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だって、おんなのこだもん

作者: 澄川 裕
掲載日:2019/08/12

生理の話になります。

実際に生理痛が酷い方はきちんと病院を受診されるなどの対処をおすすめいたします。


茹だるような、という表現がぴったりの気候の中、結城蒼(ゆうきあお)はひとりうずくまり、必死に荒い呼吸を繰り返していた。


蒼がいる場所は体育館倉庫の中である。

体育館倉庫というものは体育で使うマットやバスケットボールの入ったかご、バレーなどで使うポールやネットなどがそこそこ広い空間を埋め尽くしており、この暑い時期には━━いや暑い時期でなくてもだがそんなことは今の蒼には関係ない━━全くもって快適とは言いがたい。もっと言えば埃とじめじめとした熱を含んだ空気が正常ではない状態の蒼の体力をどんどん削っていった。


正常ではない状態と言ったが、どんな状態かというと一言で言ってしまえば女の子であれば毎月来て多かれ少なかれ悩ませられるアレ……つまり、蒼はいま生理中なのだ。


生理は病気ではないとよく言われるし、痛みには個人差があり全く羨ましいことに全然痛さを感じないひともいるらしいのだが、残念なことに蒼は中学二年で初潮を迎えてから高校1年の現在までに何度かお腹の痛さで布団の中で這いつくばって唸りをあげたり、あまりひどい月には吐いてしまう時もあった。


それで、どうしてそんな状態である蒼が保健室にも行かずにこんな場所にひとりでいるのかと簡単に言ってしまうと「体育係だったから」だ。

いや、簡単に一言で言いすぎた。


前後の説明をすると、4時間目の授業は体育だった。授業内容はバレーで、当然ポールやネット、ボールなどを用意することが必須になるものだ。準備はまだよかった。授業が始まった後にみんなで用意したのだから。でも終わったあとの片付けは体育係の仕事だった。本当なら先生が授業が終わるチャイムが鳴る前に片付けの号令を出して準備と同様にみんなで片付けをするはずだった。

でも今日はなぜか先生が途中で職員室に戻ってしまい、しかも誰かにでもチャイムが鳴る10分前に片付けを開始してねでもなんでもいいから言付けてくれれば良かったのにそれもなく、先生が慌てて戻ってきたのがチャイムの鳴る3分前。当然片付けは授業時間内に終わらず、昼休憩の時間に突入してしまった。


うちの高校は食堂のメニューが豊富でしかも安くて美味しいため、食堂で昼を済ませる生徒が多く、しかも今日は数量限定のスイーツがデザートとして並ぶ水曜日。終わらない片付けに、食堂に行く前に制服に着替えもしなければならないクラスメイト達はそわそわしていた。早く食堂に行かねば、限定のシュークリーム(今週のスイーツはカルピス味のシュークリームらしい)が売り切れてしまう、と。


蒼は今日、生理3日めで友人に顔が真っ白だけど大丈夫?と心配されるくらいであったし、毎月ではないが本当に痛みのある月は体育も見学することがあるのだが、今月は割りとまあ、薬さえ飲んでれば耐えられるくらいの月だったようで、(いつも痛みのピークが来るのは初日から2日めにかけてだ)

3日めの今日は体育にも参加出来るし、何なら食堂メニューに想いを馳せている友人らクラスメイトに対して、後はボールの入ったかごを片付けて鍵を閉めるだけだからやっておくよ、と声を掛けられる仏心を出せるくらいには余裕があった。


いや、本当に余裕だと思ったのだ。かごを倉庫に入れ終わる前までは。


かごを元の収納スペースに返し、さあわたしも鍵を閉めたら着替えなきゃなと思ったところで腹痛の波がキた。ズキンズキンというよりズンドコとでも言えばいいのか、立ってられないような痛みに思わずしゃがみこみ、波をやり過ごそうとするが、この埃っぽい停滞した空気のなかで呼吸をしていたら段々と頭がぼうっとしてきた。

セミも太陽も真っ盛り、夏休み直前のこの時期にバレーをし、汗をかいたあとにこの体調不良、そりゃあもうどう考えても熱中症だろう。痛みによる冷や汗なのか暑さによる汗なのか分からないがとにかく汗が止まらない。


