わず溜息をついた。


「これは、どういうことなのでしょう?」


 躊躇いがちにウィルが尋ねてくる。困惑した顔。


「ウィル、お前ですらそう思っただろう?」

「……と、言いますと?」

「私とアトラスは良く似ているだろう?」

「そうですね。お色は違いますが」

「高祖父にモナクという方がいたのだが、そのお顔が我々兄弟とそっくりなんだ」


 ウィルが初耳という顔をする。


「アトラスの髪色はその方と同じなのだよ。ライネス王も同じような髪色をしていたから、あちらの血統には、高祖父の特徴が色濃く出たのだろうが……誤解を生むだろう?」


 肖像画に目を落とし、恥ずべき顔でウィルは頷いた。彼が何を想像したのかは、言わずもがなである。


「その事情を知らなければ、はい。私も思ってしまったようなことを、人は考えてまいますね」

「そうだろう。余計な憶測は醜聞を呼ぶ。このことは内密にしておいてくれ」

「もちろんです。アトラス様に誓って言いません」


 ウィルがタビスに幻想を持つ者で本当に良かったとアウルムは思う。


 アウルムは預かった絵を厳重に保管した。

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