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幕間小話 ある男の告白

子供の時に犯した罪を告白しよう。


子供の頃から異性の人気者だった。物心がつく時から俺の隣には女の子が常にいた。

異性から人気なぶん、男からは……ということもなかった。大人たちには当然褒められていた。

妬みも僻みもなく称賛しかない。だから調子に乗っていた。


「ねぇ、昨日、あの子と手をつないで歩いてたよね?」


浮かれていた。何でもできると思っていた。だから調子に乗った。

二桁にもなっていない年齢の子供の恋愛とはいえ、大人の尺度に拡大すれば浮気だの二股だの言われるような行為をした。


それで言い争いになって……怒鳴るあの子が鬱陶しくて、その場を立ち去ろうとした。

けれどあの子は追いかけてきて、腕を掴んできたから……だから突き飛ばした。邪魔だって叫んで肩を押した。


よろめいたその背後には池があった。


彼女はそのまま水の中へどぼんと落ちてしまった。

助けなければ。そう思うのに足は動かなくて、妙に冷静な頭でずっとこう考えていた。


このまま死んでしまえば、浮気はバレない。


浮気をした最低男だという評価を下されることもない。

バレなければいい。隠し通せるんだって……迷って、そして。


その間に彼女は水の底へ。

俺が大人を呼びに走ったのは、水面から泡が何一つ浮かんでこなくなってからだった。


わかってる。あの時、俺が飛び込んだところであの子は助からない。迷うことなくすぐ大人を呼びに走ったとしても間に合わない。

俺が彼女の死を見送ろうが、生かそうと必死になろうが、どっちにしろ彼女は死んでいたということくらい。

どうしようもない。どうしようもできない。あれは事故だった。実際事故として片付いたさ。


でも、殺人同然だ。


このまま死んでしまえば浮気を隠し通せるだなんて思って、あの子の死を見送ったのは事実。

殺したのだと糾弾されるのが怖くて誰にも打ち明けなかった。このことは秘密にするべきだと。


浮気を隠すための殺人を隠すために沈黙をした。


だけど、もしバレたら?


子供の隠し事なんて大人からすれば簡単に見破れる小細工だ。俺の様子を見て、何かを隠していると直感したら追及してくるだろう。

大人たちは俺の沈黙を彼女の死にショックを受けて塞ぎ込んでいると解釈してはいたものの、それがいつ翻されるか怖かった。


だってそれを翻すことができる可能性が一筋だけあったんだ。

あの子は俺に詰め寄る前日、別の子に相談をしていたらしい。相談というよりは愚痴のようなものだったかもしれない。

相手は村の中でも一番小さな子。年も離れていて特に仲がいいわけじゃなかったから逆に相談しやすかったのだろう。名前をカンナといった。


――カンナという子は俺を殺せる。


俺は危機感を抱いた。彼女がもし、あの子からこういう話を聞いたと大人たちに喋ったら。

大人の尺度でいう二股をしていたと伝わったら。大人たちは俺をどう思うのだろう。大人たちに囲まれる子供たちだってどう思うのか。

そこから全てが露呈して、事故として片付けられたものが事故ではなくなるかもしれない。俺が殺人同然の行為をしたと認識されたら。


それはもう、俺にとっての死だ。終わりだ。


その重圧に耐えきれないから逃げ出した。あとは村で勝手にどうこう言えばいい。田舎の村でどう話が展開しようが、その話は遠く離れた地にいる俺に伝わりはしない。俺が認識しなければそれは『無い』。

立つ鳥跡を濁そうが、水の中にいるやつらに鳥は捕まえられない。


あの村の中で全部バレたって、わざわざ俺を追ってきたりはしないだろう。そう思っていた。


――なのに追ってきたんだ、あの娘は。


だから引き離そうとした。俺が認識しなければ『無い』と目を逸らしていたのに、その視界の中にまた入ってこようとしたのだ。

目を逸らしていたかった過去の罪の象徴が目の前にいる。実際に彼女が糾弾しようがしまいが、俺の視界に存在するということが疎ましくて仕方がなかった。


だから視界の外に追いやるために手を回した。

ちょうどその時、女子生徒の中で小さな争いがあった。誰が俺の恋人になるかって火花を散らし合っていた。

それに便乗してちょっと噂を流した。故郷からわざわざ俺を追いかけてきてまで恋人になりたがってる子がいるって。

女子生徒たちは新参者を排除しようと躍起になった。彼女たちは頑張ったさ。おかげであの子は誰からも孤立して俺の視界からも消えた。


これで安心だ。魔法院を卒業すればまた遠く離れた地に行けばいい。あとは村同様、魔法院の中で勝手にどうこう言っていればい。

立つ鳥はまた遠く飛び立って、なのに。


――またまたあの子は追ってきた。


しかも存在しないはずの友人を連れて!


女子生徒たちの排除は完璧だった。あの子は孤立した。誰一人あの子と関わろうとはしなかった。

それなのにどうして。まるで長年の友人のように寄り添う人間がいるんだ?


魔女だ。魔女に違いない。あの子は魔女だ。俺を苦しめるために存在する魔女だ。

魔女を殺さなきゃ。俺に安寧はない。


今度の春、あの魔女が入学してきたら決着をつけようと思うんだ。

アルは『話し合い』をしたら協力してくれるって言ったよ。

で、君は協力してくれるかい、アルカン?



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