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雷の審判

まったくこれだから火の属性は。激情に燃えるばかりで本題を見失いがちだ。

進行を務める雷の精霊は溜息を吐いた。本当の審判というものを見せてやらなくては。


「ネ、雷ノ子」

「エェ。ソウネ、手本ッテモノヲ見セナキャネ」


激情に燃えて本題を見失った哀れな火の精霊と交代し、ぱちんと飛び散る火花のように雷の精霊が群れから飛び出す。進行役の精霊とは別の個体だ。同類だからと肩入れするなよと群れから進行役へと揶揄が飛び、まさか、と進行役の精霊が鼻で笑い飛ばす。


前述の通り、雷の属性は審判を象徴する。公平に悪行を裁き善行を讃える。問いかけをするのが同類だからと肩入れなどするものか。その質問に正当性と妥当性があるかを重視するし、その回答に嘘や誤魔化しがないかを判ずる。審判を司る雷の神が遣わした精霊として、そこを絶対に曲げはしない。


審判を。しかしそのためには判断材料となる因果関係の明示が必要になる。どういう経緯で、何が問題で、何が論点なのか。そこをしっかり明らかにしなければ判じようがない。

だから雷の精霊からの問いかけはいたってシンプルに。正しき裁きを与える雷の審判者として問う。


「アナタニソレヲ言エル筋合イガアルノ?」


先程の火の精霊への啖呵、気に入った。虚勢だろうがなかなか豪胆じゃないか。肝の据わった豪胆な人物になりきる役者の気分だったろうが、役に入りきれているなら上等。

しかしいかに威勢のいい啖呵でも土台が脆弱ではいただけない。思い出してほしい。こうなったのはカンナの言動の結果だ。カンナに責任がある。それなのに棚に上げて啖呵を切る筋合いがあるのだろうか。


「アナタガ突キ放シタセイジャナイ。自覚シテルノ?」


雷の精霊の脳裏に浮かんでいるのは"大崩壊"の日のことだった。

そもそも"大崩壊"は"灰色の魔女"アッシュヴィト・カーディナルシンズ・リーズベルトが神への絶望と怒りを引き金に魔力を暴走させたもの。現代の人間が魔力を発現させた時に起きる魔力の衝撃波の世界規模版といっていい。

それほどの激情をもって暴走した魔力で世界を引き裂き、それでもなお慟哭おさまらぬ"灰色の魔女"に言ったことがある。


そんなに激情をたぎらせて怒る筋合いはあなたにないでしょう、と。


彼女が願い、神が受諾した契約があった。神々がその契約を履行した後の光景が彼女の想定と違っていた。話が違うじゃないかと彼女は神に詰め寄り、言葉通り解釈しただけだがと神に突き放された。そして溢れた激情が世界を引き裂いた。

要するに逆ギレだ。こんなはずじゃなかったのにと怒り狂った精神の動揺が発端。


規模こそ違えど、あの時と今は構図が同じだ。そんなつもりはなかった、こんなはずじゃなかったと言う人間へ、いいやそういう結果になるよと言い返している。

あなたがそう言って、だからなるようになっただけだ。因果はとても正しく動いていて間違いはない。間違いがあるとすれば、それを想定しきれなかった認知のほうにある。


「アナタノセイヨ、全部」


その過失を認めているのか。見落とした迂闊さが悪いのだと自覚しているのか。

そんなつもりじゃなかったとしても、そうなってしまうのだと。


「わかってる。それくらい」


罵倒というよりは責めるような言い分を受けてカンナが頷く。

故意でなかろうと、結果としてベルダーコーデックスを傷つけてしまった。その行いを反省しているからこそ、ここにいるのだ。

ベルダーコーデックスに謝り、和解するために来ている。過失の自覚なんてその大前提じゃないか。どう悪かったのか自覚していなければ反省しようがない。


「……ソウナノネ」


へぇ、と感心と小馬鹿を合わせたような声をあげた精霊が水のしずくと一緒に身を乗り出した。


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