ショコラ
剣が大爆発を起こし、反動で体が後ろに持っていかれる。
「ぐああっ!」
その間にソードダンスをしながら。
『クロススラッシュ』
斬撃スキルを素振りする。
少年は膝をついて敗北していた。
「あ、あれ!? しっかりして!」
「もう戦闘不能だから動けねえよ」
ソードダッシュで一気に近づく。
もっとアイテムが貰えるように舐めプ紛いなことをする。
本当はしたくないが、この弱い相手で大金を稼げばアイテムによる対策戦術が選択肢に入ってくる。
このゲームのスキルには隠し効果が多い。
カリンガなんてそんな無敵じゃないから誰も使わない。
なぜなら、金が掛かった戦いで武器に当たり判定が移る技を回避として採用するなんて普通じゃない。
無敵技としてバックステップがあるんだもん。
俺もこんなキャンセル効果に気づいてなかったらバックステップ使うわ。
女の子に武器を振るいながらソードウェーブの構え。
左足で踏み込んで近づき、両手で握った剣を振り下ろす。
振り下ろす直前、剣先が背後に向いた瞬間。
誰も知らない追加モーション受付の合図。
『クロススラッシュ』
縦に衝撃波を放つソードウェーブだと思った女の子は右にステップを踏んで避けようとする。
実際は違う。
そんな構えを取ったクロススラッシュ。
強引にモーションがねじ曲がる不安定な動き。
タイムラグを置いて剣がクロスに振られる。
二段目の切り下ろしがヒットしてエファクトが光る。
「いたっ……」
『お姉ちゃんをいじめるな!』
次の動きに出ようとした俺の背中に矢が刺さる。
振り返ると何もしていなかった男の子が頬を膨らませて弓で威嚇する。
「……そうか」
傍から見ればいじめてるようにも見えるよな。
舐めたプレイで翻弄して。
そんな人間に投げ銭するか?
俺ならしない。簡単に分かる事だ。
コイツでストレスを発散しようとしてたのか、俺は?
「悪いことしたな」
振ろうとした剣を落としてサレンダー。
地面を抉って佇んだ鉄の剣が消える。
降参した。
クランバトルを後にした俺はクラン組合に戻って。
噴水に来て腰を下ろす。
大きなため息を吐いた。
恥ずかしくて逃げるように帰ってきたが、やっちまった。
クランバトルって毎回、参加料として五万持ってかれる。
五人なら一人一万で済むけど。
でも投げ銭とか報酬は一人占め……勝てたらな!
「はあー」
思い切ってクランを立てたのは良いが、やってけるか自信ねー。
『どうしたの?』
不意に声が聞こえて立ち上がる。
「PKはここではできないよ? 落ち着いて?」
身構えた俺を他所に話しかけてきた女は無防備。
銀髪でポニーテールの女。
本当に女とは思ってない、ネカマって多いからな。
「……」
ルナの件で女が気持ち悪く見える。
こいつのステータスを見てみよう。
名前、ショコラ。
装備、旅人一式。
レベル、1。
こんな奴に殺されることはないか……?
上級者のキャラ転生を考えながら見つめる。
強い人間が初心者のフリをして俺みたいに雑魚から金を巻き上げるなんて、よくある話だ。
「何の用だ」
「ゲームでため息って珍しいなあと」
「クラン派はゲームなんかじゃねえよ」
「お金入るんだもんね」
まさか。
初心者的なかわいいキャラで、クランに寄生するつもりか!
「悪いが、お前の入る枠ないぞ」
「一人で戦ってるの観戦してたし! 嘘つくなー」
「いや、嘘じゃない。ソロでクラン戦するって決めたんだ」
俺はその場を離れて道具屋に入った。
アイテムショップは三種類もあるが、最近統合された。
魔物討伐に向いた道具屋。
クラン戦に向いている高額ショップ。
プレイヤーが出品するマーケット。
アイテム類が一括で扱えるようになったのは本当に便利だ。
魔物討伐に向いたアイテムもクラン戦には持ち込めるからな。
しかも。
「この研磨粉は150ヘルだよ〜」
めちゃくちゃ安い。
ただ、性能は本当に微妙。
引き寄せフックも売ってるけど、魔法の影響を受ける。
しかも引き寄せ速度が少し遅い。
この速度ってのが大事で、遅いと無双連撃を阻止する用途には向いてない。
しかも劣悪な場合があって、不発とかしやがる。
安いだけあるわ、マジで。
そもそもクランバトルに持ち込めるアイテムの数は無限。
理由は何十万のアイテムを使う前提だから何十個も持つとは考えられてない。
「近づけフック十個と詠唱邪魔ノイズ十個ください」
「2600ヘルだよー」
詠唱邪魔ノイズは詠唱中に対して無効化はできないが、詠唱をさせない効果が5秒ある。
タイミングを合わせたら面白く使えるかもしれない。
不発のリスクもある。
こんなゴミに頼る日が来るとは。
道具屋を出た俺はクラン組合に向かう。
「ご要件は?」
「クランバトル」
「マッチング中……マッチしました」
転送された闘技場には五人の男女が見える。
「ウケる〜つかさ、あいつ一人じゃね?」
「ほんとだ、楽に勝てそう」
この戦闘が本当に俺の運命を分ける。
クランの為に培ってきた戦闘力がソロとして反映される。
他人が知らないような裏技。
普通の人は使わないスキルキャンセルと直感が試される。
実力に悲鳴を上げさせる覚悟で俺は挑む。
俺が奪い取らなければならない勝利がアイツらの胸にあるから。
一人という心細さは。
右手の剣を抱くことで誤魔化した。