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忙しいけど、忙しさがあれこれ違うから頑張れる

 旅はその後も順調で、こんな場所、二度と来ないだろうからと薬草も採取していた。薬草は乾燥させて使うことになるため、採取したらすぐに乾燥させて袋に詰める。

 袋はバリーが複数、持っていて、品種毎に分けておく。

「ソニアが乾燥して嵩を減らしているからたくさん採取できるな」

「薬草は価格が安定しているし、初級ポーションなら私も作れるのであった方が安心だと思って。買い取りに出すの、冒険者ギルドがいいかな?」

 バリーがうーん…と首を捻る。

「森を出て一番近い町だとオレを見殺しにした冒険者がいるかもしれないんだよなぁ。だからギルドには寄らずに物資の補給だけして先に進みたいと思う」

 町から町をつなぐ馬車があり、値段も庶民向けに設定されている。とはいえ、私、現金を持っていないけど。

「それくらいオレが出すよ」

 ロズヴァルト王国も領地を管理している貴族により住みやすさが変わる。

 バリーの故郷は公爵領で差別や貧困が少ない町らしい。

「フィリッツアム公爵領の中で二番目に大きな都市マルカ。ソニアの身分証はマルカで作ろう。市民特典があるからさ」

 新年に配られるお菓子や、結婚や出産の祝い金など、身分証によって特典がつく。

「へぇ、いい町ですね」

「公爵領に入っちゃえば、伯爵もガタガタ言ってこないと思う。フィリッツアム公爵様は公平な方だから、ソニアのことも守ってくれると思うよ」

 ブロドニツァーナ王国にだってまともな貴族はいると思う。いや、王子達だって決して極悪人ではなかった。ただ致命的に想像力がないというか、尽くされることに慣れ過ぎていたというか。

「ロックリザードの皮と薬草はマルカの町で売ろう。その方が騒ぎにならない。たぶん…、オレは死んだことになっているだろうし」

 移動で必要な現金はバリーが持っているというので、町に立ち寄るのは最低限にして一日でも早くフィリッツアム公爵領に入ることを優先させた。




 フィリッツアム公爵領第二の都市マルカ。大きな町には検問があり、バリーが身分証を見せると驚かれた。

「死んだって報告がきてたぞ、本物か?アンデッドは町に入れられねぇぞ」

「本物に決まってんだろ。幼馴染の顔を忘れんな」

「そりゃ、おまえのこと、知ってる奴はあんま信じてなかったけどな。そっちのお嬢さんは?」

「オレの命の恩人だよ。まだ身分証、作ってないから金、払う」

「お嬢さん、決まりだからこっちの魔道具に手、乗せてくれ」

 乗せると紙に文字が浮き上がる。

「治癒師、医術師、看護師、薬師、調香師、錬金術師…、ちょ、どんだけジョブスキル、もってんだよ。治癒師のレベル75って、やけに高いな。他のレベルは一桁が多いけど…、いくつあるんだ?戦闘系も一通りあるな。おいおい、本当に剣とか弓とか槍、使えんの?」

 使えなくは、ない。護身術とは別に一通り習って、それなりに実戦でも使ってきた。

 何故か?

 騎士が守るのは『王子率いる勇者パーティ』であって、そのお世話係である平民ではない。そばにいれば自動的に守ってもらうことにはなるが、優先順位は最底辺…どころか、真っ先に見殺しにされる。

 ぼーっとしていたら戦闘の邪魔になり、かといって遠く離れたところにいたら怪我人の治療が遅れて怒られる。

 最初の頃は本当に危なくて、死にたくない一心で武器の扱いや体術を覚えた。

 当たり前の日常すぎて忘れていたけど、自分のスキルとして記録が残っていると聞くとちょっと嬉しい。母国では『治癒魔法も使えるお世話係』という認識で、ジョブスキルも調べることなく『雑用係』で済まされていた。