友人らは最初、本当に一人で大丈夫?と心配する声を掛けてくれたが、蒼が大丈夫だからと返すと友情とシュークリームを天秤にかけたあとに僅かにシュークリームが勝ったらしく(まあ蒼が大丈夫と言ったのだから当たり前だが)この体育館倉庫にも、いや体育館内には蒼以外の人気はない。


だから何とかして立ち上がり、せめて人のいる場所に行かなくては、と思うのだがいかんせん立ち上がれない理由がある。腹痛で立てないというわけではない。どちらかというと腹痛の波はいま、収まってきたようでいま立たねばその内本当に熱中症で倒れてしまうだろうというのはこんな状態の蒼にだって分かっている。


でも立てない。なぜなら、体操服のズボンが汚れてしまったから。


腹痛の波が来て、しゃがみこみ、何とかやり過ごしたあと、一度立とうとしたのだ。その時に、まあ、ドバっと出たのだ。そして、横漏れしてしまい、尻が血で汚れてしまった。ついでに言うとそれを確かめるために手のひらでズボンを触ったら手にも血がつき、もっというとびっくりして正座する形で座ってしまったため靴下や体育館シューズにも血がにじんでしまった。

最悪としか言い様がない。


体操服の色が小豆色とかだったらまだそこまで目立たないからと自分を鼓舞して急ぎ足で保健室、いやひとまず着替えるために近い更衣室までは行けるだろうと思う。

学年によって小豆色、空色、深緑色と体操服の色が3色あるなかで蒼の学年は空色だった。本当に最悪としか言い様がない。


熱中症というのは本当に怖いのだってニュースで見ているから分かっている。この年で死にたくはない。

けれどもまだ高校1年生の夏、思春期真っ盛りの蒼にとっては、生理中であるということを誰かに言うだけでも恥ずかしいと感じるし、ましてやそれで服を汚したなんていうのは誰かに知られたらこれからの学校生活をおくるにあたって立ち直れないだろうと思うくらいには蒼にとって重たい事であった。


だからといってこんなところで悩んでも倒れてしまうというのは分かってる。でもでも、とぐるぐる考え込んでいる蒼の耳に体育館の扉を開くギイイという重たい音が聞こえてきた。


いまは昼休憩中のはずだが誰が来たのだろうか。

……もしかしたらまだ体育館の鍵が返されていないことに疑問を持った蒼のクラスの体育教師かもしれない。

(わたしのクラスの体育教師は今年新任の若い女性である)


先生だったらまだ蒼も恥を捨て助けを求められる。



そう思いキュッキュッと体育館シューズ特有の足音を響かせおそらくこちらに向かって来ている人物に向けて声を掛けようと振り向く。




「……あれっ結城さん?こんなとこで何してるの?」



遠慮がちに声を掛けてきてくれた彼は隣のクラスの上原くんだった。

クラスが違うのにも関わらず、彼がわたしのことを知っているのは彼がよくうちのクラスに遊びにくるからだ。


わたしの席は結城という名字のおかげで入学当初の席からずっと廊下側の一番恥の列の一番後ろの席だった。正確には一度席替えがあったがそれでも席が動かなかったのでこれはもう授業中うっかりうとうとしても大丈夫な席で居ても良いという天啓かとさえ思った。


そしてわたしの席に一番近い扉から、上原くんは同じバスケ部で幼なじみで親友である長野くんを部活前に呼びに来る。

たまに、いやちょくちょく朝練後のHR前の時間や休み時間にも上原くんを扉まで呼び出して話している。

そういう時上原くんはいつもわたしに向かって申し訳なさそうに「扉前で喋っててごめんね」といってくるし、他のクラスメイトが扉を通ろうとする際にも直前に気がついて通行の邪魔にならないよう横にずれるなどの配慮をかかさない律儀なひとだとおもう。


まあ本当に配慮するなら扉前なんかで喋らずに長野くんの席のほうまで行って喋るか、他クラスだから入りずらいというのなら廊下で話せばいいのにと思わないでもない。


しかし上原くんはバスケ部で鍛えているからかほどよく筋肉のついた身体で顔も爽やかで……まあぶっちゃけいうならイケメンなので、自分の席近くで喋っている顔の良いひとたち(長野くんは上原くんとはタイプは違うが寡黙系イケメンだ)が見れるからむしろ目の保養になっていると言う意味をこめて、いつも謝る上原くんに対して「大丈夫だよ」と言っている。


