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合コン行ったことないやつが書いてます。

 そうして、合コン当日。ほのか含めて男女六人ずつ、計十二人となった。顔ぶれはほのかの好みからすると上中下が揃い踏みしている感じである。まあ、ほのかは顔の好みこそあるが、悠斗以外は等しくどうでもいい。

 女性陣はみんなほぼ素っぴんである。今日の戦は惚れた腫れたではない。金である。

 ただ、ほのかがナチュラルメイクで細工をしているので、間違っても不細工と呼ぶ者はいないだろう。いたらそいつが本日の哀れな子羊(いけにえ)である。

「えっと、みんなとりあえず生頼んじゃっていいカナ?」

 おそらく男性陣側の幹事なのであろう真面目そうな人物が問いかける。そこは定番の流れなので、誰も異論はなかった。ただ、ほのかが手を挙げる。

「あの、清酒も頼みたいな……」

「お、もしかしてイケる口? いいよいいよ! 頼んじゃお!」

「えへへ」

 思い切り猫を被るほのか。まあ清酒の時点で被れているかわからない猫だが。それでも、ほのかの容姿の良さと酒飲みらしいところに男性陣は興味を示し始めている。

 ほのかはさくさくと爆弾を落とすことにした。

「桜ほのかです。今日はよろしくお願いします」

「あ、やっぱり! 滅茶苦茶可愛い~」

「生桜ちゃんじゃん」

「初めて見たー」

 ほのかはにこにこ笑いながら告げる。

「見惚れているところ申し訳ないんですが、わたし、訳あって整形してこの顔なんですよ」

 ぴし、と空気が固まるが、ほのかはお構い無しに続ける。

「昔いじめられてて、顔をガラス片でめっためたにされたので……両親が、女の子がそれじゃ可哀想だからって、お金かき集めて、今の顔にしてくれたんです」

「へ、へえ……」

 少し会場の空気が冷えていた。それもそうだろう。いきなりの整形カミングアウトである。しかも学内でかなりの人気を誇る美人が、だ。

 まあ、細かいところに目を瞑れば、本当のことである。ほのかは依然、にこにことしたまま、ほんの少し申し訳なさを滲ませて、男性陣に問う。

「ごめんなさい。失望しましたよね。でも、本当のことを隠して持ち上げられるのも気分がよくないので、お話ししました」

「いや、失望なんて、そんな!」

 男性陣が必死に声をかける。そういう整形は仕方ないよ、だとか、正直に話してくれてありがとう、だとか。

 女性陣はほっとしたような声を上げた。

「よかった。私たちは桜さんのそういう過去込みで聞いてたから、みんながこれで逃げたらどうしようとか考えてたんだけど……よかったね、桜さん」

「はい。みんな優しい人で……わたし、嬉しいです」

 ほろりと泣いてみせれば完璧である。嘘か本当かで言ったら嘘なのだが、作戦はひとまず成功しそうだ。

 ここからは飲みの勝負である。

 まず、生ビールが届いた。ほのかは遠慮がちにちびちびと飲む。その様子を見た男性陣のちゃらそうな一人が、ほのかに話しかけた。

「ほらほら、つらいこと話して大変だっただろうから、ぐいっといきなって! 酒の力は偉大だぞー」

「あはは、はい」

 そこからほのかはペースアップしていく。何を隠そう、蟒蛇なのだ。清酒はもはやわんこそばペースである。

 女性陣がほのかを呼んだ理由は正にこれである。ほのかは大酒飲みなのだ。それで何故か顔もスタイルもいいので、合コンにはもってこいの逸材である。彼氏持ちでなければ、お持ち帰りされていただろう。まあ、彼氏持ちだということは隠しているが。

 しかしまあ、よくやるものだ、と女性陣も思っていた。自分たちが頼んだことではあるが、きちんと相手の気を引き、わかりやすく同情で釣り上げる。粛々と飲んでいた様子は自然と蟒蛇のペースになり、酔いの回ってきた男性陣はほれ飲めもっと飲め、と持ち上げるまでになっている。軽くアルハラに相当しそうだが、何も言わずに淡々とほのかが飲み続けるので、男性陣は気をよくしている。

