第一話 危険な出会い!ダ女神アテナ!
初投稿ということもあり、序盤のキャラ説明パートを突っ走りたかったので6000字ほどあります。
「あぁーーーーー!!」
「どうしたのよいきなり大声なんか出して。だからモテないのよ。」
「何ブランド物買い漁って来てるんだよ!今月はまだ試合してないからファイトマネーも入ってきてないしダンジョン探索の稼ぎもショボかったから節約しろって言ったよなぁ!あとモテないは余計だ!」
俺の名前はアルト。んでさっきからぐだぐだ言い訳してるやつがアテナ。これでも一応高貴な“元”女神様らしい。元ね。
俺がこいつと大都市・ゲルニアのボロ家で二人暮らしする羽目になったのには深い事情がある。
あれは数か月前...
「ッシャァ!!今日は依頼人が太っ腹だったおかげで儲けたぜ!今日ぐらい安酒やめていいよなー♪」
珍しく結構な額を稼げたので全世界で人気ナンバーワンブランドの【ディオニューソス】の高級酒を片手に引っさげて帰ってた時だった。街の中心の大広間の噴水で座りながら泣きじゃくっている金髪の女の子がいた。
なんかかわいそうなので話を聞こうとしたが身なりを見た瞬間やっぱりやめた。
なんかとんでもなく育ちの良さそうな金持ち感が溢れていたからだ。別に僻みなんかじゃない。この世界では金持ちのお嬢様に平民の男が手を出そうものなら即刻投獄、最悪死刑なんてこともあり得るからだ。いや、そんな気全くないがただでさえこんなスポットで泣きわめいてる女の子に視線が集まっているのにダンジョン帰りでボロボロの身なりになった男が話しかけようものなら冗談抜きで通報されてもおかしくない。
「君子危うきに近寄らずっと。俺には夢があるんだ。悪いな。」
と呟き、しらばっくれた顔で女の子の前を横切りそのままマイスイートホームに直行しようとしたその時。
「おいおいおいおい」
とさっきまで泣きじゃくっていたはずの女の子が立ち上がり、真顔で歩み寄って来る。
「アンタこんないたいけな美少女が迫真の演技で泣きじゃくってるのに無視するわけ!?どういう神経してんのよ!」
と、俺の胸ぐら両手で掴んで揺らしながら叫んでくる。ああこれアレだ。よくいる喋ったら残念ってタイプのヤツか。てかスタイル良いな俺と目線そこまで変わらねーじゃん。
などとなんか放心状態になってどうでもいいことを考え始めていると今度はなんかワンチャン狙ってさっきまでは育ちの良さそうだったこの女の様子を命知らずにも伺っていた男どもに対して威嚇し始めた。
「何よアンタ達。羨ましいの?こうなりたい?」
「ヒィィっ!!スンマセンしたーーーーーっっ!!」
これでみんな逃げ出しちゃった。何こいつこっわ。ひょっとしてガチで関わっちゃダメなヤツ?もしかして地元ギャングのボスの娘?見物人が消えたのはいいけど本当にめんどくさい事になってきそうだこれは。
「わかった。わかったって。話は聞くから落ち着けって。」
「わかればいいのよわかれば。あなたよく見るとイケメンねー。おほほほほー。」
しつこそうなので仕方なく話を聞くことにした。見た目はいいのに本当に残念な奴だ。
「単刀直入に言うわ。女神アテナ様からの直接命令よ!アンタは私が修行をつけてあげるから魔王を倒しなさい!そしてこの私を天界に還すの!」
こいつは何を言ってるんだろう。たった今確信した。完全に痛い子だ。
いや、確かにこの世界じゃ神様は意外とそこらにいるよ?現に俺が今日買った酒のブランドだって創業者神様だからね。
それはともかく神様が何とか格闘家として食いつないでる下級冒険者にわざわざ修行つけに来る訳ないだろ。本来ならこっち側がとんでもない大金積んで土下座し続けてやっとお話になるくらいの話だ。
「はーん。さてはアンタ私を疑ってるのね。なら見せてやるわ。私の力をッ!」
