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第4話 あなたには負けるつもりありませんから

「どうしてそれを……」


「ああそれはね」


 ミツキはこう語りだした。

 この世界の住人の名前には共通の特徴がある。

 男性の名前には濁点がつき、女性には『ス』がどこかしらにつくのだと言う。

 それに該等しなかった俺の名前――クレハと聞いて引っ掛かりを覚えていたらしいが、確信するにはまだ足りなかったようだ。


「まさかその為にすき焼きを出したのか?」


「ご名答! で、『すき焼きにうどん』が通じたからこれは間違いないと思ってさ」


「と言うことはミツキもそうなんだな……?」


「まあね! いやー、こんな近くにいるもんなんだね転生者って」


 軽い調子で笑う彼は、現段階では明るいお調子者といったところか。


「俺も今衝撃を受けっぱなしだよ」


「しっかし、クレハって酒場の店長なんだよね。スタッフ募集までして、めちゃくちゃやり手なんじゃ?」


「ああ、それにはちょっと色々あってな」


 転生からこれまでのいきさつをお互いに話すことにした。

 彼の本名は石狩美月いしかりみつきと言い、バイクの単独事故によってこの世界へとやってきた。

 そしてこの街を訪れるまでは、流れの料理人として各地を転々としていたのだそうだ。


 依然として俺の最後の記憶は抜け落ちたままだ。

 だが、それが判明したところで今更何かが変わるわけではないだろう。


「なるほどね。だったら安心していいよ。オレ、『神の舌』スキル持ちなんだ!」


 神の舌の効果は、その食材を見ただけで味や適した調理方法がわかるというものらしい。

 どおりで味見なんかをしなくても平気だったわけだ。

 そして彼もまた戦闘向きの能力値ではなかったようで、その点においてもまた共通項が増えたことになる。


「そいつは頼もしい限りだ。早速今日から腕を振るってもらわないとな」


「あ、でも一ついい? 今後のレア食材狩りに付き合ってもらいたいんだけど。それってランクの高いモンスター……じゃない。ベアルの棲む場所に行かないといけないんだよね」


「いいだろう。その時はギルドから冒険者を手配するから、あらかじめ日程などを教えておいてくれ」


 意外といった表情をした彼は、へえと呟いた。


「今ので嫌な顔されると思ってたんだけどな。クレハってものすごいお人よしだね?」


「ハナから冗談のつもりだったのか?」


「ごめんごめん。言っても初対面だし軽いジャブくらいは打っとこうかなって思ったんだけど、まさか本当に許可が出るなんてさ!」


「まったく抜け目のないやつだな」


 ミツキがどういう素行の人間なのかはまだわからない。

 ただ男同士でないと話しにくいことも少なくはないわけで、なにより転生者同士隠し事をせずに済むのは気楽でいい。


「え、給仕の追加募集ですか?」


 翌日、営業開始前の店内でそう告げるとフェリスが小首を傾げた。

 ミツキの件と同時に、今後の店の変化も頭に入れて先手を打っておいたことがある。

 料理人募集の張り紙の下部に小さくそれを記しておいたのだ。


「ああ、これから客が増えていくのは間違いない。そうなるとフェリス一人じゃ手が回らなくなる可能性が高いからな」


「クレハさん、お気遣いありがとうございます。それでどんな人が来るんでしょう?」


「聞いて驚け。なんでもお前のファンだと言う子だぞ」


「ふぁ、ファンですか……? どうしてわたしなんでしょう?」


 フェリスはあからさまに戸惑っている。


「以前訪れた時にお前に一目惚れしたんだとよ。どうしても一緒に働きたいと言うから、ひとまずお試しで入ってもらうことにしたんだ」


「えー。なんだか嬉しいような恥ずかしいような気がしますね」


「早くも後輩ができてよかったじゃないか。じゃあ、入ってきてくれ!」


 後輩、後輩と嬉しそうに呟くフェリスをよそに、外に待機させていた人物に声を掛ける。

 するとすぐに、彼女と同じくらいの背丈をした青髪ショートの少女が緊張の面持ちで店へと入ってきた。

 隣からはおぉ、と声が漏れる。


「早速だが正面に掛けてくれるか? それからこいつに自己紹介をしてみてくれ」


「フェリスお姉様。スゥです。頑張ります。よろしくおねがいします」


 彼女はこちらに一切目もくれずフェリスだけを見つめていた。

 熱視線ってのはまさしくこういうものを言うんだろうな。


「お、お姉様ですか? 普通にフェリスって呼んでくれて構いませんよ。よろしくおねがいしますねスゥちゃん」


 フェリスは一瞬こそは驚いていたが、スゥとがっちりと握手をすると微笑んだ。

 その後試しにシミュレーションと称し、俺を客としてスゥに一通り動いてもらったところ特に問題はなさそうだ。

 むしろフェリスより物覚えはいいくらいで今後に期待ができる。

 その反面フェリス以外に向ける愛想のなさが少しばかり不安だ。

 とにかくこれから慣れていってくれると信じよう。


 それから時間が経ち、それぞれが開店の準備を進めていた時だ。

 気付けばカウンターの正面に小さな人影がやってきていた。


「どうしたんだスゥ?」


「店長。雇ってくれたことには感謝します。でも、スゥはあなたには負けるつもりありませんから」


 それはどういう意味なのだろう。

 俺にだけ聞こえるようにそう言い残して、彼女はフェリスのもとへ舞い戻っていった。

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