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第8話 俺は今から全力で打つ!

「こんにちは、ルーグロエギルドへようこそ。今日はどんな……あれ? 誰かと思えば酒場のマスターさんじゃないですか~」


 翌日の昼頃。

 明るい声で声を掛けてきたのは、ギルドの受付譲であるリンスさんだ。

 愛想のいい彼女は仕事も完璧にこなすことで有名らしい。

 そしてなにより、男性陣が話題にするのは机に乗っかってしまうくらいの胸部だ。

 そいつは凶器にも思えるほどでとにかく目立つ。


「こいつと一緒にいつかのリベンジをしたいと思ってな」


「こんにちは。よろしくおねがいします!」


 フェリスに視線を移す。

 カウンターに届くか届かないくらい小柄な彼女はぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「そういうことでしたか。それでは、お手数ですけどこちらの用紙に必要事項をご記入くださいね~」


 以前と同じ手続きを済ませると、呼ばれるまでギルド内で待機することになった。


「あの、クレハさん……。さっきリンスさんの胸ばかり見てませんでした?」


 フェリスはじとっとした視線を向け頬を膨らませている。


「目が勝手にそっちに行っちゃうんだから仕方ないだろ」


 ううぅと彼女は胸に手を当ててうなだれ始めた。

 本当こいつは面白いな。

 その様子に笑っているとギルドの係員がやってきた。


「お待たせしました。クレハさんは前回と同じく正面の部屋へ。フェリスさんはヒーラー志望とのことですので別室にて適正試験を行います」


 俺達は別々の部屋へと通されるようだ。


「いよいよ修行の成果を見せる時だ。いいかフェリス、不安に惑わされるな。自分だけを信じろ。余裕だ。いけるぞ。普段どおりやればなんてことはないからな」


 緊張気味な様子の彼女に声を掛ける。

 その言葉は言うまでもなく、気を抜けば負けてしまいそうになる自分自身に向けたものだ。

 もうフェリスに格好悪いところは見せられない。


「はい、わたしの意志の力でかならず突破してみせます。クレハさんもどうかご武運を!」


 ハイタッチのようにして手の平を合わせたあと、彼女と別れ試験部屋へと入った。


「よぉーく来た! 我は冒険者試験官、ガラハッドであーる! ……む? お主の顔には見覚えがあるぞ!」


 そう名乗った屈強な男は、大剣を地面に突き立て鎮座していた。

 周りを見渡す。

 ずっと建物内だと思っていたそこは、いつの間にか森林のような場所に変わっていた。


 このギミックは見たことがない。

 もしかすると施設内に掛けられた魔法のようなものなのかもしれないな。


「ああ、あの時は確かに手も足も出なかった。でも今日は一味違うところを見せてやるよ」


「その意気や良し。それが口だけではないことをこれより我に証明してみせよっ!」


 そう凄むとガラハッドは巨体を揺らして向かってきた。

 まだ剣は抜かない。

 まずは太刀筋を確認しつつ体をかわす。

 力だけはあるようだが単調で、すべてを捌くのは容易に思える。

 明らかに加圧するまでもなく勝てるだろう。

 あの鬼のアリスフィアと比べればなんてことのない相手だ。


 だが、一撃で決めるとなれば話は別。


「どうした。避けてばかりでは合格などほど遠いぞ!」


「よく聞け、俺は今から全力で打つ! 本気でぶっ飛ばすからしっかり防御しとけよ!」


 ガラハッドに宣言するとぴたりと動きが止まった。


「くくく……。ははは、そいつは大きく出たな小僧! その本気とらを見せてみるがいい!」


 アリスフィアから譲り受けたロングソードを抜いて駆け出す。

 四発分を一度に消費して残りMPを1になるように調整。


 余裕綽々(しゃくしゃく)と言った表情をした防御姿勢のガラハッドは目前だ。

 傍から見れば俺は一介の酒場のマスター。

 おまけに一度試験に落ちている。

 どうあがいても下に見られているのは間違いない。


『クレハさんがあの時、わたしの手を引いてくれたから』


 その声だけが俺の背中を押して、力を込めると体中に熱を帯びていく。

 フェリスの笑顔が浮かぶと両眼は極限まで大きく見開いた。


「いっけええええ!」


 突きの動作とともに最大放出(リリース)

 ガラハッドの武器を弾く。

 続けて(まと)った鎧にまで到達すると、その破片が飛び散るのが見えた。

 勢いのまま大きく吹き飛んだ巨体は、遠くの大樹に激突して止まった。


「み、見事なり……!」


 冒険者試験官がそう口にすると、木に囲まれていたはずの部屋は元に戻っていた。


「クレハさんはこういう時も落ち着いてますよね」


 ギルドからの帰り道、隣のフェリスと目が合う。


「いや、今すぐ走り出したい気分だよ。それこそあの草原でのおいかけっこのようにな」


「あれは決死の逃走じゃないですか。そうだ、お店まで競争しません?」


 フェリスはくすっと笑ったあと駆け出した。


「いいだろう。俺に勝とうってのか!」


 清清しいくらい青い空の下、すれ違う人達の笑い声がよく聞こえる。

 今日はいい日になったな。

 俺は晴れやかな気持ちでフェリスを追いかけていった。

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