「ん~…、強盗とか詐欺とか物騒なジョブはなさそうだな。仮の身分証、発行しておくよ」

 身分証を受け取って、マルカの町に入った。

「じゃ、うちに案内するよ。今夜は美味しいものを食べて布団でゆっくり眠ろう」

 それには私も賛成で、バリーのご家族が経営している宿屋に向かった。




 バリーのご家族…、お母さんとお姉さん夫婦はとても喜んでくれた。

「死んだとは思ってなかったけど、やっぱり顔を見ると安心するねぇ」

「ソニアと出会ってなければ死んでたよ、間違いなく。命の恩人で…、嫁にする予定だから母さん達もそのつもりで面倒みてやって」

 嫁…って、本気だったのかと、慌てて挨拶をする。

「ソニアです。よろしくお願いします」

「まぁ、可愛らしい子ねぇ。ふふ、お母さんって呼んでね」

「ちょっと気が早いと言いたいけど、私もお姉さんって呼ばれたいわぁ」

「じゃ、僕はお兄さんだな」

 お母さんはオーサさん、お姉さんはセリーナさん、お姉さんの旦那さんはリクさん。だけど、言葉にあまえてお母さん、お姉さんと呼ばせてもらおう。

 その日は旅の疲れもありお湯をもらって早めに寝た。バリーは自分の部屋で、私はお母さんの部屋で。

「知り合いが来た時に泊まれるように、旦那のベッド、そのままにしてあるのよ~」

 旦那さん…、バリーのお父さんも冒険者で魔物との戦いで怪我を負い、なんとか町まで戻ってきたが治療の甲斐なく亡くなった。

「あの子が冒険者になるの、反対だったの。でも才能があったみたいでどんどんランクがあがっていって…、なのに突然、死んだって聞かされて」

 助けてくれてありがとうと何度も言われた。

 何度も言われて気がついてしまった。

 今までこんな真剣に、心から感謝されたことがないってことに。

 まったくないわけではないが、身分が高くなればなるほど『当然』とばかりの態度になる。

 お礼を聞きたくて治癒をしているわけではない。

 仕事だ。

 仕事…、あれ?でも、私が給金を貰っているわけではない。教会に支払われて、そこから私に『必要経費』が渡されている。本当にきっちり必要経費分だけで、屋台でおやつを買うゆとりもなかった。

 というか、私、ちょろすぎないか?

 これは一人であれこれやったら駄目な予感しかしない。




 もやもやしていてもぐっすりと眠ってしまった。お布団、最高。

 宿屋のお客さんが引けた後、バリーと一緒に食堂で朝食を食べる。焼き立てパン美味しい、卵スープも美味しい、幸せだぁ。

「ぐっすり眠れたか?」

「うん。バリーは?疲れ、残ってない?」

「オレは自分の家で、自分の部屋だからな。ソニアが大丈夫なら、ギルドに行ってギルド証を作ろうか」

「付き添ってくれる?」

「もちろん」

 公的機関のギルドで詐取されるとは思えないが、いろんな人がいる。一人で行ったら絶対にトラブルになりそう…と思っていたら、悪い予感が見事に当たってしまった。


「は?ソニアは登録できないって、なんで…」

「冒険者ギルドの規定です。登録時の年齢が十二歳以下ならスキルが初級のみでも登録できますが、十三歳以上は中級、十八歳以上は上級と決められてします」

 私のジョブスキルはすべて初級のみだった。

「でも治癒レベルは75もあるし、実際、ソニアの治癒は初級じゃなくて特級でもいいくらいだ」

 ギルドの受付嬢がため息をついて首を横に振った。

「規定です。バリーさんの推薦でも、曲げられません。それに…」

 チラッと私を見て言う。

「たまにいるんですよ。男性ばかりのパーティに入って、ちやほやされるのが目的って女の子が。そーゆー子が入ると風紀が乱れるし、痴話喧嘩でクエストが進まないし、ギルドも迷惑しているんです」

 姫プレイとか、パーティクラッシャーと呼ばれているそうだ。そんな女の子がいるのか…と思ったが、そういえば身近にいたな。男性にちやほやされるのが好きな人。

「バリーさんも落ち着いてください。確かにちょっと可愛い子ではありますが、本当にそこまでの実力があるんですか?」

 そう言われると、自信がない。だって…、初級しか使えない。

「バリー、ギルド証って冒険者ギルド以外でも作れるよね?」

「あ?あぁ…」

 そうだなと頷く。

「商業ギルドか薬師ギルドか…、イレーネ湖で採取した薬草があるから薬師ギルドに行けば…」

「えっ?」

 ギルドの受付嬢…と、横にある納品カウンターの男性職員がガタガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。

