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第1話 あなたは残念ながら死んでしまいましたぁ!

「酒です」


「は? 俺耳がおかしくなったのかな。もうちょっと詳しく言って欲しいんだが?」


「ですから、あなたは『手から延々とお酒を出すことができる』能力を得ました」


「いやちょっと意味がわかんない。あんた、とりあえず責任者を呼んでくれ」


「ふふ、ここでの責任者とでも言うのですかね。どうも、わたしが女神フェリスで~す!」


 テへペロに加えてダブルピースをした女が俺に微笑んだ。


「なんっだこの夢ェ!!!」


 一度大きな声を出せば落ち着くかと思ったら、まるで無意味なことだった。

 何かにショックを受けて、居酒屋で飲めもしない酒をあおったところまでは覚えていているのだがその後がすっぽり抜け落ちている。

 そして気がつくとこの自称女神・フェリスが金色の長い髪を揺らし、満面の笑みで俺の目の前に立っていたのだ。


 辺りを見回しても知っている風景ではない。

 どことなく神殿じみていて、この女込みでここはアニメやゲームの中の世界のようにも思える。

 覚める様子もないがどうか夢であって欲しいところだ。


「今のって、あなたの国での挨拶なんでしょうか?」


 言うとフェリスのくりっとした青い瞳が覗きこんだ。

 国ってことはやっぱり外国人なのか?

 それにしても流暢(りゅうちょう)な日本語だな。

 そんなことを思っていると彼女の顔の周りがやたらキラキラと輝き出した。


「あぁ? そうだがやってみるか女神様よぉ」


「なんっだこの夢ェ!!!」


 静かなこの空間に女の声が木霊(こだま)した。

 ぶっさの一言に尽きるんだが、こんなのノータイムかつ全力でやる普通?

 だが、整った顔が歪んでいくのも案外ありっちゃありなのかもしれない。


「俺白目まで剥いてねえし。ていうか、いいのか仮に女神とあろうものが騙された上にそんな醜態(しゅうたい)を晒して」


「え、まさか嘘を教えたんですか!? ひどいですっ!」


 女は途端に目がうるうるとしてきた。


「ま、茶番は置いといてだな。ここはどこなんだよ」


「この女神フェリスを茶番扱いするなんて……!」


 女騎士のようにキッと睨んでくるのも悪くない。


「あ、ごめんつい」


「ふ、ふふ。わかればよいのです。急なことで混乱されているのですよねっ?」


 マウントを取ってきそうな得意げな顔に少し腹が立った。

 それにしてもこの女神様、表情コロコロすぎないか。


「どうやらそうみたいだ。女神さんよ、今どういう状況なのか教えてもらえないか?」


「え? ですから言いましたよね。手からお酒が」


「そこじゃなくてその前だ。そもそも俺ってなんでここにいるわけ?」


「あっ。そういう話でしたか。白鷺呉羽(しらさぎくれは)さん、あなたは残念ながら死んでしまいましたぁ! うふふっ」


 すっごく楽しそうに言ってのけるのがクソイラっとするな。


「あのさ、もうちょっと残念そうな感情込められないわけ? 仮にも俺死んでるんだよな?」


「あっ確かにそうですね! ハイ、あなたはぁ……しんでぇ……しまいましたぁ……~ん」


「今から頬を平手で打つからな。手加減できるかは祈れ」


 言って右腕を大きく振りかぶる。


「なんでですかぁー!?」


 性格はともかくこいつのリアクションだけは嫌いじゃない。

 まあ、なんやかんやあってひとまずこの場は落ち着いた。


「そうか、これは夢なんかじゃなかったわけだな」


「それにしても死んだと聞かされてもクレハさんは落ち着いていますね」


「なんでだろうな。記憶がところどころ欠けてるし、その分変な執着がないのかもしれないな」


「ああ、そうなんですね……」


 フェリスは俯いてしまった。


「おいおい、お前が気ぃ落としてどうすんだ。で、俺をウンタラカンタラとやらに送ってくれるって話なんだろ?」


「正しくはウルディームガルドです。ご本人であるあなたの同意が取れましたので、これより転送を開始いたします」


「よし、何かちょっとワクワクしてきたな」


「あの、クレハさん。次の世界ではきっといいことが沢山あります。だから安心してくださいね。わたしはいついかなる時も見守っていますっ!」


 そうそう、そういうのでいいんだよ。

 不覚にもドキッとしてしまうくらいの眩しい笑顔に見送られるなら本望だ。


「ありがとなフェリス。さーて、ちょっくら行ってきますかね!」


 この先には何が待ち受けているのか。

 俺は新たな旅立ちに首をコキコキ鳴らす。

 フェリスに手を振っていると、突然光に包まれ目の前が真っ白になった。


「いてて。ものすごい落っこちてった感覚があったな。ん?」


 転送とやらが成功したのか、先ほどの神殿ではない場所に来たようだ。

 気付くと柔らかい肉らしきものが俺の上に乗っかっていて、サラサラとした毛のようなものが鼻をくすぐると甘い匂いが空気中を漂う。

 なんだか心地がよく、しばらくここで横になっていたい気すらしている。


「……ですか」


「あ?」


「いつまで抱きしめてくんかくんかしてるんですかー! この、クレハさんの災厄級ド変態!」


「いや、お前も来るのかよ!」


 どうやら俺の上にずっと覆い被さっていたらしい。

 女神フェリスはじたばたと暴れ始めた。

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