第7話 我こそはというものはついて来てくれないか!
「さて、これをどこに取り付けるかだな」
それは虹色に輝く円盤状の石。
俺が手にしているのはもちろんドラグミスティカだ。
グレディアンは設置自体はどこでもいいと言っていたが、さすがに誰の目にも触れるところでは問題がありそうだ。
そうなるとできるだけ高所、あるいは低くても人気のないところが候補になるだろう。
「あの、クレハさん。そんなに悩んでなにかあったんですか? わたしでよければ相談に乗りますよ」
気付けばフェリスが心配そうに顔を覗き込んでいた。
そうか。人気がないというか、一度も入ったことのない場所がまだあった。
「フェリス、お前の部屋を見せてもらってもいいか?」
「えっ、わたしのです? それはどうして……」
意外といったような反応をしている。
「よく聞いてくれ。俺達にとって今後を左右する重大なことなんだ!」
「はい、わかりました! でも少しだけ待っててもらっていいですか?」
唐突に妙に気合いの入ったフェリスは自室へ戻っていき、直後大きな物音が何度か響いた。
しばらく待っているとようやく出てきたのだが、その表情はどうにも疲れ切っている。
「なんか音がしてたけど大丈夫なのか?」
「どうぞ。わたしの戦いはすべて終わりましたからっ……!」
言葉の意味はわからないが今はそれどころじゃない。
そのまま足を踏み入れると、ユーディーの部屋を彷彿とさせるようなファンシーな空間が広がっていた。
いつもの能天気さからは考えられないが、フェリスも女の子らしいところがあるんだな。
早速ベッドの下のスペースを見つけ滑り込ませると、鉱石の一部が床に取り込まれ一体化していく。
この仕組みが気になるところだがこれなら誰にも見つけられないだろう。
一仕事を終えて俺は部屋を出た。
「わたしの部屋、どうでした?」
「女の子らしくて可愛いかったぞ」
「わぁ、本当ですか? そう言ってもらえてすごくすごく嬉しいです!」
気をよくしたのかフェリスは鼻歌交じりにどこかへ行ってしまった。
さて、設置したはいいが本当にこれだけで耐久性が上がったのかどうかには疑問符がつく。
かといって実際に剣を振りかぶって試すのは気が引けるし、その現場を見られてしまうのはまずい。
なにかいい方法はないものかと頭を悩ませていると、あることに気付いてしまった。
俺のフルパワー酒放出はかなりの勢いを有していて、これを耐えられればある程度の指標たり得るはずだ。
もしもうっかり壊してしまった時のことは今考えないようにしよう。
早速店の裏手に回り、誰もいないのを確認すると腰元のポーションに手を伸ばした。
MPを残り1にするように調整して放つもびくともせず、ひとまずは第一段階を突破したと判断していいだろう。
さてここからが本番だ。
洞窟の壁や龍の攻撃に対峙した時のようにすべてのポーションを用いてみる。
これがうまくいけば、この店こそが防衛拠点だと胸を張って主張することができる。
そのうえ他への被害を最小限に食い止められるかもしれない。
放出を開始後三本目、五本目と順調にポーションの残りが減っていく。
木だけで作られているはずのこの店はまるで要塞のように動かない。
通常なら足元が水溜りになっていくのだが、ここは水はけのいい土地らしく今のところ問題という問題は見当たらない。
「これでラストだっ!」
結果として、最後まで手を抜かずMPを全て消費したが危惧していたことは起こらなかった。
耐久実験を終えると同時に、ポーションの在庫切れを思い出すと道具屋へ向かった。
すぐに店主が俺の来店に気づくと声を掛ける。
「おや、またいつものかい?」
「今回は倍の量で頼む。なんだ、やたら嬉しそうだな?」
「わかるかい? 最近は物騒なのもあるのかね。どの冒険者も沢山買ってってくれてこちとら景気がいいったらないよ!」
上機嫌な店主からポーションを受け取り、溜め息を吐きながら言葉を返す。
「あのなぁ……。商売人として喜ぶのはわからなくはないが、一応この店も気をつけた方がいいんじゃないか。明日は我が身だぞ?」
「とは言っても、どうせここまでは被害なんて及ばないだろうさ。冒険者様は心配症だねえ!」
「まったく。お前、なんかあった時に絶対困ることになるぞ。せいぜい自衛だけは忘れんなよ?」
平和ボケでもしているんだろう。一つも響かなかったようだ。
ついでに他の店も立ち寄り話を聞いてみたところ、やはり不安は広がっているようだ。
俺はそのままギルドの扉を叩く。
「え、あのドラグミスティカをですか!? それにしてもよく手に入りましたね~」
リンスさんは瞳を輝かせ驚きを隠せないようだ。
「ちょっとした縁があってな。それで今回来たのは他でもないんだが――」
店が拠点になりそうなことと、もし襲撃があった場合の緊急避難場所にして欲しいと伝えた。
店の収容人数的に全員は無理だとしてもある程度なら守ることはできる。
そう考えていたところ、どうやらこのギルドもすでに取り付けが終わっているようだ。
これなら避難する人数が分散するだろうし悪くはない。
「ご協力ありがとうございます~。これで安全な場所が増えました……! 早速各所に連絡を回しておきますね」
「またなにかあったら立ち寄るよ」
それはリンスさんに手を振り、帰ろうとしていた時だった。
一人の冒険者らしき男が扉を蹴破るような勢いで飛び込んできた。
「魔族の襲撃だ! 場所は居住区で規模は今のところわからない……敵うのかもわからない」
がっくりと膝をついた男に周囲はざわめき、すぐに動こうとするものはいない。
その言葉が意味するのは、転生してきてから世話になりっぱなしのここの危機だということ。
今行かないでいつ行くというんだ。俺は腰元の剣を引き抜き告げる。
「聞いてくれ、俺はこの街が好きだ。だから絶対にやつらの思うままにはさせない。我こそはというものはついて来てくれないか!」
待機中の冒険者に声を掛け、すぐさま現場へと駆け出した。