「イレーネ湖の薬草って、何があるんだっ!?」

 男性職員に聞かれたが、バリーは『オレが採取したわけじゃない』と首を横に振った。

「採取したのはソニアだから、ここでは納品できないよ」

「い、いや、でも、バリーが採取したってことにすれば…」

「はぁ?ギルド規定は絶対なんだろ?だからソニアは冒険者ギルドでは登録できない。オレは手柄の横取り、なんて不正はしたくない。仕方ないよな、それが決まりなんだから」

 いや、でも…とモゴモゴ言う職員にバリーがため息をついて言う。

「オレ、ギルドの紹介でイレーネ湖の採取クエストに参加した結果、一人、取り残されて死にかけたんだけど?これってさぁ、ギルド職員もグルでないと成立しないよな?」

「それは…、うちの支部のことじゃないし。どうしてもならギルド長に言って調べられなくもないけど…」

「こっちの希望は一切、聞く気はないけど、品物は置いていけって?強盗かよ。トラブルは避けたいから他のギルドをあたるよ」

 そう言うと私の肩を抱いてさっさと歩き出した。

「いいの?」

「心配しなくてもマルカは大きな町だ。冒険者ギルドもこの町の中に四つある。どうしても行かなくちゃいけない時は、他の支部に行けばいい。普通に断られるだけなら我慢したけど、ソニアを侮辱したのは許せそうもない。あの受付嬢がいるうちは、絶対、行きたくない」

 なるほど。私のために怒ってくれたんだとほんわかする。ほんわかしている場合ではないけど。

 マルカは大きな町で、どれくらいの広さがあるのかまったくわからない。ギルドも支部もたくさんありそうだ。

 それにギルド証が一番簡単に発行できるだけで、身分証は役所でも作れる。ただそこは役所。生まれた時に誰それの第一子です。という登録は簡単だが、他国からの移住組は審査が厳しくて時間がかかる。

「考えてみたらオレももう、危険なクエストは受けたくないし。ソニアと近場で薬草採取なら冒険者ギルドである必要はないんだよ。ってことで、ここで聞いてみよう」

 バリーが指さした看板には薬瓶が描かれていた。

「いらっしゃいませ~、薬師ギルドへようこそ~」

 冒険者ギルドに比べると小ぢんまりとした建物で、受付嬢?もだいぶフレンドリーな雰囲気だ。

 冒険者ギルドの受付嬢は気の強そうな美人さんだったが、こちらは親近感を感じる可愛らしさ。ただし年齢不詳。

「どのようなご用件ですか?あ、もしかしなくても新婚さんでしょう。むふふ、ワタクシそういったことには鋭いのですよ。いろいろとイイ薬や便利グッズがあり…」

「違う、違う、新婚ってのは否定しないが、今日はギルド証を作りに来たのと、買取依頼だ」

「薬師ギルドに登録ですか?でも…、そちらさんは冒険者ギルドに登録していますよね?それも特級のSランクでしょう。アナタ、この町の有名人ですよ」

「冒険者ギルドに断られたんだよ」

 いきさつを話すと『薬師ギルドではランク不問』と言われた。

「一応、鑑定はさせてもらいますけどね。ギルド証なしでこの町に入ったのなら、一度、やっていますよね?」

 鑑定の魔道具に手を乗せると、紙一杯に文字が浮き上がった。

「また、とんでもない数のジョブスキルですねぇ。え、薬師ってあるじゃないですか。薬、作れるのですか?」

「初級ポーションくらいなら」

「それが一番、需要が多いので是非、作ってください。うちは初級、大歓迎ですよ。もちろん品質チェックはしますが、粗悪品も貧民街では使いますからね。全部、買取ますよ。子供の熱を下げるのにお手頃価格でよく売れるのですよ」

