パンティーの値段
パンティーをスッと握り込む。
『こ、これは……!』
脳裏の予想が確信に変わる。
脱ぎたてのホカホカ!
ちょっとだけ暖かい。
熱が逃げないうちに胸に優しく当てた。
しかもこのパンティーは激レア中の激レア。
クマさんパンティーは女キャラで始めた時に付けてる品物。
女キャラでのレアリティ、ノーマル。
男キャラでのレアリティ、最強。
女キャラが男に譲渡する事なんてほとんど有り得ない!
するとしたら大金トレードしかない。
それをくれるだと? 有り得ていいのか?
下手したら500万でトレードされるんだぞ!
周りを見て、俺は密かな思いを胸に抱いた。
この試合は会場に来て見る人間と動画配信サイトで見る人間がいる。
さらに観戦ルームというクラン戦を見ることが出来る漫画喫茶の限定的な奴がある。
その個室で、わざわざ服を脱いで。
女の子は親指をパンティーに掛けてスルスル脱いだのだろう。
そのまま投げ銭ボックスに入れてくれた?
めちゃくちゃ嬉しい。
ウィンドウで脱いだ可能性は、見なかったことにすることで0%にできる。
パンティーのシワを丁寧に伸ばして綺麗に折る。
胸ポケットにしまって闘技場を後にした。
空間が変わる。
気がついたら受付の人が居た。
「お疲れ様です」
ニコッと微笑んで手を振る。
このNPCと恋愛することもできるんだよな。
「今夜飲みませんか?」
拒否はほとんどない。
あり得るとしたら、好感度が低い時。
「遠慮します」
……どうやら、好感度が低いらしい。
俺はクラン組合を後にした。
噴水で腰を下ろして投げ銭アイテムのポーションを取り出す。
小瓶に詰まった緑色の液体は体力を一割回復する。
重要な味はリンゴ風味。
コルク栓を親指で弾いてゴクゴク飲む。
ザラつかないさっぱりした液体。
これはVRでしか存在しない飲みやすさらしい。
やみつきって人も多いらしくて規制が入るかもしれない。
「ふう……」
息を大きく吐いた。
俺の近くで一人の女の子が右往左往している。
銀髪のポニーテール。レベル1のアイツ。
「何か用か?」
「戦い、見てたよ」
モジモジしててよそよそしい。
「そうか」
「入れて欲しいな〜……」
「ダメだ」
一人って決めてるからな。
「なんで! ソロクランなんてありえないよ!」
「理由があるから有り得てる」
「募集要項とかないの? スタイルとか好みとか」
「ない」
これは確定事項だ。
「パンツあげたのに」
「お前だったのか」
「うん、欲しそうだったから」
だとしたらちょっと揺らぐ。
そんな高いものをくれたのに、俺は何もしないなんて。
パンティーを貰った男としてどうかと思う。
こいつは脱いだパンティーの価値を知らない。
下半身がスースーするだけで終わる。
「……入りたいのか?」
「入りたい!」
ゲーム内で500万円くらい、一人の女の子に握らせても文句は言われないよな。
「入れてやるよ」
「ほんと!?」
こいつに触れてウィンドウを出す。
書かれた言葉の中からクラン招待を押す。
「お前が何もしないならな」
「お前じゃないもん!」
招待を受理した結果、メッセージが追加される。
ショコラがクランの一員になりました。
「……ショコラ、よろしく」
「よろしく〜」
俺は重くなった腰を立ち上げる。
「どこ行くの?」
「そりゃ、クランバトルだ」
「レベル1だよ……?」
「だから?」
「レベル上げとか装備とかは!?」
文句を言うショコラを置いてクラン組合に入る。
金さえ払えばクランバトル。
稼ごうと思えば一夜に億も夢じゃない。
「クランバトルさせてくれ」
「はい、分かりました」
ショコラが入ってくるのを待つ。
「負けたら5万円消えるだけだよ? 私が残っても……」
「うるせえ、勝てば関係ない」
ショコラが何もしなければ、どうせ勝てる。
「では、健闘を」
その場が塗り変わるように俺達は闘技場の砂を踏む。
「ランクは平等みたいだぜー」
「そうですね」
向こうには二人の男女しかいない。
まだ弱いクランだから少ない場合もあるのか。
実際は一対二だけどな!
『ショコラ、作戦を聞いてくれ』
「うん! 言って!」
レベル1のキャラクターでもできる戦術。
「お前は端っこで応援、俺が二人を潰してくる」
「そ、それ作戦?」
ショコラが残念そうに聞いてくる。
何が不満なんだ。
『いのちだいじにガンガンいこうぜ』
『死地を極めれば三途の川も船要らず。クランバトルで力を示せ!』
戦いの鼓舞は、戦いの合図。