審理の開廷
「勝負?」
「ソウ! ダイジョウブ、悪イ勝負ジャナイワ」
とても公平に執り行うことを約束しよう。この公平というのは精霊基準ではなく人間基準だ。言うのを忘れたけど、と言って後から重要なルールを明かしたりだとか、言外に罠が潜んでいたりだとか、ルールを文字通り解釈して理不尽を強要したりはしない。
きちんと最初にルールを明示し、言外の含みや解釈によって理不尽を強要しない。こんなはずじゃなかったと頭を抱えるような目に遭わせないことを誓おう。
これは雷という属性が持つ性分ゆえだ。
「アナタモ神秘学者ナラワカルデショウ、ワタシノ性質ッテモノヲ」
神秘学の世界において、雷の属性は審判を司るとされる。神が打ち下ろす雷霆は神による裁きであり、轟く雷鳴は神からの叱責だ。
故に、雷の属性は公平な審判や適切な判断、妥当な決定を司る。裁判所は雷神を象徴するモチーフを装飾に取り入れることでその裁きの公平さを神に誓う。
雷の属性にそのような性質があるのなら、その使いである精霊もまた同様の性質を持つ。
「私が勝ったらベルダーを返してくれる?」
「モチロン! ダケド……」
ただし、カンナが勝負に負けたらベルダーコーデックスの返還はなしだ。負け方があまりにも無様であればヒトの世に帰すこともせず、ずっと精霊郷で遊び相手となってもらおう。当然、自我が溶けてしまうまで。
その条件でいいかと問われ、了承する。公平をうたって騙し討ちのような真似をすることは、雷の属性の性質上あり得ない。1と1を足したら2になるかどうかを疑うようなものだ。『そう』だから『そう』なる。
「勝負の内容は何?」
「簡単ヨ!」
精霊たちが発する問いに答えるだけ。きちんと答えられなければ負けだ。最後まで回答できたらカンナの勝ち。
この場合の『きちんと』というのは、精霊が気に入る回答かとか道徳的に正しい回答かという意味ではない。カンナが嘘偽りなく素直に回答をすることをいう。要するに迷ったり誤魔化したりしたら駄目というわけだ。
「嘘ノ判定ハ火ノ子ガシテクレルワ」
盟神探湯に代表される神明裁判ではしばし火が使われる。盟神探湯とは是非や正邪を明らかにするために手を炎の中に突っ込み、焼けただれれば非であり邪、無事であれば是であり生であると判定するあれだ。
よって、火の力には嘘を見破る性質があると解釈される。まさに嘘を『あぶり出す』のだ。
審判自体は雷の精霊が、嘘をついたり誤魔化したりしていないかの判定は火の精霊が行ってくれるというわけだ。
とても公平だ。同じ精霊だからと精霊側に肩入れして理不尽な条件をカンナに強いたりもしない。
それなら、この勝負に乗る価値はある。
「わかった。それでいいわ」
「エェ、エェ! ソウ言ッテクレルト思ッタワ!」
「決マリネ!」
最初に質問数を明示しよう。延々と質問攻めをして疲弊を待つだなんて卑怯なことを狙っているんじゃないかと思われないように。それもまた公平な審判を保つためだ。
ここは精霊郷。各属性ごとに精霊は存在する。では、問いかける質問は各属性にちなんで7つとしよう。
「7つの質問に答えられればいいってことね?」
「ソウイウコト!」
「ミンナ、集マッテ! 早イモノ勝チヨ!」
雷の精霊のよく通る声が花畑に響く。ややあって、あちこちから金の光が集まってきた。
たしなめられてすっかり傍観者となってしまった風の精霊と樹の精霊、土の精霊と氷の精霊たちもその集まりに加わる。夜空を舞うホタルの光を真昼に眺めているような気分だ。
くすくす笑いながらくるくると舞う精霊の群れとカンナのちょうど中間に進行役の雷の精霊と嘘判定役の火の精霊が鎮座する。
さぁ、開廷だ。