そうすると上原くんはいつもホッとしたような笑顔を返してくれる。別にうるさく騒がれていないのだから怒ったりしないのにな……もしかしてわたしの顔がこわいのかな……と思ってもう少し愛想良く返事が出来ればなあとひっそり反省している。




まあそんな上原くんに対する回想は置いておいて。



「どうしたの座りこんで……もしかして体調悪い?」



上原くんは、何も返事をしないわたしの目の前まで来てしゃがみこみ、顔を覗きこんできた。


現在進行形で汗がだらだら顔から身体から吹き出している身としてはこんなイケメンに、いやイケメンじゃなかったとしても、全く近くに寄ってきてほしくはなかった。


でもこの状況で上原くんがやってきたのは最悪の状況から抜け出せるチャンスだ。


上原くんを救世主としてすがらせてもらおう。



「お腹いたくて……それで、座ってたら今度は暑くて頭がぼうっとしてきて…だから先生を」


「えっ!! 熱中症じゃないの?! 保健室まで連れてくから掴まって! というか歩ける? おんぶしようか?!」



先生を呼んできて、と伝えようとするより早くわたしのおでこに右手を当てて左手でわたしの腕を掴んで立たせようとする上原くんにびっくりしてしまい、思わず途中で言葉が消えてしまった上に立ちあがってしまったが、こんな顔や腕を触らないで欲しいしなんならおんぶしようとわたしのほうに背を向けてしゃがまないで欲しい。

あ、上原くんがズボンの腰に差してたタオルでわたしの顔を拭いてくれた。なんかごめんありがとう……。



いやそうじゃなくって。


わたしのこのズボンの状況を説明せずに上原くんを説得出来るかと言われればもうはっきり言って熱中症手前のゆだった頭は機能せず、あんなに恥ずかしい恥ずかしいと思っていたのにも関わらずあっさり恥を飲んで説明するしかない、と結論がでた。



なぜならもう色々限界である。


精神的にも体力的にも。限界すぎて涙がぽろりとこぼれた。情緒不安定すぎる。



「え、え、なんで泣いて……俺におんぶされるの嫌だった? あ、お腹痛すぎて? どうしようえっと落ち着いて結城さん深呼吸しようか……?!」



いや君のほうが落ち着いて欲しい。


そう思ったら少しだけ気持ちに余裕がでてきた。アレだ。自分より焦っているひとをみると逆に冷静になるみたいな。



そうするとスルッと説明する言葉が口から出てきた。

ギャグではない。



「あの、本当なら男の子にこんなこと説明するのアレなんだけど……。わたしいま女の子の日というやつでして……だからお腹いたかったんだけどね。それで、本当にお恥ずかしながらズボンが、その、汚れてしまったの。だから保健室に行きたいけど誰にも見られたくなくてですね……」


自分は思ったよりまだしっかり説明出来るだけの頭は回るようだと、わたしの説明を聞きながら段々赤くなっていく上原くんの顔を見てどこか一周回ってもう冷静になった頭で思った。


たぶんこれはもう開き直りってやつだ。

もうすでにこの状況でこれ以上の恥とかない。


この優しいイケメン上原くんはきっとこの説明でちょっくら走って先生呼んでくるよとか言ってくれるに違いない。いやちょっくら走ってとか上原くんは言わないだろうけど。


やっぱりわたしはまだ冷静じゃないようだ。



落ち着いて深呼吸します。……うん埃っぽい。



とりあえず早く倉庫から出たい。先生を待つにしても新鮮な空気を吸える風の当たる日陰にいきたい。



少し顔の赤くなった上原くんは、狼狽えていた態度から一変して真面目な雰囲気になった。

そしてひとつ縦に頷いてくれた。


おお、伝わったようだ。分かったら早く先生を呼んできてくれ。



「わかった。じゃあ、俺が抱き上げてなるべく結城さんが見えないように運ぶよ」



全然伝わってないよわたしの気持ち!!!!



