第3話 クレハ殿の機転なくしてこの勝利は語れまいよ
「さーて、そろそろ行くっすよ。マスター、ツヴァイ、ドライ、準備はいいっすか!」
そして翌日。
アインズが大声で発すると、「おう!」俺達も呼応してそれに続いた。
待ちに待った大物狩りの日ということもあり、全員気合いは十分のようだ。
もちろん俺だって負けてはいない。
【ステータス】
クレハ:レベル23
HP:140/140
MP:90/90
STR:65
AGI:50
VIT:42
INT:30
DEX:47
「道中大したことはない。よって、ベアルの棲息地まで隊列は自由で構わないと判断する」
先行し、様子を見に行っていたツヴァイが土煙とともに姿を現した。
俺達はその報告に頷くとスフェイア遺跡の奥地を目指す。
ドライが大盾を構えたまま道をつけ、アインズが大剣を振り回し、ツヴァイが矢を放ち援護する。
そのコンビネーションに俺も加わり、次々襲いくるベアルの群れを薙ぎ倒していく。
さすがに四人ともなれば今回の制圧速度は普段の比にならない。
これがパーティー戦というものなんだな。
基本一人かフェリスとしか行動していないのもあって、新鮮な冒険に心が躍った。
「ここまでは前哨戦っす。先陣はドライ、マスターとツヴァイはおいらが斬り込んでから攻撃を開始。各自、危険を感じたら後退して他のメンバーに任せること。とにかく無事に生きて帰るっすよ」
突入前、アインズの真剣な表情に場の空気が張り詰めたようになる。
全員拳を突き合わせると深く頷き戦場へ向かった。
視線の先には、巨大な黒い龍――ブラッディドラゴンが禍々しい気を放ち鎮座している。
「いいか、手筈どおり我輩が合図をしたらだぞ!」
ドライは重い空気を切り裂くように、アインズに声を掛け走り出していった。
直後咆哮が鳴り響き、龍が身を翻して襲いかかるとドライは大盾を構えそれを受け止める。
彼もまた雄叫びを上げ盾を頭上に掲げた。
それが合図なのだろう、アインズは大剣を斜めに構えながら一目散に駆けていく。
残る俺とツヴァイは互いに目配せをしてアインズのあとに続いた。
アインズは力一杯に頭上から剣を振り下ろす。
それを受けツヴァイは右方向、俺は左方向に分岐し龍の側面に回った。
剣を引き抜くと同時に、眩い光が漏れ出てきて力がみなぎっていく。
この状況で出し惜しみしてる余裕はないはずだ。
始めから全力の威力攻撃を叩きこもう。
ポーションを消費しながらの三連撃をお見舞いしたところで、龍は完全に動きを止め鱗が光り始めた。
もしかするとなにかしらの攻撃を仕掛けてくるのかもしれない。
「やつの様子がおかしい。気をつけろよ!」
俺が声を上げると、注視を引き付けているドライ以外のメンバーは距離を置き身構える。
間髪入れずに、黒い霧をまとった龍が体を回転させると尻尾に弾き飛ばされた。
俺は刹那の衝撃に意識を失いかけたが、すぐに受身を取り持ち直すと前線に復帰。
どうやら他のメンバーも無事のようだ。
その後戦況が進み、ダメージを蓄積させていくと龍は羽ばたき上空へと飛んでいった。
「なんだ、あいつ逃げようってのか!?」
「いや、あれは火炎攻撃の兆候だ。皆よく聞け、正面から受けてしまえばひとたまりもないぞ!」
アインズの声を受けてツヴァイが警告を放った。
全員が固まらないよう距離を取った直後、火の球が雨のように降り注いでくる。
ひとまず軽い身のこなしで回避するが、この後何度やり過ごしても龍は地上に降りてこない。
防具のところどころは焼け焦げ、俺達はついに肩で息をし始めている。
「また来るぞ……なに!?」
とどめと言わんばかりに、上空からはこれまでとは比べ物にならないくらいの火炎が放出された。
このままではこの場は炎に包まれてしまうに違いない。
ここは一か八かのあれをやる時だ。
急ぎポーションの準備をすると全員を集め背後に立たせる。
背後からはアインズの声が聞こえた。
「マスター、まさか身代わりなんてこと考えてないっすよね?」
「いいから俺を信じてくれ。さっきお前言ったよな。俺達無事に生きて帰るんだろ!」
振り向かずに言うと火炎球が間近に迫ってくる。
極限まで引きつけ放出し、水の盾を張ると火炎球と拮抗する形になった。
ここからは完全に力勝負だ。
片手でポーションを口に含みながら耐え、もう片方で盾を維持し続ける。
「こいつはおいらの秘蔵っ子っす!」
その声が聞こえると、なにかの道具の効果だろうか、すぐに体が燃えるように熱くなった。
ほどなくして火炎球を打ち消すことに成功し、黒龍は再び地面に降り大きく吼える。
だが肝心の俺はすべてのMPを使い切ってしまったようだ。
足からは力が抜けその場で膝をついた。
「マスターは休んでてください。あとはおいら達が必ず決めてきます!」
視界には使い切ったポーション瓶が散乱している。
アインズ達の足音が遠くなっていく最中、地面がゆっくりと迫り俺の意識は暗転した。
「マスター、しっかりしてくださいっす!」
気がつくとアインズ達が俺の体を揺らしながら顔を覗き込んでいて、すぐにほっとしたような表情に変わった。
そのまま体を起こし周囲を見渡すと黒龍の屍が転がっていた。
「仕留めてくれたんだな。それにしても、最後の最後で伸びてたなんて格好がつかないな」
俺は自嘲気味に言葉を投げる。
「そんなことありませんって! マスターがあの火球を防いでくれたから倒せたんすよ!」
アインズの言葉を受けてツヴァイは俺を見据えた。
「こやつの言うとおり、地上に降り立った彼奴はかなり衰弱していたのだ。クレハ殿の機転なくしてこの勝利は語れまいよ」
「我輩は盾役として、マスターの心意気に大変感服致した。それと同時に自身の不甲斐なさに激しく憤っている」
ドライは拳を握り締めると悔しさを滲ませ、アインズとツヴァイは彼に対して首を横に振る。
そうして俺は三人に助けられながら店への帰路についた。