そう自称女神が言い、両手から見たことのない不思議なエネルギーが放たれ、そこからスライムが出現したと同時に思わず声を出しながら驚愕した。
「ぎぇぇぇぇーーーーっっ!!」
明らかに転移魔法でそこら辺のスライムを拾ってきたのとは違う、魔法ではない何か神秘的な力をあの女、いや、女神様が使い、無からあのスライムを生み出したのだと本能的に感じた。
ので次にすることはただ一つ。
全力土下座だ。
「た、大変失礼いたしましたぁぁぁぁぁッッ!!こ、こここ、これまでの無礼をどうかお許しくださいぃぃぃッッ!!」
「なにその手のひら返し。チョーウケるんですけどー。クスクスー。ま、いいわ。面白いから許す!」
…こいつめ。
だが今はそんな場合じゃない。こいつが本当に神であるならば、名前からしてこいつはあの十二神の一員、アテーナー様に違いない。そんなんに逆らったんじゃ今後どんな目にあわされるのかたまったもんじゃない。
今はとにかく機嫌を取って何とかご機嫌な内に帰っていただかなければ。
「アテナ様の寛大な恩赦に感謝致します。これはほんのささやかな気持ちでございますが是非受け取っていただきたく存じます。」
仕方ないから持ってた高級酒を明け渡すことにした。
俺が飲みたかったのにチキショー。
「おうおう。お前意外と然るべき敬意は払えるじゃあないか。見直したぞ。」
よしこいつちょろいな。この様子じゃもう俺に恨みは無いようだし魔王討伐のために修行をつけるだのなんだの言ってたのは聞いてなかったことにして帰ろう。うんそうしよう。
「それじゃスタコラサッサーっと。」
「おい待てや」
容赦なく首根っこを掴んでくる女神おっかねー。
「私は今天界から追放されて困ってるのよ!魔王倒しに協力しないと永遠に帰れないかもしれないの!分かる!?」
今度は泣きじゃくりながらまた両手で胸ぐらを掴んで揺らしながら必死に頼み込んでくる。
感情豊かで幸せそうで何よりだ。
「追放ってアンタ何やってんすか!そんなヤバいことしでかした神に加担したら本当に天界から裁き下りそうなんでやっぱり手伝えないですよ!」
追放された神とか絶対ヤバいっしょ。うん。やっぱ無理。
「違うからねぇ聞いて聞いて!犯罪的なことはしてないのこれには深い事情があるの~!!」
地べたで大の大人が駄々こねてるよ情けねえ。まあ俺もさっき地べたに額こすりつけて土下座してたんだけどさ。
「あれは私がいつも通り天界でゴロゴロしてた時...」
強行突破しようとする駄女神。
「おい勝手に回想入ろうとするんじゃねーてか多分原因それだろ!ってうわっ!」
幻術のようなものをかけられ強制的に回想を見させられることになった。
~~~ある日の天界~~~
「クソ負けたッ!アルテミス!今度はマリモバイクで勝負よ!」
どこかで見たことのある女神が茶髪の子とゲーム機で遊んでいる。
「ごめんねアテナちゃん。そろそろ人間さんたちに恵みを与える時間なの。また後でね。」
とても生真面目で人間思いの優しい女神様だ。どこかのなんちゃって女神様(笑)とは大違いだ。
「えーそんなの後ででいいじゃんそれより続きしよーよー。」
茶髪の“真の女神”に抱きついて全力で仕事の邪魔しにかかる金髪の駄女神。どうやらこの女神はどこに行ってもこんな調子らしい。
「そんなこと言ってもパパに怒られちゃうからアテナちゃんも働きなよぉ~~。それに恵みをちゃんと与えてあげなきゃ人間さんたちもかわいそうだしぃ~~。」
などとアルテミス神が駄女神をなだめていると、
「だいじょーぶよ!普段からパパは私たちのこと見てないしそんな都合よく今日に限って見てるわけないじゃなーい。あははははー。」
となんかお約束のわっかりやすいフラグを建て始めた。
当然そんなフラグを建てておいて彼女たちのパパが見てないはずもなく、
すぐさま周りが神々しい光に包まれると同時に、
「バッカモーーーーーン!!!!!」