「いやあの…だからそれだとズボンが…ね?」



もう良いから早くしてくれ。マジでそろそろ本気で倒れる。


こんな問答してる場合じゃないんだけどと思いながら突っ込みを入れるのも億劫になってきた重たい口を開こうとすると、上原くんはバサッと制服のシャツを脱いだ。ちなみにうちの学校の制服は女子が紺色のセーラー服(リボンは赤色)で男子は紺色のカッターシャツにそれより黒っぽい色のズボンだ。


いやいや今制服の色とかはどうでもいいんだけど、そうじゃなくって。



「え、なんで脱いだ??!」


「ちゃんとTシャツ着てるから大丈夫。このシャツ紺色だから、これを結城さんの腰辺りに巻いて運べばいいよね」


「わたしが上原くんに運ばれるのは決定なの…? 上原くんが先生呼んできてくれればいいんだけど……」


「そんなことするより結城さん運んだほうが早いでしょ。大体そんな今にも倒れそうな女の子置いておけないよ。大丈夫これでも筋トレちゃんとやってるから結城さんくらい抱えて走っても転ばないようにするし、絶対落とさないから。俺のこと信じて。」



ごもっともである。ぐうの音もでない。


というより、イケメンにイケメンなことを目を見てまっすぐ言われて、ただでさえ過剰に動いている心臓が余計に跳ねた。

これ以上顔が赤くなってどうするんだ。本当に倒れちゃうぞ…










そうして上原くんに保健室まで運んで貰い、保健室の予備の下着やナプキンをお借りし、服の着替えも友人らに更衣室から持ってきてもらったりし、無事に午後の授業まるまるベッドの住人と化すことが出来た。



え?上原くんにお姫様抱っこされた道中?そんな恥ずかしいこともう記憶から消したよ……。

いや、嘘です全然消せてません。はっきり鮮明に覚えてます。



上原くんは、わたしがこんな状態で運ばれてることをあんまり人に見られたくないという図々しいお願いに対して、タオルをわたしの頭に掛けるということで対処してくれた。


しかしわたしは、バスケ部のイケメン上原くんはとても目立つ有名人であったことをすっかり失念していた。


いや、廊下を走らないように、でも急ぎ足で掛けていく頭にタオルをかぶり腰に上原くんのシャツを巻いた女子を運んでいるという図は例え上原くんが運んでいる主じゃなくてもそこそこざわつく構図ではあるのだけど、そこに有名人の上原くんが、という枕詞が着いたらもうそれは学年だけでなく学校中の噂になったようだ。



3度めだが、最悪としか言い様がない。



だけど全く上原くんは悪くないのだ。


むしろ、ただでさえ昼休憩中に自主連をしようとして体育館に来ただけなのに(運んで貰っている最中に聞いた)、わたしという厄介な病人?がいたせいで遠い保健室まで運ばせてしまい、しかもその際に自分のタオルとシャツをわたしの汗と血で汚し、その上噂の人間にさせてしまった。




上原くんはただの巻き込まれた被害者である。









「あ、もうだいぶ顔色良くなってるね」



保健室のベッドのカーテンを開けて、にこやかにこちらに微笑みかけてきたのはつい先ほどまでわたしの頭の中に浮かんでいた上原くんだった。

欲をいうなら、一声掛けてからカーテンを開けて欲しかった……。さっきまで寝てたんだし、うっかり寝顔を見せられるような顔面してないぞわたしは……。



「うんお陰さまで助かったよ。ありがとう」



でもそんな文句はさすがに言えない。

そんなこと言えないほどに今回上原くんにはご迷惑をかけてしまっている。

借りが多過ぎて借金まみれみたいな状態だ。わたしはこの借りをどうやって返済すればいいのだろう…。



「どういたしまして。でも体調悪いって分かってたんだったら、一人で片付けを請け負うとか無茶したらダメだよ? 俺が来てなかったら本当に倒れてたとこだったんだから」


「う………それはもう先生にも友達にも散々言われた……本当に反省してる……」



それはもう、本当に色々な人に怒られた。

シュークリームを優先させた友達には、ちゃんとお口があるんだから、遠慮しないで言ってよね!シュークリームより友情のほうを優先するに決まってるでしょ?!!と言われてしまった。


でも本当に大丈夫だと思ったのだ。というと皆に、今後は自分の大丈夫を過信し過ぎないでと追加で怒られた。


上原くんにもそう言ったらやっぱりみんなと同じような顔して、今後結城さんが大丈夫って言ってもまた同じように抱っこして運ぶからねと言われた。勘弁して欲しい。



「いやもう抱っこは勘弁して……。友達に聞いたけど、なんかわたしと上原くん噂になっちゃってるらしいじゃんか……やっぱり運んで貰うべきじゃなかったよほんとごめん……」



そう、上原くんの噂が、と言ったが正確にはわたしと上原くんの噂だ。

つまりその、わたし達が付き合っているとかそういう類いの思春期少年少女のいかにも食いつきやすい広めやすい噂だそうだ。

これを友達から聞いたとき、本気で頭を抱えた。



上原くんはいつもみたいに爽やかに笑いながらベッド脇に置いてあるパイプ椅子に腰かけた。


え、座っちゃうんだ……?いま噂になってるって知ってるって言ったとこなのに………?