 まだ男性陣が支払うという言質は取っていないが、いざというときはほのかが全額払うと言っている。他人事ながら、懐具合は大丈夫なのだろうか、と心配になった。

 女性陣も何もしていないわけではない。つまみの高めのところを定期的に追加注文している。

 自己紹介はされたのだが、ほのかは一人も名前を覚えていない。自分の中には悠斗さえいればいいのだ。だから、他の有象無象など覚える必要はない。

「桜ちゃんよく飲むね。大丈夫?」

 真面目そうなのが声をかけてきたのに「美味しいです!」と満面の笑みで答えるほのか。少し男の顔がひきつったのを女性陣は見逃さなかった。

「あはは、よかったですね、せんぱーい。よく飲む女の子は可愛いって言ってましたもんね!」

 なるほど、それで若干のアルコールハラスメント気味の言動があったりするのか、とほのかは納得した。

「そうなんですか。酔った女の子にフェチズムがあるとかですか?」

「さ、桜ちゃんは酔ってなくても可愛いよ」

「えー、先輩ひどーい、私たちはー?」

「み、みんなも可愛いよ」

 たじたじなのが笑えてくる。が、そこをこらえてほのかはぐびぐび飲んだ。

 フェチズムについては否定しないらしい。お持ち帰り目的だろうか。

 げすいなあ、と心の中で思いながら、ほのかは盃を空けていった。

 ちなみに男性陣は女性陣というかほのかに対してのアピールが凄まじいのだが、女性陣はアピールも何もない。というわけで出来上がっているカップルは一組もなかった。

 この時点で何も違和感を覚えないのか、とほのかは呆れる。そろそろ二軒目に行こうという話が浮上してきて、ほのかはひょい、と伝票をつまみ上げた。

「あら、随分飲んでしまいました。ほとんどがわたしの注文なので、払いますね」

「え、いや、待って待って待って! 女の子に払わせられないって!!」

 そうでしょうね、大学であることないこと言い触らされたら困りますもんね、とほのかは心の内で述べつつ、小首を傾げて真面目くんに伝票を見せた。真面目くんの顔からさあっと血の気が引いていく。

 男性は六人もいるので、割り勘すればなんとかなるだろう。けれどここで払ったら、二軒目には行けまい。

「ここはわたしが払うので、二軒目のお支払いをお願いできますか?」

 男性陣はぶんぶんと首を縦に振った。

 ちなみに二軒目は洋酒の取り扱いが多いお洒落で静かなバーである。騒ぎを起こすと黒服の店員が飛んでくる。

「ごめん、桜さん、いくらか払うよ」

「大丈夫です」

 スマホで「パフォーマンスとして必要だから」と送ると、女性陣は何も言ってこなかった。

 女の子一人に支払わせた、という事実は大きい。次の店で確実にすっからかんにさせるためにも、ここでのパフォーマンスは必要だった。

 ほのかがここまでする必要はないのだ。ただ、ほのかは悪いことをするのが好きだった。法に触れない程度ではあるが。

 性格が悪いのは今更だ。それなら、性格の悪いなりに存分に楽しんでやろうではないか。

 さて、二軒目。実は事前に女性陣と打ち合わせていた場所だ。

 ホストクラブかよ! と叫びたくなるが、なんとテキーラタワーをしてくれるという。もちろんお値段はそれなり。

「うわ、すご……」

「綺麗……」

 金にがめつくなりつつあった女性陣の心が少し洗われたところで、ほのかは飲み始める。

 しばらくテキーラを干しながら、たまにみんなに合わせて甘いカクテルなどを頼む。びっくりするほど酔わない。

 人の金で飲む酒は美味いのである。

 女性陣もなんだか緊張が解れたようで、気になっていたのであろう人物と言葉を交わしたり、和やかな空気が流れ始める。穏やかでないのはほのかの飲む量のみとなった頃、あぶれたらしい一人が、ほのかに声をかけてきた。

「ねえ、桜ちゃん」

「どうしました? あ、このお酒美味しいですよ」

 来たな、と思った。男性と女性、人数は同じ、となればあぶれるやつはいる。元々ほのかは人数合わせで呼ばれた身だ。男に興味はない。が、それは相手も同じとは限らないのだ。

 おそらくあぶれるなは今回の件の火付け役となった男だろうと予想していた。居酒屋の会計をどこ吹く風としていた輩なのはほのかも覚えている。

「抜け出さない? こっそりさ」

「え? 合コンってみんなで楽しむものじゃないですか?」

「……あいつらの財布にされてるの、わかってないの?」

 んー、馬鹿、と思いながら、ほのかは素知らぬふりをする。

「いえ。恥ずかしながら、わたしが一番飲んでいるのは事実ですし」

「でも、あんな大金……」

「第一、あなただって一銭たりとて出そうなんてしませんでしたよね?」

「それは」

「マスター、ウイスキーをロックで!」

「、来い!!」

「きゃっ」

「桜さん?」

 女性陣が不審げにほのかを見るが、男はけろりとして「酔っちゃったってさ」とほのかを店の外へ連れ出す。

「抜け駆けはずりいぞ」

 うわ、チャラ男が寄ってきた、とほのかがあからさまに嫌そうな顔をする。すかさず女性が一人加勢に来るが、男がそれを突き飛ばした。

 ぱしゃ。

「あんまりなことをなさるなら、出るところに出ますか?」

 ほのかがそう言って、スマホをひらひらとさせた。

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