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我らは生命足り得るか?

「ほらベルダー」

「ちっ……めんどくせぇなぁ…………悪かったよ、言い過ぎた。これでいいか?」


渋々。ものすごく渋々とベルダーコーデックスは3つ子に頭を下げた。


渋々だが頭を下げたのはカンナの言うことに道理があったからだ。怒りをその原因とは関係のない他人にぶつけるのはよくない。八つ当たりなんてするものじゃない。そう思ったからだ。

そして、それでもってカンナに要求する。以後、自分の人嫌いと前の主人は関係ないし、前の主人を引き合いに出すことは一切許さない。そういう意思表示でもある。


ぐちゃぐちゃに混ぜられて見失いかけ、忘れまいと必死に掴んで引き寄せてしがみついた大事な記憶なのだ、これ(前の主人のこと)は。

だから誰にも触れさせない。揶揄も許さない。これは自分だけのものだ。それを確約できるのなら頭を下げよう。


「いいよいいよ。じゃぁ、いつも通り議論といこうか」


前置きがたっぷり長くなってしまった。さて。それでは本日の議題は先程の仕返しといこう。

せっかくだから君も混ざるといいよと3つ子が言って、今日の議題を発表する。


「武具によって生み出されたものは生命足り得るか?」

「武具で呼び出された召喚物だな!」

「あとは自我を持つやつとか!」


武具の中には何かしらの生物を召喚するものがある。それは神の眷属だったり眷属が生み出した配下だったり様々だが、ヒトや動物、幻想生物の姿を取る。

彼らは術者の命令に従い、その役割を果たす。その中で、命令を果たすために思考し、自分で判断し、ものによっては会話などで意思表示をする。

その肉体は魔力で構成され、役目を終えれば霧散する。実体があるので触れられるが、温かみはない。


呼び出された彼らは生命と呼べるだろうか。『生きている』といえるだろうか。

今日の議題はそれにしよう。まさに喋り自我を持つ武具であるベルダーコーデックスへのあてつけだ。

どう思う、とカンナに問うてみる。


「うぅん……そうですね……まず生命の定義から始めたいところです」


生命とはどういうものだろうか。生きているかどうかを話すなら、まずその定義から始めたい。

そう前置きしてカンナは考えを述べる。


「生命活動……食べたり寝たりとか……そういう、肉体的というか……」


そういう意味合いでの生命には当てはまらないだろう。

武具によって召喚されたものは食事も睡眠もしない。言ってしまえばただの銀である武具も当然、食事や睡眠の必要もないしそれをしない。

そういう肉体維持の生命活動をしないのだから『生命』ではないだろう。

では『生きていない』かと問われれば否だと思う。自我を持ち、思考し、感情表現をする。そのありようは『生きている』と言える。


「『命』ではない、けれど『生きている』……私としてはそんな認識ですね」

「成程ね」

「個として認識するってワケだ」

「だってさ兄弟」


成程ねと頷き合う3つ子の表情からして、多少の違いはあれど大筋はカンナと同じらしい。つまり召喚物であっても武具であってもそこに何らかの精神や自我があれば一個の存在として認めると。


「当然ですよ。じゃなきゃベルダーはどうなるんですか」


ここに喋り、自我を持つ武具がある。ベルダーコーデックスを一個の存在として認めなければ何だというのか。カンナの一人二役の腹話術でもやっているというのか。残念ながらそんな器用なことはカンナにはできない。


「まぁそうだ」

「で、ベルダーコーデックス」

「一個の存在として認められたけど君の回答は?」

「あん?」


そうだなぁ、と思考をまとめる。


「コイツの回答を借りるなら、オレは『生きては』いねぇよ」


せっかく一個の存在として認めてもらっては何だが。ベルダーコーデックス自身、自分で自分を『生きている』とは定義しづらい。

だって、こうして喋って感情を表現し意思を伝えているのはカンナからの魔力供給があってのこと。魔力の接続が切れれば物言わぬ本だ。動かない、喋らないものに『生』を見出すことは難しいだろう。

自分はただの武具なのだ。物だ。生命ではない。一見喋っているように見えるが、これもカンナからの魔力を用いて空気を振動させ音を出して声と錯覚させているに過ぎない。本に声帯はないのだから。


「でもベルダー、魔力切ってても大丈夫じゃない」


たまにだが、ベルダーコーデックスのやかましさに耐えかねて魔力の接続を切って強制的に黙らせる時がある。

その間ベルダーコーデックスは何もできないが、それでもきちんと外界を認識している。周囲の状況を知覚し、思考している。

魔力の接続が切られたことも認識できている。おかげで接続し直して会話可能になった途端に強制終了させんじゃねぇと文句を言われるのだが。


その知覚と思考をするだけの精神はあるのだから、そこにはやはり『生』を見出せる。カンナはそう考える。


「そんなモンただの設計だろ」


センサーがあってプログラムがあるだけだ。機械と変わらない。機械は電力で動くが、武具は魔力で動く。機械のプログラムのコードが魔術式になったものが武具だ。細部は違うがそうやって置き換えて考えることができる。


自分はただ武具の内部に刻み込まれた魔術式に沿って稼働しているだけだ。話し相手として不足ないように会話を求められて(魔力が流されて)いない時でも情報収集をして話題を探す仕組みだというだけのこと。


そこには何もない。ただ『そういうもの』だから『そう』なのだ。


「で、テメェはどうなんだ?」


この議論に結論はない。カンナの意見もベルダーコーデックスの意見も否定できるものではない。どちらが正しいかではないのだから続けるだけ無駄だ。

切り上げ、話の矛先を3つ子へ向ける。議題の提供者である彼ら本人はこの話についてどう思っているのだろう。ご高説を聞こうじゃないか、と意地悪くベルダーコーデックスが笑った。


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