と、男の大声が部屋中に響き渡った。
「ひぃぃッッ!!」
さっきまで余裕ぶっこいいた駄女神とそれをやれやれと言わんばかりの目で見るアルテミス神。
「もうダメよ私は終わりよぉぉぉぉぉ!!!!!」
「私も一緒にごめんなさいしてあげるから。ね?」
ダメなほうの女神が良心的なほうの女神の胸元に泣きつく。
そんなこんなしてる内にパパ降臨。
「アルテミスちゃーん久しぶりー!!元気してたー?仕事の調子どぉー?」
いきなり怒鳴ってくるのかと思ったら意外とハイテンションのオネェ口調で話しかけるパパ。
「お久しぶりですお父様。特に異常もなく順調でございます。」
これはイケると感じた駄女神はアルテミスに続きそれとなく経過報告してごまかそうと、
「ひ、久しぶりねパパ!私もし、仕事は順調よ!もう順調すぎて困っちゃう!」
と報告する。
この女神にはまずまともに働くという選択肢がないのだろうか。
彼女の父親はその言葉を聞き、少し黙りこくってから、手を震わして
「お前がサボりまくってることぐらい昔から知っとるわーーッ!」
と叫び、手に持っていた杖で駄女神をぶん殴り部屋の壁にめり込ませた。
それを見てこりゃダメだといった様子で二人を眺めていたアルテミスも駆け寄り、
「お父様!今回が最後でいいから見逃してやってくれないかしら。」
と頼んだものの、
「いくらかわいいアルテミスちゃんの頼みでも今回だけはダメよ!この子は一回下界に追放して反省させなきゃ!」
とまたオネェ口調で反論する。そして追放と聞いてあの女神が反応しないわけもなく、
「つつつ、追放!?ねぇお願い次から仕事するから許してねぇ許してよぉぉぉぉぉ!!」
とワンワン泣きわめきながら懇願する。
「ダメじゃ!これでもうこのやり取り1001回目じゃぞ!!お前ちっとも変わらんどころか年々酷くなってるじゃろーが!」
正論で返す父親。もうこれじゃ無理だといった様子でアルテミスも諦めたと同時に泣きわめき続けてる女神がまばゆい光に包まれ、体が薄れ始めた。
「な、何これ!?本気で下界に送るつもり!?何か悪い冗談よね。そうよね!?」
立ち上がって足踏みして焦りはじめる女神。そんな女神に父親は、
「あ、そういうドッキリじゃないんで。よろしく。今回ワシが中々顔見せなかったのお前の代わりに仕事できるやつ捜して鍛えてたからなんだよねー。魔王倒したら使いの者出すから。じゃ。お元気で。」
と非常にも真顔で送り出す。
「ちょっとアルテミス!一緒にシュマブラしたりトケモンしたりマリモバイクした仲よね!?なんとか言ってやってよーーー!!!」
「あっ。お元気で。」
諦めきったアルテミスも笑顔で送り出す。
「アンタ裏切ったわね!この薄情者!」
などと女神が喚いていると本格的に彼女の体が薄れだす。
そしてとうとう消えるかという時に、
「あっ。言い忘れてたけどお前が育てた人間が魔王倒すかお前が魔王倒さないとダメだから。そこんとこよろしく。」
と父親が付け足す。
「なんでそんな大事なこと後から付け足すのよ!てか本当に嫌なんですけど!助けてくださいゼウスお父様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
回想終わり
「いややっぱり原因それじゃないすか!」
「私はちょっと一休みしてただけよちょっと!」
…今度図書館に行って辞典で『ちょっと』と『一休み』の意味を調べておこう。
「そこでアンタにとってありがたーーーい提案があるのよ!」
何事もなかったかのように得意げな顔で話を続ける女神。このめげない心だけは是非とも見習いたい。
「私をアンタの家に住み込ませなさい!寝床と食費くれたら無償でアンタを鍛えてあげる!私こう見えて人間の指数で表せばレベル6なのよ!てかご褒美しかないんじゃぁない?寝床と食費だけでこんな美少女が住み込みなんてご褒美しかないじゃない!」
