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7.柄谷さんが好き

「悠里! おはよう!!」

 柄谷さんと途中で別れて校門をくぐった途端、後ろから結衣に声をかけられた。


「ねぇ、さっき一緒にいた男の人誰??」

 ニヤニヤと私の顔を覗き込む。


「もう、見てたんだったら声かけてくれればよかったじゃない」

 私どんな顔して歩いてただろう……?

 恥ずかしいじゃない!


「あの人、いつも悠里が話てた柄谷さんでしょ?」

 図星を刺されて気持ちが隠しきれない私は、頭から湯気が出そう。

 思わず立ち止まって結衣から顔を逸らす。


「ほーら、やっぱり。あたし、なんかあの人どっかで見たことあるんだよなぁ……」

『うーん』と顎に手を当て必死で思い返している。


「……サンファで見たんじゃない? 桐谷さん一年前から働いてるって言ってたし」

 結衣だって何度も行ってるお店だし、見かけててもおかしくはない。

 まず私自身が、柄谷さんとは夢の中と現実が混同してしまって錯覚を起こしてしまうくらいだし……


「そうかなぁ……? 何かモヤっとするんだよねー。まぁいつか思い出すか!」

 自己完結してスッキリした顔の結衣は『結構なイケメンだったね』と肘で私を突いた。


「後ろからみてたらさ、恋人同士みたいだったよ。何か二人の世界で近寄れない雰囲気??」

 ムフフと口を塞ぎながらニヤリと笑う。

 私は嬉しい気持ちが素直に外に出せずに、話題を変えようと懸命に頭に中を動かそうとするんだけど……

『恋人同士みたい』って言葉が頭の中をぐるぐる回って何も考えられない。


「もー! 何にも言えなくなっちゃって、可愛いんだから!」

「やだやだ!! その話はもうやめてよ〜!」


 生まれて初めての冷やかしが何だか擽ったくて顔がかぁっと熱くなる。

 やっぱり私、柄谷さんの事好きなんだなぁ……


 現実に『好きな人』が出来た、それがとっても嬉しくて。

 ふわふわと宙を歩いているような感覚が心地よかった。



「おい、杉田!! 今日ひとり立ちすんだって?? 柄谷さんから聞いたぞ」

 昇降口ですれ違いざま北原先輩が声をかけてきた。


「ちょっと、生徒会長と知り合いなの?!」

 結衣が驚いた顔で私を見る。


「あぁ、北原先輩もサンファでバイトしてるんだ。言わなかったけ?」

 頭の中は柄谷さんの事でいつもいっぱいだからなぁ。

 北原先輩のことはそう言えば触れてなかったかも。


「聞いてないよ〜! いつもあのイケメントレーナーの話しかしないじゃない」

 ひゃぁ! 北原先輩の前でやめてよぅ!!

 慌てて結衣の口を塞ぐ。


「なんだよ? 杉田、柄谷さんの事気に入ってんの?? ま、分かる。かっこいいもんなぁ、男の俺からみたってあの人はすげぇ! 憧れる!」

 やっぱりね!

 北原先輩、柄谷さんに怒られてる時も何だかいつも嬉しそうだもん。


「でもな、桐谷さんには綺麗な彼女がいるから諦めろ。残念だったな」

 ポンと背中を叩いた北原先輩は、ふざけながら私を慰めるフリをするけど……


(彼女……嘘でしょ……?)

 さっきまで浮かれまくっていた私の心は、急に地面に叩きつけられたように粉々に砕け散る。


 でも、そうだよね。

 あんなにカッコいい人に彼女がいない訳無いもんね。

 今までどうしてこんな当たり前のことに気がつかなかったんだろう?


「悠里……」

 結衣が心配そうに私を見てるけど……


「そうだよねぇ! 柄谷さん、ホントかっこいいもんね!」

 今の私には、そう答えて心にもない笑みを浮かべるのが精一杯……。


「なんか彼女の方が桐谷さんにゾッコンらしいぞ? ったく羨ましいよなぁ。 じゃ、杉田、またお店でな!」

 北原先輩はそう言って近づいてきた別の男友達に声をかけ、私の側から離れていった。


「……彼女、いるに決まってんじゃんね、あんなにカッコイイんだから……」

 そう言って笑っているつもりなのに、気がつけばポタポタと廊下に滴が落ちていた。

 自分の意思とは別の場所から溢れ出る涙に自分でも驚いてしまう。

 こんなに……こんなに私、柄谷さんの事好きになってたんだ……!


「もう、悠里! 私の前くらい素直になんな! 保健室行こ!!」

 そう言って手を引かれ、一瞬で儚く砕け散った初恋に、ベットの中でシクシクといつまでも泣き続けた。

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