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群島の霧が晴れる時

今日の議論はここまで。議事録をまとめながらカンナは思考する。


あれは図書室のことを受けたあからさまなメッセージだ。

では何を伝えようとしているのだろう。ミナモウマレの小説がその答えだろう。本の内容が意味しているのは、表面の物事にとらわれて本質を見失うなということだ。

つまり、目に見えるものだけが真実ではないということ。それはカンナの今の状況、すなわちアーキペラゴー兄弟たちの秘密を指すのだろう。


それなら、3つ子たちの『目に見えるもの』は何を指すだろうか。


「目に見えたもの……か」


見えたものといえば、やっぱり図書室での光景だろう。突如、糸が切れた人形のように不自然に動きが止まった姿だ。不自然な停止は唐突に続きが紡がれた。

いや、待ってほしい。今、何気なくあの姿を『糸が切れた人形のよう』と例えたが違う。その表現よりもむしろ『動力が切れた機械』のほうがしっくりくる。


そこまで思い至り、カンナは机の上で沈黙しているベルダーコーデックスに声をかけた。


「ねぇベルダー。ちょっと試したいことがあるんだけど、いい?」

「あん? なんだよ、変なことしやがったら容赦しな――」


返事をしたベルダーに、話の途中で一瞬だけ魔力の接続を切る。

ベルダーコーデックスの会話能力はカンナからの魔力の接続があって初めて機能する。魔力の接続を切れば当然、発話の方法を失って沈黙する。


その接続切れの沈黙の仕方を見て、カンナは確信する。

図書室で見たあの不自然な停止とまったく同じだ。


さらに確信を強めるために魔力の接続を元に戻す。


「――い、って、おい。今一瞬オレを無理矢理黙らせたな?」


途端、ベルダーコーデックスは流暢に続きを紡ぎ始めた。これもまた、図書室で見たあの話の再開の仕方と同じだ。


接続切れによる強制会話終了に抗議するベルダーコーデックスにごめんと謝りつつ、カンナは確信を元にひとつの結論に至った。


あの3つ子は武具だ。正確には、武具によって召喚された分身だ。

術者はおそらく、並んで立っている立ち位置でいえば真ん中の兄弟がそうだろう。左右の兄弟が分身だ。術者を分身が挟んで護衛している。何から護衛しているかは、きっと、魔法院の頃に虐められていたという話が答えだろう。


いつも真ん中の立ち位置なのはアルカンだったか。彼がいつも一番最初に話しだし、続いて左右のイルカンとウルカンの兄弟が続く。分身はそこまではっきりとした思考能力や自我がなく、先に話し始めた人間の言葉を受けて補足的に喋るくらいの機能しかないのだろう。


名前の法則からして、エルカンとオルカンという兄弟がさらにいるという話も、この説をさらに補強する。

推測するに、常時出せる分身はイルカンとウルカンの2人までなのだ。エルカンとオルカンの2体は必要に迫られないと出せない。一時的にしか召喚することができず、だから、『引きこもり』と表現したのだろう。

実は5つ子だが、数に含めて考えないでいいと言っていたのもそういうことだ。一時的にしか召喚できない分身なのでいないものとして扱ったほうが話が簡単に済むから。


「ベルダー、ちょっとお願いがあるんだけど」


この仮説を確固としたものとしよう。そう決め、ベルダーコーデックスに触れる。

会話をするぶんの最低限の魔力接続以上の量の魔力が注がれ始めたことでベルダーコーデックスも諒解したようだ。おう、と応じてくれた。


「検算させて」


確かめるとしよう、あの兄弟の真実を。


「――解読開始」


真実の書よ、その力を示せ。

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