□月星暦一五三六年二月⑥〈歓声〉
ジェイド派が首都と自称していたジェダイトの街を制圧し、王が率いる本隊が帰還した。
沿道に押しかける住民達から歓声が湧き上がっていた。
花びらが撒かれ、口々に声が飛び交う。
「おめでとうございます」
「お帰りなさい」
「お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「王様万歳!」
「タビス万歳!!」
「女神様感謝致します」
「タビス! タビス!」
そこにアトラスの姿は無いが、タビスを称える声が一番大きい。
国中、いたる街に支部を持ち、手足を持つ神殿の行動早かった。
『タビスの活躍』は今や国境を超えて遠くの国にまで広まっていた。いくつかの国からは正式に祝報まで届いている。
沿道の警備を二隊に任せ、アウルムは、二の郭へ続く城門前広場で王を出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「こちらは何もなかったようだな」
「はい」
アウルムは王と並んで城への帰路につく。
「ライネスの娘は死んだ」
「殺したのですか?」
「突入した時には、自室で毒を仰いで自害していた。まあ、王女を旗印に軍の再興をされては戦いは終わらないところだったから、手間が省けたな」
「そう、ですか」
せめて確保出来れば良いとアウルムは考えていた。
十六夜隊の隊員を数名、ネウルス率いる新月隊に付いて行かせてその旨を伝えてはいた。
人質という扱いにはなるだろうが、丁重に扱えばジェイド派の残党も手出しはしにくいだろうと考えていた。
ジェイド派の者は、一度はライネスの言に従おうとしたのだ。和解の道はあった筈だ。
アセルスが勝ちにこだわったのは、負けたら自身の平穏が脅かされるから一点に尽きる。
根こそぎ叩き潰す必要性をアウルムは感じていなかった。
敵と定めて戦ってきたとはいえ、会ったこともない曽祖父の争いに巻き込まれてきただけである。
それはお互い様だったろう。
丸く収まるのなら、王女を妻として迎えても良いとすら思っていた。
いずれ国母と呼ばれる立場ならばジェイド派の溜飲も下がろうというものだ。
そんな可能性すら潰してしまったアセルスという男のやり方がいちいち気に食わない。
「なんだ、残念そうだな」
顔に出ていたらしい。
アウレムは引き締める。
「いえ、生きていたら、残党の牽制や炙り出しなど、使い道はあったかと思ったまでです」
心中を悟られないように、アウルムは取り繕う。
アセルスはあからさまに不機嫌な顔をする。アウルムの言葉を否定と受け取ったらしい。
「……夜にわしのところに来なさい」
城に到着するとアセルスはそう言い残して自室に戻っていった。
アウルムは冷や汗が背中を伝うのを感じていた。
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