51話
俺たちは現在、籠城を決め込んでいた。
《監獄結界》で結界を張り、その中で待つことにした。
「何をしているんだ、タイガ」
ダンティーが苛立ちながら俺に言った。
「待ってるんだよ」
「だから、なにを待ってるんだ」
「時が来るのを……だ」
「こんなことをしている間に、村がどうなってもいいっていうのかっ!」
ダンティーが俺に詰め寄った。
非常に顔が近い。
「結界の外で戦っても死ぬだけだ。戦いには待つことも重要な時がある。俺を信じろ」
「……同じことをある人にも言われたよ」
「そりゃ奇遇だな」
「本当だ。父子揃って同じことを言うとはな」
ダンティーは苦笑して言った。
「気付いていたのか、俺がレイク・サクティスの息子だって」
「ついさっきな。普段の性悪な目と違い、今のお前の目はレイクそっくりだ」
「目って、そんな曖昧な理由なのか。なんだ、誤魔化せたんじゃないか」
てっきりもっと確信的な証拠を持っているのかと思った。
まったく、リーナといいダンティーといい正体がバレてばかりだな。
「それで、待つって具体的にどうすればいい?」
「俺の仲間がいま動いているんだ――が、悪い。待ってもいられなくなりそうだ」
結界の色が薄くなってきている。
俺の結界の制限時間が切れようとしているのだ。
「結界をすぐに張りなおすことはできないのか?」
「《監獄結界》は一度使うともう一度使うまで一時間空けないといけないんだ」
「そんな制約があるのか――」
「合図したらその場に伏せろ」
俺はファイヤーソードを生み出して言った。
結界の色がさらに薄くなる。
もうほとんど透明だ。
「いまだっ!」
結界が完全に解ける前に、俺は自分で結界を解除した。
そして――
「追加投資100万ゴールドっ!」
今度は七十メートル近くに延びたファイヤーソードを、体を回転させて三百六十度の敵を薙ぎ払った。
しかし――
「それでも焼け石に水は変わりない……か」
不死生物たちがまた近付いてくる。
何度繰り返したら不死生物を全滅させることができるのだろうか。
いや、どうやったらいいか、じゃない。
時間が来るまで戦う。
それだけだ。
※※※
私たちの戦いは佳境に入っていました。悪い方に。
幾度となく戦線を下げました。
「これ以上戦線を下げたら、魔物たちを倒しても瘴気で土地が汚染されるっ! 皆、死ぬ気で死なずに戦うんだっ!」
ハンさんが渋い顔で叫びました。
「聖なる矢っ!」
私が放った光の矢が、ゾンビやスケルトンを浄化していきますが、それでも敵の数は一向に減りません。
このままではダメ――そう思った時でした。
「嬢ちゃん、こんなところにおったのか」
場違いにのんびりとした声に、私は驚きました。
だって、そこにいたのは私が知っているドワーフ――ガイツさんだったからです。
「ガイツさん、どうしてここにっ!?」
「坊主に頼まれたものを届けに来ただけだ。ふぅ、疲れたから、ワシは帰るぞ」
ガイツさんはそう言うと、大きな箱を置いて本当に帰っていきました。
そして、その荷物というのは――
「これはっ!?」
私はそれを持ち上げ、そして声を上げます。
「皆さん、ミスリルのガントレットが届きましたっ! これを使ってください」
その数は、ざっと見積もっても五十組はあります。
「ミスリルのガントレットだとっ!?」
声を上げたハンさんに私はガントレットを投げました。
ハンさんは器用にガントレットをはめると、攻めてきたゾンビを殴りました。
すると、ゾンビの頭がいとも簡単に砕けました。
これが、破邪の金属と呼ばれるミスリルの力。
――ガイツさん、ありがとうございます。
これで、まだ戦線を維持できそうです。
「タイガさんがノーライフキングを倒すまで持ちこたえますよっ!」
私はそう言い、さらに聖なる矢を放ちました。




