フーダニットを掘り下げる
レコが召喚物であるなら。いや、待ってほしい。
レコだって、ちゃんと武具を持っている。"カロル"という名の熱を操作する能力を持った武具だ。
武具によって召喚された召喚物は武具を発動させることはできない。だから、武具を持っているなら召喚物でないということになる。
そこまで思考して、いや、とカンナは首を振る。
召喚物は武具を発動できない。だが、持つこと自体はできる。発動できない武具などただの銀のアクセサリー同然だが、ヒトだと装いたいだけなら話は別だ。所持していればヒトだと装うことができる。
発動できないが、それに関しては魔力切れだの調子が悪いだの何だの理由をつければいい。
そもそも、魔銀でできた武具と、ただの銀製のアクセサリーとの区別をつけることは難しい。
だからこそ装飾品は銀ではなく金やプラチナを使うという常識がある。だが、武具を所持していることをアピールしてはったりをかけるために偽物を所持する、ということはままある。
レコの両手の人差し指にある銀の指輪はまさにそれではないだろうか。
"カロル"という名前である。熱を操作する能力を持つ。そう聞いてはいるが、実際にレコがそれを使ったところは見たことがない。熱を操るから冷めた料理を温め直すのに便利なんだと自慢してはいたが、ではレコがそうやって武具を使って冷めた料理を温め直したことはあっただろうか。ない。
なら、それはつまり。
誰かしらに召喚された召喚物が、銀のアクセサリーを武具だと偽っている。
そういうことになってしまうではないか。信じられない。だが、可能性としては存在する。
「……そうだ、スヴェン先生なら……」
スヴェンなら知っているはずだ。武具の扱いの習熟のための教官役を務めているスヴェンは生徒がどのような武具を持っているかを把握しているはずだ。カンナもまた、入学式から数日後にスヴェンに面談と称して目の前で武具を使い、能力を開示することを求められた。
だったらレコも同じように面談をしているに違いない。武具が偽物でないのならそこで"カロル"の力を披露したはずだ。その日は体調が悪いだの言って誤魔化したとしても後日必ず再面談を求められて逃げることはできない。
だからスヴェンに訊ねればいいのだ。レコと面談しましたか、と。
面談したということは武具を発動しその能力を披露したということ。武具を発動したのならレコは召喚物ではないと証明される。
だが、もしそうでないのなら。それは、浮かんでしまった可能性を補強する。
諸刃の剣だ。だが、結論を得ることはできる。
「確かめなきゃ……!」
***
スヴェンはだいたい校舎の裏の森の演習場にいる。そこで生徒と手合わせの相手をしたり自己鍛錬に励んでいる。
カンナがそこへ向かえば、やはり彼は黙々と愛用の大斧を研いでいた。
「スヴェン教官、聞きたいことがあるんですけど……」
「カンナ・フォールンエンデか。どうかしたか?」
厳格さを形にしたような逞しい背中がカンナに気付いて振り返る。作業を中断して砥石を置き、体ごとカンナに向き合うスヴェンへ、前置きもそこそこに本題をぶつける。レコ・アミークスと面談をしましたか、と。
「レコ・アミークス?」
問われ、不思議そうにスヴェンがその名前を反復する。
「そんな名前の生徒、いたか?」
教官という立場上、生徒の顔と名前と所持している武具はすべて把握している。でなければ何かの事件が起きた時に対応できない。
だから在校生の顔と名前、所持している武具についての情報は完全に頭に入れているし、他の教師たちとも情報交換をして把握に努めている。知らないなんてことはない。
だが、レコ・アミークスなんて名前の生徒はスヴェンの記憶にはない。
在校生にも、卒業生にもだ。そんな名前の生徒など覚えがない。
「……そうですか…………」
その答えを聞いて、カンナは確信する。決定的な答えを得てしまった。




