魔力ゼロ体質
前話のあらすじ。
ワタクシは水の精霊ネリーネ。
スカート切り裂き魔事件の解決のお礼として、レイの身体に入って街を探索しております。
あぁ、新しい謎、新しい事件、それを解いて解決した時の快感……!
可愛いレイも喜びますし、一石二鳥ですわ!
さぁ、今度はどんな事件が待っているのでしょう!
それでは第三話『魔力ゼロ体質』お楽しみあそばせ。
『事件らしい事件の情報はありませんでしたわね』
『何もないなら、それが一番だよ』
「……おかわり……」
ネリーネは残念そうだけど、精霊憑き自体そんなにしょっちゅう起きる事じゃない。
精霊だってどこにでもにいるわけじゃないし、魔力がちゃんとある人なら精霊が入っても暴れたりしないからね。
『なーにが、それが一番、だよ! オレは戦いたいんだよ! 何にもなかったら戦えないじゃんか!』
『必要な時にはちゃんと頼むから……』
『絶対だぞ! 絶対戦わせろよ!』
「……これも、おかわり……」
ナスタは前に別の子に取り憑いていたけど、あのままだったら大変な事になってただろうなぁ。
国を強くするために、精霊に「男なら誰に取り憑いてもいいよ」って約束した王様は、ナスタみたいな強くて勇敢な精霊を求めてるんだろうけど……。
『ねーねー、次はアネモスも遊びたーい』
『うん、後でね。順番だから』
『次はオレだからな!』
『えー、ナスタのあとやだー。手とか足とか痛いんだもーん』
『う、うるせぇ! 文句言うな!』
「……これ、おかわり……」
でも魔力の弱い人に精霊が入ると大変な事になるのがわかった後も精霊との約束を変えなかったり、精霊憑きになっちゃった人を捕まえて軍に無理矢理入れたりするのはひどいよなぁ。
そのせいでボクは、小さい時から女の子の格好をしなきゃいけなくなったし。
『ナスタはもう少し落ち着きを持った方がよろしいわ。何でも力押しじゃ、いつか大きな失敗をしますわよ』
『い、勢いが大事な時だってあるだろ!?』
『身体の怪我でしたらワタクシかカモミリアが治せますけど、レイの魔力ゼロ体質がバレたら、大変な事になりますのよ?』
「……これ、もう一つ……」
そう、ボクが四人も精霊を宿しても精霊憑きにならないのは、ボク自身に魔力がないからみたい。
そのおかげで、精霊にとってはすごく身体を動かしやすいんだって言われた。
とても珍しい体質らしいから今のところバレてないけど、これがバレたら男って事を隠して育ててくれたお父様とお母様の苦労が台無しになる。
『とにかく、レイが時々闘技場観戦に連れて行ってくれてるんですから、それで満足なさいな』
『うー……、わ、わかったよ……』
「……これ、あと三つ……」
『カモミリア! お前いつまで食べてんだ!』
気が付けばカモミリアが憑いたボクの前には、お皿が数え切れないほど積み上がっている……。
食べ放題って言ったって、ここまで食べるのはお店も考えてなかったんじゃないかな……。
「……大丈夫。……魔力に、変えてる……。レイは、太らない……」
『そこの心配じゃねぇよ! 周りが化け物見るみたいな目で見てるじゃねぇか!』
うん、そろそろやめた方がいいかなぁ……。
「……昨日の、ごほうびに、いっぱい、食べていいって、レイ、言った……」
『限度を考えろってんだよ! 目立っちゃダメだって聞いてただろ!?』
「……わかった……。晩ご飯で、また、代わって……」
『まだ食べたいんですのね……』
『ねーまだー?』
まぁ、それがカモミリアとの約束だからなぁ……。
ナスタは戦い、ネリーネは謎解き、カモミリアはご飯、アネモスは遊び。
ボクの身体を使ってやりたい事をするのが、みんなとの約束。
そのかわり、ボクが助けたいと思った人を助けるのを手伝ってくれる。
魔力がないのは不便な事もあるけど、そのおかげでみんなと出会えた。
「……最後に、これ、お土産に……」
『いい加減にしろよお前!』
『お土産だと別料金ですわよ?』
『ねー早く代わってよー』
それはやっぱりステキな事だとボクは思うんだ。
読了ありがとうございます。
ネリーネは謎を栄養とする魔神ではありません。念のため。
さて今回の紹介は土の精霊カモミリア。
花の名前に興味がある方なら、すぐわかったかも知れません。
ギリシャ語の『大地のリンゴ』という言葉から名付けられたというカモミールです。
花言葉は『逆境に耐える』『苦難の中の力』とあり、防御特化で無口、あまり気持ちを表に出さないキャラにするつもりでした。
……めっちゃ気持ちのままご飯食べてますね……。
レイの優しさに触れて心を開いたんですそういう事です(早口)。
それでは次話『幼馴染』もよろしくお願いします。