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第1話 ほらほら、ちょーぜつびしょーじょからのおしゃくだよぉ~?

「ありがとうございましたー」


 店を開いたはいいが今のところ、思っていた客数は入っていないのだとジラルドは閉店後に言っていた。

 その口振りや表情から収益的に赤字なのだろうと予測はできる。

 恐らく俺に気を使っているのだろう、彼はその話にあえて触れようとはしない。

 だがそれは言われるまでもなく解決させてみせる。

 以前の客にもしっかりと周知をして、その上新たな客を呼び込む施策に着手しよう。


 その他にも問題がなくはない。

 まず一つはフェリスの豹変についてだ。


「最近食が細くないか? どこか体に不調があるならちゃんと言ってくれよ」


 それはこの店をオープンさせてから間もなくのことだった。

 平均して一食三皿は平らげていた彼女が一皿しか食べなくなっていたのだ。


「えっ……あ、クレハさんっ。大丈夫ですよ。本当に何でもありませんから……」


 いつもならおよそこんな反応は示さない。

 だが、俯きがちにもじもじとしたこの動きを何度となく目にするようになった。


「本当にか?」


「ひゃあ!?」


 顔を覗き込むと彼女は慌てた様子ですぐに離れていく。

 近頃はこんな風でどうにも調子が狂って仕方がない。

 もしかすると肩固めの影響で俺は避けられ始めているのかもしれない。


 そして第二の問題はこいつだ。


「それはあなたを意識しだしたからではないの? 好きだからこそ相手を避けてしまうことだってあるでしょう?」


 夕方過ぎの、客もまばらな店内でカウンター席のアリスフィアはそう口にした。

 現状店自体は一人で回せていけることもあり、給仕であるフェリスには下がってもらっている。


「俺があいつに好かれてるとでも言うのかよ」


 そもそもの話、彼女に対しては肩をめたくらいのことしかしていない。


「初めに見た時、あなたたちは恋仲なのかと思っていたけれど違うようだし。それが急に態度が変わったということは、フェリスちゃんが恋心を抱き始めた可能性は十二分にあり得るわ」


 彼女は自分の言葉に自信満々に頷いた。


「さすがにそれはない。俺はそんな目で見たことないし向こうもそうだろうよ」


「思いのほか鈍感なのね、クレハって」


 彼女はグラスを傾け中の酒を覗き込みながら言った。


「それはどういう意味だよ」


「実を言うと相談を受けているのだけれどね。でも、黙っていた方が面白くなりそうだし内容までは言わないでおくわ」


「あっそ。そんなことよりそろそろ飲むのやめておけよ」


「どうして? お酒だったら私、まだまだ余裕があるわよ」


「知らないのか? 人間適量がちょうどいいんだよ。何事も程々が一番だと偉い人もそこまで偉くない人も皆言ってる」


「そうね、わかったわ。あと一杯だけにするから」


 そう言って彼女は空になったグラスをこちらに寄越す。

 これで終わると思ったら大間違いだ。

 何を隠そうこの『あと一杯』が出てからが厄介であり、結局のところ今日もこうなった。


「クレハぁ。君も飲も~よ! ほらほら、ちょーぜつびしょーじょからのおしゃくだよぉ~?」


 アリスフィアは深酒をすることで、見るも無残な別人のようになってしまうのだ。

 初めてその痴態を目にした変顔女神フェリスをもってして、「あのアリスさんみたいな人誰ですか?」などと言わしめたのも致し方のないことだろう。


 戦乙女、冷静沈着、容姿端麗に続く新たに判明した顔。

 彼女は絡み酒の名手でもあったのだ。


「おい、俺は下戸だって言ってるだろ」


「クレハは下戸。げこげこ? げこげこなのぉ~!?」


 知性を微塵も感じない大笑いをした彼女は、そのまま頭をぶつけるような勢いでカウンターに突っ伏し眠ってしまった。

 そんなだから俺は人を変えてしまう酒というものが嫌いなんだ。


「今いいか? またこのお客様なんだが」


 うへへと笑う酒臭いアリスフィアを背負ったまま、フェリスが使っている個室のドアをノックした。

 こうする他ない。

 いつものように彼女に引き渡し部屋で朝まで寝かせる算段だ。


「あっ……。えっと、クレハさんもいつも大変ですよね」


「まったくだよ。じゃあよろしく頼むなフェリス」


「はい、任せてくださいっ」


 そう答えた彼女は昼の時よりも落ち着き払っていて、俺なんかを意識しているはずがないのは明らかだ。

 アリスフィアが変なことを吹き込むから、こっちが勘違いをしてしまいそうになるじゃないか。


 以上諸々の問題はあるが、二人の件は一度置いておこう。

 何はともあれ店の存続を考えるべきだ。

 それこそが現状での最重要課題なのは間違いない。

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