問題
『やめてくれ……』
「分かった」
何十回も振り抜いた末にスラッシュ。
頼まれたら仕方ないしな!
「……」
何も言わずに消えていくネカマ。
痛みに比べたらマシか。
『勝利は甘美に値するだろう? 噛み締めるがいい』
NPCの勝利宣言で戦いが終わりを告げる。
この時点で技の使用が禁止され、追撃しようと思っていたダブルスラッシュが無効化された。
死体切りなんてできたら恨みを買われるしな。
「勝てるんだ!」
ショコラが目をキラキラさせて俺を見る。
「……まあな」
本当はショコラが居なかったら、舐めプの生贄にされて終わりだった。
近づけフックを使ってくれたおかげだ。
渡してないのになんで持ってんだろ、余ってたのか。
『いっぱいアイテム飛んでるよ!』
ゴミアイテムだし、そんなもんか。
「使えないのが大半だぞ」
これを現金に変えれるとしても、しょっぱい。
「そうなの!?」
「このアイテムなんて、110ヘルだ。消費税とか舐めてるわ」
「現実的だね……」
そして、視聴数が報酬として排出される。
「25万です」
その言葉と一緒に、纏められた一万円札がサラサラ落ちていく。
欲しければ拾えというスタンスだ。
ショコラはずっとアイテムに目を輝かせてる。
「はあ……」
仕方ない、俺が拾うか。
さらさら集めて25万ヘルの束を半分に破る。
お金は半分ずつに変換され、12.5万円に別れた。
「やるよ」
「レベル1だからいらない!」
「レベルじゃない、凄いものをくれたからあげるんだ」
俺はかっこよくショコラのポケットに札を突っ込む。
パンツの報酬と言わなければ良い様に見える。
「本当に!? やさしい」
「ま、まあな」
俺は何も言わないことにした。
「ハイタッチしよ!」
ショコラの手をパチッと叩く。
「……そろそろ帰るぞ」
「アイテムは拾わなくていいの?」
「自動的にクラン倉庫に送られるから、安心しろ」
「そーなんだー」
受付の人が居る空間に戻る。
「お疲れ様です」
労いの言葉を貰いながらクラン組合を後にした。
「これからどうするの?」
「特に」
「えー」
「もう一戦するか?」
ショコラは小さく頷く。
「でも弱いから……」
「そりゃな」
引き返して俺達はもう一度戦った。
結果的に勝ちはしたが、際どい勝利となった。
それは今回の戦いで顕著に出て、クランルームで作戦会議を開いている。
「ショコラ」
「なに?」
「一緒に戦うのはやめよう」
「……弱いもん」
まず、ショコラが弱い。
狙われたら俺が対処するしかない。
その間に俺が死にかけるから、それなら最初から狙われた方がマシだ。
ショコラは殺られて欲しくないからな。
「やっぱり、抜けるよ」
「そこまでショコラは必要にしてないぞ」
「……」
ショボーンって顔文字がチャット欄に送信される。
声を出してない辺り、本音らしい。
「ショコラを守りたくなるから本気で戦えない、戦いは一人で充分なんだ」
「そっか」
「このクランでショコラにできること自体は沢山ある」
何も知らなそうなショコラにこの世界を説く。
武器と防具には素材が必要で集める人間が居る。
その素材で作る人間も居る。
それを買う人間が居て、更に売る人間が居るんだ。
『商人プレイ! してみたい!』
目をキラキラさせたショコラが席から立つ。
「だろ? 後でクラフト系のnpc紹介するから、もう一度だけ一緒に戦いに行くか」
「えっ? いいの?」
「ちょうどいい裏技があるから、ショコラは安全に行ける」
「ほうほう!」
クランルームを出て、近くの弁当屋に寄る。
「なんでお弁当?」
根本的に弁当アイテムは魔物と戦う人向けに、回復アイテムとして用意されてる。
もちろん、VRで満足感はあるし人気はある。
「まあ好きなの選べ」
「じゃあ〜シャケ弁!」
「王道だな」
俺は適当にのり弁でも買っとく。
『1000ヘルでーす』
クラン組合に向かい、クランバトルのマッチを受付に依頼する。
「分かった! この待ち時間で食べるんだ!」
「違うぞ」
現実みたいに箸で食べるのに、すぐ食えねえよ。
「えー」
『では、健闘を』
俺達の話を遮る受付の声。
気がつくと転送され、闘技場が広がる。
相手は五人。
「二人なら、余裕で倒せそう」
「そりゃあそうだ!」
残念、一人を相手に死に様を晒すことになる。
『さあ戦え! 活き造りの戦火ほど酒に合うものはないのだ!』
はじまりの合図で相手がソードダッシュを仕掛けてくる中、俺はショコラを抱きしめる。
「ちょっと?」
「耐えてくれ」
「それは、良いんだけど、見てる人も居るんだよね……?」
「悪かったな」
俺は加速スキルを使用する。
『加速』
そのまま。走ったり歩く速度だけ1.5倍になる。
スキルは対象外のゴミスギル。
敵の中を進んで真ん中に立った俺は、剣を持った右手を払う動きをする。
『ギャザリング』
「戦場でダメージも受けてないのに回復だと!」
「舐めてんのか!」
ギャザリングは左右の移動を固定するが、上下に制限はない。
一斉に斬りかかってくる三人。
俺は逆手に持った剣から魔力を噴射する。
『ソードダッシュ』
地面に剣先が向いているせいで、一気に天井目掛けて加速する。
「なんだと!?」
ソードダッシュは進むスキルだが、移動してる時に横へブレる。
その代わり、強烈な推進力がある。
もし不安定なブレがなくなったら?
答えは、本来なら行けない所にも行けるほど進める。
棒立ちで天井を突き抜けた俺はちょうどギャザリングのモーションが終わり、横への移動が可能になる。
当たり判定がある天井に足を伸ばして着地する。
フックが引っかかる部分は、足場のように利用できるみたいだ。
ショコラを下ろして、その場に座った。
「おい! 降りてこい!?」
「魔法が通らないよ! あんなところから足は見えるのに!」
声が聞こえてくるが気にしない。
「え、どういうこと?」
ショコラが不思議そうに見てくる。
「まあ気にすんな」
「気にするよ!!」
サケ弁を渡して足元の人間を見て笑ってやる。
ゴミアイテムのおかきをポロポロ投げてみた。
「うわ! なんか降ってきた!」
「砂塵枝桜が来る! 退避しろ!」
おもしれえ。
クランバトルでお弁当を食べるなんて俺達くらいだろうな。
「……いただきまーす」
「気にしてないじゃねえか」
「お腹は空いてるから」
確かに。
俺ものり弁を開いた。