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群島兄弟

さて。センターのカフェスペースに落ち着くなり、彼らは揃って口を開いた。


「改めて自己紹介といこう」

「ご覧の通りの同じ顔、名前も手抜きのアルカン、イルカン、ウルカン!」

「揃ってアーキペラゴー・ブラザーズ!」


軽快に語る彼らは姓を取って通称アーキペラゴーブラザーズと呼ばれている。群島という意味の姓の通りに常に一緒にいる3つ子は校内でも人気者だ。ぴったりと言動が揃うさまは綿密に打ち合わせた曲芸のようで見ていて面白い、と。


「そんなアーキペラゴーの兄弟が君のペアになったわけさ」

「君のことは名前と顔くらいしか知らないな」

「自己紹介を頼んでも?」

「あ、はい! カンナ・フォールンエンデです。よろしくお願いします」


矢継ぎ早に畳み掛けられるので圧倒されてついリアクションが遅れてしまう。そういえば自己紹介がまだだった。求められてやっと気付いたカンナが慌てて名前を名乗った。

そんな遅れたリアクションにも慣れているのか、うん、と3つ子が頷く。やはり揃った動きだった。

同じ顔がぴったり揃った動きをすると不気味に思えるものだが、彼らの軽快さと快活さがその不気味さを吹き飛ばす。テンポの良い語り口もそれを助けている。


「よしよし。じゃぁこれ以上のことはこれからゆっくり深く知っていくということで」

「その言い方だとセクハラみたいだぞ兄弟」

「女の子に向かって! なんて兄弟だ!」


3人横並びになった兄弟の左右が合わせ鏡のようにぴったりの動きで真ん中の青年をひっぱたく。殴られた青年が痛いと叫び、殴った青年ふたりがこっちだって手が痛いと辛辣に返した。

まるで漫才のようだ。思わず吹き出してしまう。笑ったカンナを見、笑い事にしてくれてよかった、ウケが取れたぞよかったな、殴られた甲斐があったな、と3つ子が笑う。


小さな笑いで程よく空気が緩んだところで。自己紹介の次だ。


「それで、神秘学の合宿のことなんだけど」

「こういうガイダンスも上級生がやれってさ」

「説明が面倒だからって、リンデロート先生ってば!」


そう、大事な案内と説明がまだだ。神秘学の合宿について。上級生とペアになってどんなことをするのか。そこのガイダンスをしなければならない。


「神秘学の合宿内容はとてもシンプルでさ」

「ズバリ一言」

「上級生との議論なのさ!」


合宿の期間であるこの1ヶ月。上級生と毎日議論をする。テーマは不問。その議論で上級生を言い負かす必要はないし、新説をひらめく必要もない。論ずることが重要なので、議論に結論が出なくてもいい。

そうして議論を重ね、その議事録をまとめて提出するのが課題だ。内容の齟齬をなくすため、上級生と1年生の両方に提出が求められる。


「ちなみにこの案内も議事録にしろって言うんだよ」

「案内しました、されました、くらいしか書くことないのにさ!」

「議論じゃないだろって!」


日程としては今日が合宿1日目なので、この自己紹介と案内も合宿の内容に含まれる。そういうわけでここで話したことも議事録としてまとめないといけない。

まとめるような内容なんてろくにないだろうに。そういう時は内容を無理矢理作り出すのだ。レポートの文字数稼ぎのコツさとウインクをした3つ子は、それで、と話を続ける。


「実際の流れも打ち合わせようか」

「毎日議論するったっていつ、どこでって決めないとさ!」

「どう?」


差し支えがなければ午前のうちに合流し、一通りの議論を交わす。流れにより昼休憩を挟んだ後も続け、ある程度区切りがつけば解散してそれぞれ議事録をまとめる。その後は自由時間。

普段、授業のある日と変わらない時間割だ。感覚としてはいつも通りだ。


「予定があったり病欠する時は連絡をもらえればそれでいいかなぁ」

「女の子には急な予定とか体調不良とかあるからさ」

「兄弟、それは深読みするとセクハラに近くなるぞ!」


すぱぁんと良い音で今度は左側の青年が叩かれた。

まったく。本当に見ていて飽きない兄弟だ。おどけたピエロのジョークを聞いている気分になる。ふふ、と笑いを漏らすカンナの様子を3対の金の目が見返した。

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