ご褒美、というところだけ少し引っかかるが確かにおいしい話ではある。本来なら神に修行を請うなんて一日だけで俺の家賃分かかるなんてザラじゃないがそれを無償、なんてまあ願ってもない話だ。
それに人類の頂点の超人や下界に移住して来た神々でレベル5、魔王軍の幹部とやっと渡り合えるかというくらいだというのにレベル6と来た。
こいつが見かけによらず神だというのはもう紛れもない事実。それに本当にこいつの正体があの十二神のアテーナーだとすれば本当にレベル6なのだろう。この話、乗ったな。
「わかりました。是非ともよろしくお願いします!」
「よろしくね!!アルト!」
俺の挨拶に本当にうれしそうに返すアテナ神。あれ?笑うとめっちゃ可愛い。
じゃなくて。
「俺の名前、知ってるんですね」
「えぇ。試合を見てアンタを知ったからね。この町格闘技人気だから一発賭け...じゃなくて観戦しに来た時に見つけたのよ。」
家まで二人で歩きながら話す。
「なるほど。超大物神のアテーナー様はお父様に家から追い出されてまず近くのこの町で一発狙って賭けと。」
「なな何でも分かったのよ!?アンタただ者じゃないわね!?」
マジで不思議そうに慌てる女神。やっぱりアホの子らしい。さっき自分で口走った自覚すらないらしい。
「ま、それは置いといてどうです?ちゃんと儲かりましたか?」
「えぇ。もちろん。ミーハーなやつらははムキムキマッチョの超デカい獣人に賭けてたけど私はアンタが勝つってわかってたわよ。アンタのその赤毛交じりの白い髪にあの激しい戦い方。ベルン人でしょ?」
得意げに話す女神。こういう可愛らしげがあるとこはあるのだが。
「やっぱり神様は物知りだなぁ。とっくの昔にほぼ滅んだ民族のことを知ってるなんて。」
などと会話してると、そろそろ人混みの多い大通りを抜けて俺の住んでいる町、オーリー町に差し掛かる。
ここはそんなに活気溢れている訳ではないが家賃の割にゲルニアの中心部、特別区にすぐ行けると中々に良い現在人気上昇の町だ。
だがまだまだ発展途上の町ということもあり、近所づきあいでめんどい奴と関わる事も少なくない。
さっきからジロジロと野郎どもの目線を感じる。
「おいアルト!お前こんな美人の女の子なんか連れやがってよぉ!俺は悲しいぜ!ちょっと大会で名前あげたからってよぉ!」
ついにダル絡みしてきやがった。しかもなんか隣の人美人とかいう単語に露骨に反応しだしたし。
「あらあら私然るべき敬意が払える人間は大好きよ。でもごめんね。私たち同じ志を誓い合って共に暮らすことを誓い合った仲なのよ。」
こっちもこっちで色々と紛らわしい言い方するしもうやだ。走って逃げよう。
「アテナさん!もう行きますよ!」
嫌がる手を無理やり繋ぎながら家へと向かう。
「なんでよぉ私もっとあの子と話したいぃ!」
あんな世紀末の世界にしかいなそうなモヒカン男の何があの子だ。どうやら神はどんな奴にも愛着が湧いてしまうらしい。
そして走った末我が家に着いた。
「なにこの家。見栄張って外見はまだ子マシな広めの家買いましたって感じね。中身ズタボロじゃない。」
本当に喋らなければただの美人なのに。あほなようでこういう時に核心突いてくるから困る。
「ハイハイ困った事はいいからとっとと飯にしましょう。うかうかしてると日が暮れちゃいますよ。」
「わかってるってばー。」
とまあ、こんな感じの経緯でこの女神を師匠として家に招き入れる事になった。
嫌がりながらもこれからの俺の生活はドタバタしながらもなんやかんやで充実した生活になる。そんな感じもした。
~~~翌日~~~
「アンタ俺が寝てる間に酒のつまみにとっといた高級生ハム食ったでしょ!!」
「何それ知らなーい」
度重なる駄女神のやらかしにより、いつの間にか畏敬の念はさっぱり消え、敬語も無くなっていた。