大体いまの時間はHRも終わったところなので、体操部のわたしは同じクラスにいる同じ体操部の子に今日の部活は休むと顧問の先生に伝えて貰ったから後は教室に自分の荷物を取りに戻ってから帰るだけだが、上原くんは部活に行かなくてもいいのだろうか。



「あ、結城さんの荷物って鞄とお弁当の入った袋だけで良かったよね? 俺が持ってきてるから教室に戻らなくて大丈夫だよ。あと、長野に部活遅れるって言付けておいたから平気だよ。結城さんをせめて校門までは送ろうと思って」



わたしの言葉はスルーされたらしい。

うーんまあ、教室に戻らなくて良かったのは助かるけども。



「ええと、鞄持ってきてくれてありがとう助かったよ……でもわざわざ上原くんが持ってきてくれなくても……というか、もう大丈夫だからそんな心配しなくても部活行っていいんだよ……?」


いま君とふたりでいるこの状況とか。

隣のクラスなのにわざわざ鞄まで持ってきてくれたとか。

もうこれ以上わたし達が付き合っていると誤解される要因増やしても上原くんが迷惑なだけだから早くみんなの誤解を解いて速やかに部活行って欲しいという意味をこめて言ったのに、上原くんはいつものあの申し訳なさそうな顔をして、今後結城さんが大丈夫って言ってもダメって言ったでしょ。なんて言われても結城さんが迷惑だって言わない限りは門まで送るからね、ときっぱり言った。


うううわたしの信用度が低くなったせい

か……!


そういうことなら仕方ない……のか………?



上原くんが椅子に腰掛けて待ってる間に寝ていたために少し乱れた制服を整えて帰れるように支度をする。


上原くんの目の前でセーラーの胸当てのスナップを止めたりスカートのひだの乱れを直すのは少し恥ずかしい。

けれどそれを本人に言ったら「え、こいつもしかして意識しちゃってんの?ないわー。ただ優しさから送るって言ってるだけなのに自意識過剰すぎかよ。ないわー」とか思われたらやだなと思って言わなかった。

上原くんはそんなこと思わないと思ってるけど、根が小心者なので、学校というカーストで上位にいるひとになるべく目をつけられないよう波風立てないよう生きてる身としては余計なことは言わないが吉だろう。


結局上原くんは、わたしがスカーフを結び直すまで椅子に座ってわたしの支度を眺めていた。


そんなに見るほど面白かったですかね……




「…待たせてごめんね、帰れます!」


「全然待ってないよ。それに、女の子の制服ってそういう風にボタン止めたりスカーフしばったりするんだなって思ってじっと見ちゃった」


あ、面白かったんなら多少は恥ずかしかったけど良かったです……


「ええと、お借りしたシャツとタオルなんだけど、タオルは洗ってお返しするとして、シャツのほうは汚れが付いてなかったとはいえわたしが気になるので買って返すことにするね。だからちょっとお渡しするのが遅くなるとおもうんだけど大丈夫かな…?」


「え、いやいやタオルもシャツも今そのまま渡してくれればいいよ。結城さんの荷物になっちゃうでしょ」


「いやいやいや、流石にそれはちょっと!」



一応どちらも汚れてないか確めたあとに(幸いにも腰に巻いたときにズボンの染みは移らなかったらしい。本当によかった)畳んでベッド脇に置いておいたのだけど、汚れてはいなかったとはいえ、わたしの腰に、というか尻に巻いたものとわたしの汗を拭いたあとのものをそのまま渡すだなんて出来るはずがない。

右手を差し出してくる上原くんに抵抗するように畳んだシャツとタオルをぎゅっと抱き締めてわたしがもって帰りますというポーズを取る。


上原くんの顔が少し赤くなった。子どもっぽい行動するなってことかな…



「……うん、やっぱり俺が持って帰るから大丈夫だよ」


あっ、強引にわたしの腕から持ってった!


