第5話 ふふ、これはとっておきの切り札さ
「この辺りはギルドの管轄外になっている地域で、一度調査隊を派遣する必要があります。そこで、一部隊をクレハさんに率いていただけると心強いのですが」
「どうして俺なんだ? 昇級して日も浅いわけだし別のものの方が適任だろう」
「この際お伝えしておきますね。現状の実力を鑑みるとBランクに一番近いのがクレハさんであり、他の方からもあなたならという声が上がっています。これでは理由になりませんか?」
グレイスからの情報をギルドに持ち帰ると、三箇所のうちの一つである『ラーヴァの巣穴』へ向かうパーティーを任された。
俺の他にもCランクの冒険者は十名ほどいて、決意を秘めたようなものや緊張しているものまで様々な表情が伺える。
「今回の襲撃を決して許すわけにはいかない。だが、俺達の役目はあくまでも調査であり討伐じゃない。仮に出くわしても敵わない可能性だってある。もしもの時は俺を置いて離脱してくれ」
そうして俺は全員を引き連れて巣穴へと出発した。
先陣を切り物音を立てないようにゆっくりと進んでいくと、最奥の方からパチパチとなにかの燃えるような音が聞こえてくる。
それぞれが武器を構える音が響き、場に緊張感が高まっていくのを感じる。
後続を制して様子を見にいくと、誰の姿もなく焚き火がついたままになっていた。
もしかするとここにいたのかもしれない。
そう判断し全員で手分けして痕跡をすべてギルドに持ち帰った。
「ありがとうございました。これらはきっと重要な手掛かりになるはずです。なにかわかり次第すぐにお伝えします」
リンスさんの表情は変わらず硬いままだ。
今日のところは解散となり俺は店に戻ってきた。
「大変なことになってしまいましたね……。わたしもなにかお役に立てればいいんですが」
フェリスが心配そうな様子で俺のところまできていた。
彼女もランクを上げDになっているが、今回の召集には呼ばれていない。
消耗戦となった時にはヒーラーの存在は今後必要となるだろう。
「これまでのベアル討伐とはわけが違うからな。奴らの目的がわかってからでも遅くはないだろうし、とにかく今は不測の事態に備えておこう」
「そうですよね。もしここが襲われたとしたら、わたしにはなにができるかを考えてみます!」
気合いを入れなおしたフェリスとは対照的に、テーブルに座るスゥとユーディーは小さな声でなにか話している。
「スゥ達非戦闘員はこうして怯えることしかできないんです。ユーディーさん、敵が明日襲ってくるとしたらどうします?」
「うう、怖いよぉ……!」
「そうなったらもうこのお店もおしまいですよ。それどころか命すら危ないです。ユーディーさんはこの非常事態をどう思いますか?」
「ひぃぃ……!」
どうにもスゥはユーディーの反応を面白がっているようにも見える。
その証拠に視線が合うと、新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりの悪い顔をしていた。
この子悪魔がフェリス以外の人間に興味を持ったのは初めてかもしれない。
そんなことを考えているうちに時間が過ぎていった。
ミーティングはもちろん襲撃の話題で持ちきりになったが、手放しで安心しろと言える状況でもなく少し重々しい雰囲気のまま営業を開始した。
「さすがに人の入りが緩やかね」
アリスフィアが店内を見回しながら呟く。
彼女の言うとおり通常だと埋まってしまう席が三分の一くらい空いている。
「こうなるのは予想してたさ。ところでフィア、ここにいても平気なのか?」
「今は交代で見張りをしているの。なにかあればすぐに駆けつけられるようにしているわ。その代わり、この件が片付いたら盛大に祝杯をあげるつもりよ」
もちろん店のおごりでね、とアリスフィアはウィンクをした。
「そうなることを願うばかりだよ。ところで、グレディアスの店は特殊な加工をしてるようで無事だったみたいだな」
「あの工房には貴重な金属がふんだんに使われていて、頑丈な作りになっているのだと嫌になるくらい自慢されたわ」
「それが実際に証明されたのを喜んでたよ。それをこの店に取り入れられないものかと、フラールの惨状を見てからずっと考えてるんだ」
「もちろん私も喜んで同行したいところだけれど……」
彼女は力なく俯いてしまった。
「その気持ちだけで十分だ。現状、街の守りはフィア達にかかってるんだ。こっちもこっちでうまいことやってみせるから心配するな」
翌朝、早速グレディアンの店へ向かおうとしていると店の扉が開いた。
「クレハ君、フィア君から話は聞いているよ。僕もともに向かおう」
そこにはジラルドが立っていて、なにやら仰々しい荷物を背負っている。
「そんなに遠出はしないぞ?」
「ふふ、これはとっておきの切り札さ」
彼の表情には自信を伺わせるものが見える。
隣街の商業区に到着し、フラールを目にしたジラルドは握り拳を震わせていた。
過去に商会とひと悶着あった彼ですら思うところがあるに違いない。
そう思いながら通り過ぎ、グレディアンの工房の重たい扉を押した。




