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第4話 金髪の女が俺を置き去りにしていくような、そんな悪夢を見ていたんだ

「目が覚めたみたいね。うなされていたみたいだけれど大丈夫?」


 草原の剣士が心配そうに尋ねてきた。


「ああ。金髪の女が俺を置き去りにしていくような、そんな悪夢を見ていたんだ」


「随分と具体的ね。例えば……こんなですかぁ~」


 その女が突然ドヤ顔テへペロダブルピースをかます。


「うおおおおい! はっ!?」


 目覚めると俺は見知らぬ部屋のベッドの中に居た。

 体を起こし見渡すと周囲には誰もいない。

 変な夢を見てしまったのは絶対にあいつのせいだな。


 しかしここはどこなのだろう。

 あの時、急に全身から力が抜けていく感覚を覚えたところで意識は途切れた。

 俺の体によくない何かが起こっていなければいいのだが。


「目が覚めたみたいね。うなされていたみたいだけれど大丈夫?」


 部屋の扉が開くと見覚えのある女が入ってきた。


「ああ。金髪の女が俺を置き去りにしていくような、そんな……」


 俺は言いかけたところではっとして口をつぐんだ。

 あれが正夢にでもなったらたまらないからな。


「金髪? 置き去り?」


 女は不思議そうに首を傾げている。


「いやなんでも。それよりもあんたはさっきの剣士だよな。名前は何て言うんだ?」


「アリスフィアよ。それにしても驚いてしまったわ。あなたあのあと急に倒れたのよ?」


 赤色せきしょくツインテールの彼女はベッド近くの丸椅子に腰掛けた。


「俺はクレハだ。もしかしてここまで運んできてくれたのか? すまない、礼を言わせてくれ」


 俺が頭を下げると彼女はそれを制した。


「やめてちょうだい。別に大したことではないわ。ねえ、どうしてさっきからそわそわしているの?」


「いや、ここはどこなのかと思ってな」


「私の家。とは言ってもあまり帰って来ることはないけれど」


 彼女は立ち上がるとカーテンを開け、差し込む光に俺は少しの間目を開けられなくなった。

 窓の外からはなにやら賑やかな声が聞こえてきて、人々が行き交っている様子が見える。


「つまり俺は安全なところにいるわけだな。なあ、聞きたいんだがここは何て名前の街だ?」


「まさかそれも知らないで彷徨っていたの……? ルーグロエといってこの大陸では一番大きな街よ」


 それにしても彼女はフェリスと違って落ち着き払っている。

 久しぶりに正常な人間と話している気分だ。

 そうだった、あいつはどうなったんだっけか。


「悪い、俺もう行かないといけないんだった」


 ベッドから降りて立ち上がり、その場で跳んだり屈伸をして体の調子をみる。

 どうやら至って健康そのものだ。


「待ってクレハ、一つだけいいかしら。交戦中に飛んで来たあの水って何だったの? なんだか独特な匂いがしたのだけれど」


「ああ、あれは酒だ。ろくな援護ができなくて悪かったな?」


 俺は気づけば悪態をつくように言い放っていた。


「お、お酒……!」


 瞬間、アリスフィアの目が爛々(らんらん)と輝いたのを見逃さなかった。


「それの何がそんなに珍しい?」


「あなた本当に何も知らないのね。最重要な話をこれからするわ」


 これまでとは打って変わって、向かい合った彼女からやけに力の入った説明を受けることになった。


「つまりこの地域は酒が不足してるってわけか」


「そういうこと。たまに入ってきても、足元を見た価格で売られているから手を出し辛いの。ところであなたは酒屋さんなの? 他の国から行商か何かで来たとか?」


「鋭いな。まあ、新規開拓というかそんなところだ」


 この能力について説明はできないし、できても不審がられるだろうから話だけでも合わせておくのがいいだろう。


「どおりで変わった服を着ているのね。あら、でも手ぶらでここまで来たの?」


「量が量だけにな。あとから運んでもらう手筈になってるんだ。そろそろいいか?」


「引きとめて悪かったわね。それはそうと、この街に滞在するのならまた会うこともあるでしょう。その時は()()、よろしくね」


 なぜだか興奮気味に彼女は俺の手を握ってきた。

 それにしても、あの強さからは到底考えられないくらいの華奢な腕をしているから不思議だ。


「おう、またな」


 そう言ってアリスフィアとはこの場で別れた。


「クレハさん、私の頬を思いっきり張ってください」


 街中で再会しての第一声がこれだった。

 彼女は頭でも打ったのか。

 いや違う。

 初めからおかしかったから、これは間違いなく正真正銘正気のフェリスだ。


「その必要はない。それに俺は女に手は出さない主義だ」


「でもそれでは、クレハさんを置き去りにした私の気が済まないんです!」


 一見彼女は申し訳なさそうな雰囲気を醸しだしてはいる。


「フェリス、いいんだ。過ぎたことはもう気にすんな」


「さて、お許しも頂いたところで! 先ほど街の方から頂いたパンでも食べませんか?」


 この間たった五秒すらも経っていない。

 この変わり身の早さにはニワトリを彷彿とさせるものが確かにある。


「そうだフェリス、今日は疲れただろ。その前に肩でも揉んでやるよ」


「あっ本当ですかっいだああああい! どど、どうじででずがぁ!?」


 背後から彼女の肩をがっちりと押さえつける。


「余韻って言葉は知ってるか? お前からは全体的に感謝と反省を感じないんだよ。あと、手は出さないとは言ったが関節を極めないとは言ってないから」


「あがががががが」


「お前が今後変な動きを見せるたびにこうやって肩を痛めつける。俺に何か言いたいことはあるか?」


「ゆるじでぐだざいぃ」


 彼女にはこの後ギブアップの概念だけは教えておいた。

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