 良品質は定価で売るが、粗悪品は半額以下となる。効果も半分だが、ちょっと熱を下げるとか、だるさや痛みを軽減させる程度には効く。

 私だけでなくバリーも薬師ギルドでギルド証を作った。

「宿屋が暇な時は二人で採取に行こう。オレがいれば難易度の高い場所にも行ける」

「二人とも素晴らしいスキルではないですかぁ、いやぁ、優秀、優秀。これは買取も楽しみですねぇ」

 イレーネ湖で採取した薬草を見せると、狂喜乱舞された。いや、本当に踊り出して、奥で作業していた職員が『ギルド長、なんで踊っているんですかっ?』と飛び出してきた。


「高値で買い取ってもらえたな」

「うんっ。ロックリザードの皮も買い取ってもらえてよかったね」

「あぁ。他の冒険者ギルドに行くのもめんどうだったしな」

 薬師ギルドでロックリザードの皮もあると話したら、商業ギルドの職員を呼んでくれて買取の話をまとめてくれた。

『ロックリザードの皮を使う薬もあるけど、この量はいらないからねぇ』

『商業ギルドとしてはこのサイズのまま敷物にしたいですねぇ。迫力満点ですよ。形を整えた後の切れ端を薬師さんにお分けしますよ。捨てることになる切れ端ですから、無料でお渡ししますね』

『むっふっふ、そう言ってくれると思ったよ。さすが商業ギルド。冒険者ギルドと違って柔軟だねぇ。いや、すべて利益で解決と言うべきか』

『わかりやすいでしょう?』

 バリーが言うには買い取り価格にそう大きな差はないとのことで、今後は薬師ギルドメインで活動することにした。

「さて、金も入ったしソニアの生活用品、揃えるか」

「え、いいの?」

「着替えとか日用品とか必要だろ?あと、教会も行ったほうがいいな。治癒魔法を使えるってあとで知られるとこじれるかもしれない」

 地元の教会には結婚や子供の誕生でお世話になる。平民のための学校が併設され、孤児院なんかもある。

 仲良くしておいたほうが暮らしやすいのは間違いない。

「教会で週に一日、ボランティアで治癒するとかすれば、宿屋でも商売できるかも」

「商売?」

「ソニアの治癒魔法は初級かもしれないけど、神業だから、商売にしてもいいと思う」

 治癒魔法で商売…。できるのだろうか?

 そんなうまくいくわけないと思っていたが、教会に行き神父様にご挨拶をすると『その力があるとわかれば許可を出せる』と言われた。

「バリーの推薦でもさすがに確認なしで許可はできん。週に一度、一カ月くらい様子をみてからだな。フィリッツアム公爵領では標準料金が決められている。立地にもよるがこの辺りでは初級の治癒魔法一回で銅貨五枚」

 銅貨二枚で簡単な昼食が食べられるから、銅貨五枚だと平民にしてはちょっと贅沢な夕食程度。それくらいなら平民でも頼める。

「宿屋で商売をするのなら、近くの治癒院に挨拶をしておいたほうがいいな。時間がかぶらないよう、夜の営業にしてくれると町の人達も助かるだろう」

「それはいいかも。昼間は採取に出ることもあるからな」

 サクサクと話が進み、あれこれとやることが決まっていく。

 基本は宿屋の手伝いで、宿屋が暇な時間帯はバリーと一緒に採取。採取に行けない時はポーション作り。

 週に一度、教会へ行きボランティア。そして宿屋でも週に二日、治癒魔法を受け付ける。

 やることはいっぱいだが、五日働くと一日休みをもらえるし、大体、バリーと一緒にいるので一人で働きづめにもならない。

 しかも働いた分だけお金をもらえる。

 お母さんとお姉さんと華やかなデザートが売りのカフェに行ったり、バリーと話題になっていた大衆演劇を観に行ったり。そんな余裕もある。

 治癒魔法を続けていると次第に評判となり、ご近所の治癒院で『是非、技を伝授してほしい』と頼まれた。

 そこの治癒魔法師さんは私よりも年上の男性だが、『技術を学ぶのに性別や年齢は関係ない』と敬意を表した言葉遣いで頭を下げてくれる。

 嬉しいことにそう言ってくれる治癒師さんは何人かいて、月に一度、勉強会を開くことになった。

 毎日が充実していて、あっという間に一年が過ぎていた。

閲覧ありがとうございました。

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