むむ……と睨むわたしの右手首を取り、左手にわたしの鞄とシャツ達を持った上原くんは保健室を出ようと歩き出す。手首を持たれているため当然わたしも一緒に動くことになる。



ちょっと待ってだから噂が!!加速するじゃん!!!



ちゃんと歩けるから手首離してと言っても離してくれなかったし、せめて自分の荷物は持つと言ったけど無視された。

上原くんってこんな強引なひとだったっけ……?!いつも配慮してくれるような優しい感じはどこにいったんだ…?




昇降口に着いて、上履きから靴に履き替えるタイミングでようやく手首を離してくれたと思ったら、上原くんが口を開いた。


「あのね、結城さん」


「うん、なに?」


爪先をトントンと鳴らして靴を履く。

さあもう荷物を渡してくれていいんだよと右手を上原くんに差し出すと、上原くんはにっこり笑って手を繋いできた。

違う違う!手を繋いでって意味で手を出したんじゃないんだよ!!!!ニコニコ笑ってんじゃないよ絶対分かってやってるでしょうからかわないでください!!!


ってちょっとー!歩き出さないで!!



「もしかしたら結城さんは全然気付いてないかもと思ってちゃんと言っとくけど、いま流れてる俺たちの噂、あれ俺が原因だからね?」


あ、ふつうに話続けちゃうんだ…?

って思ったけど、噂………?噂ってアレだよね、わたしと上原くんが付き合ってるっていう。


「……?上原くんが原因ってどういうこと?」


「結城さんを運ぶとき、タオルを頭に掛けてたから、誰が運ばれてるのか誰も分かんなかったんだけど、俺が言っちゃったんだよ。結城さんだよって」


え、言っちゃったのは別に良くない…?

だって聞かれたから答える、みたいな感じってことでしょ………?? それだけで原因って言うのは違うんじゃないかな……?


「……うーんやっぱり気付いてなかったか。結城さんはなんかおかしいなって思わなかった? いつも長野と話すのにわざわざ扉前を陣取ってるの。あれね、俺が結城さんの視界に入ってたくてわざとあそこで喋ってたんだよ?」


「確かにいつも喋るなら廊下にいけばいいのにとは思ったことあるけどわざとって……………………えっ?」



いや、まさか……まさかそんな、



「長野に結城さんが体調悪そうだったから抱っこして運んだんだって言ったら、いつも話し掛けるのにも理由いるようなヘタレのくせにいつの間に付き合いだしたんだよって勘違いされてね。……俺にとってその勘違いは都合が良いから黙ってたら、いつの間にか校内中に噂が出回っちゃったんだ」


だから俺が原因。ごめんね?

といつものように申し訳なさそうに謝る上原くんにわたしは、ただひとこと


「大丈夫だよ……」


と熱中症とは別の理由で熱くなった顔をしながら返すことしかできなかった。

結城蒼:流されちゃう系ヒロイン。中学から体操部で、体操部の強い高校にきた。

体育館練習をする際に、コートの半面をバスケ部と体操部で共有することがあるが、真面目に練習をしているため例えバスケのコートが盛り上がっていてもあまり興味を示さない。

でも教室のなかで上原をみる分にはとても好みの顔をしているため、良い観察対象だなあと思っている。

自分は地味に生きているつもりでも、体操部のレオタード姿は多かれ少なかれお年頃の生徒に注目されてしまうということをあまりわかっていない。というより、中学から慣れすぎているため、例え上原の前だろうと全裸じゃないんだから制服の乱れを直すくらいそこまで恥と考えてない。


上原:外房を埋める系ヒーロー。中学からバスケ部。中学のときは背が低かったためそこまででもなかったが、背が伸びた現在は蒼に爽やかなイケメンと評されるだけあって普通に結構モテる。でも、高校にはいってすぐ体操部と半面ずつ共有する部活内で蒼に一目惚れして以来、少しずつ蒼に自分を認識してもらったり、一言ずつ話せるようにしたりと距離を詰めてきた。今回の件で、案外自分のことを蒼が嫌がらないんだなと思ったので、今後はもっとぐいぐいイケると思っている。


長野:上原にロックオンされた蒼を可哀想にと思いつつ、自分がもう出汁にされないならいいかとも思っている上原の幼なじみ。

小学生から上原とは同じ学校だが、上原とは違いバスケは高校から始めた。

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