夏が終わり、秋が始まる。
夏が終わり、秋が始まる。
夏の終わりと同時に訪れる行事がある。それが合宿だ。
合宿とは、夏の終わりから秋にかけて行われる課外授業のことである。受けたい科目を選択し、合宿の期間中ずっとその授業だけを受ける。内容は教科によって異なり、教師や上級生と一緒に講義を受けることもあれば、何日も校外の施設で泊まり込むこともある。一ヶ月の間、集中的にひとつの教科を学ぶということ以外、共通することがないほどその内容は様々だ。
その合宿の季節が今年も訪れる。カンナが選んだ教科はもちろん神秘学だ。
神秘学の合宿の案内が行われるのは東講堂だ。合宿の概要をガイダンスするパンフレットを片手に東講堂へ。
「わ……」
今日の講堂はやたら狭い。どうやら、今日は上級生もいるようだ。上級生たちにとって合宿は必修ではないので、一年生の合宿のための手伝い役ということで集められているのだろう。
それにしても狭い。長机の場所を譲り合っても全員着席することはできず、座ることを諦めた数人が怠そうに壁際に立ちっぱなしになっている。
毎年のことはといえ狭いなぁとぼやく上級生の呟きを聞きながら、カンナもどうにか座る場所を見つけて席についた。それと同時にリンデロートが教壇に上がる。
「ごめんね、狭くて。……さて諸君、合宿の時期だ」
神秘学の合宿は1年生と上級生のペアで行う。まずはその組み合わせを決めるところからだ。合宿で具体的に何をするかの説明はその後。
そういうわけで、とリンデロートは教卓に箱を置く。ペアを決めるくじ引きのためのものだ。もし既に何かしらの約束や縁でペアが決まっているならそれを申請するようにと言い、くじのための用紙を配る。
渡された小さな紙に名前を書いて箱に入れればあとはリンデロートがくじを引いてペアを決める。行動が早い何人かの生徒がすでに記名を終えた紙を箱に入れている。カンナもそれに倣って記名しようとペンを持つ。その時だった。
「あ。彼女がハルヴァートの?」
「そうだな兄弟! 運がいい!」
「ちょうどいい。僥倖じゃないか兄弟!」
やたら騒がしい声が降ってきた。カンナが顔を上げてそちらを振り返れば、同じ顔の青年が3人、並ぶように立ってカンナを見下ろしていた。
褐色の肌に銀の髪、満月と同じ色の金の目。まるで鏡写しのようにそっくりだ。ついでに言うなら服も同じ。
おそらく3つ子なのだろう、と理解しつつ、カンナが目を瞬かせる。ハルヴァートの、とは。
「ハル先輩の……?」
「あぁごめん、自己紹介から始めよう。俺はアルカン」
「イルカン! そしてこっちがウルカン!」
「わかりやすい名前だろう。そんな俺たちはハルヴァートの同級生だったのさ!」
曰く。銀髪の3つ子たちはハルヴァートの顔見知りの知人だったそうな。ハルヴァートからカンナについて軽く話をされたことがあり、その時は話半分で聞いていたこともあってそう深く踏み込まなかった。
そうしていたらアルヴィナの自殺騒動に続いてハルヴァートの事件が起きた。話題の渦中になったのはいつぞやに名前を聞かされた少女。
声をかけるか。いや見知らぬ人間が急に話しかけては怖がられるだろう。なにせあんな事件に巻き込まれた直後だ。そう思って接触を控えていたが、合宿というタイミングを機に話しかけてみようと思った。そして今この瞬間に至る。以上、経緯と動機の説明終わり。
「で、だ。そんな縁があるわけだが」
「もしペアが決まっていなかったら」
「どうだい、ペアになってみるってのもさ!」
「え、えぇ……? は、はい。お願いします」
勢いに押されつつ頷く。断る理由はない。これも何かの縁だ。
了承したカンナへ、3つ子がにっこりと揃った動きで笑い返す。その3つ子の真ん中、アルカンと名乗った青年が代表して手を差し出してきた。よろしくお願いしますとカンナが握手で返すと、よしじゃぁペア決定だと嬉しそうに楽しそうにイルカンと名乗った3つ子の右側の青年がリンデロートの元へ駆け出していく。兄弟はせっかちだなぁと3つ子の左側であるウルカンが呟いた。
「よし、じゃぁペアの連絡が終わった兄弟が戻ってきたら教室を出よう」
「センターのカフェスペースあたりで改めて自己紹介と」
「ただいま! 自己紹介と合宿内容について説明しようじゃないか!」
季節がめぐる。