50話
「《守護者の盾》っ!」
兵の皆さんに防御魔法を使い、不可視の壁を作り出しました。
グリフォン相手には効果の薄い魔法ですが、聖魔法の一種であるこの魔法、ゾンビやスケルトンには簡単に潰すことはできません。
しかし――
「ユマさん、もっと数を増やせないんですか!?」
「すみません、これ以上は増やせません」
私が一度に作ることができる《守護者の盾》による壁は五枚。
当然、不死生物全てを対処できる数ではありません。
《守護者の盾》による壁と壁の間から不死生物が漏れ出てくる――それをハンさんのお弟子さんたちがなんとか食い止めている状況ですが、しかし、戦線を維持するのも困難な状況です。
「ユマさん、これ以上は持たない――」
「わかりました。これから三十秒後、合図をしたら後ろに走ってください。三秒後に《守護者の盾》を解除します。その後、五十メートル後方に戦線を再構築します」
私はそう指示を出します。
「走ってくださいっ!」
私が合図を出すと、私と、そしてハンさんのお弟子さんたちが一斉に後ろに走りました。
そして、三秒後、《守護者の盾》を解除します。
「ここに《守護者の盾》を再び作ります」
と私が魔法を唱え始めた――その時でした。
不死生物の群れから走ってくる巨大な魔物。
鷲の上半身と獅子の下半身を持っている魔物
グリフォン――いえ、違います。あれは――
「グリフォンゾンビ……」
タイガさんが倒したグリフォンは、インベントリに保存しているって言っていたのに。
そういえば、グリフォンは本当は番で行動しているって言っていたのに、一頭しかいなかったという話でした。
ということは、あれはタイガさんが倒したグリフォンの旦那さんか奥さんということ――一年前、既にノーライフキングによって殺され、不死生物に作り替えられていたということですか。
グリフォンが他のゾンビやスケルトンとは段違いの速度でこちらに向かってきます。
このままでは、《守護者の盾》が間に合わない。
戦線をこれ以上下げても追いつかれる。
絶望を感じた――その時でした。
「《愚者か勇者か》」
突然、そう叫んだのは、ここにいないはずのライアートさんだったのです。
グリフォンゾンビは、ライアートさんの方に向きを変えて走りました。
「ユマの嬢ちゃん、グリフォンゾンビは俺に任せろっ!」
「どうするのですっ!」
「グリフォンゾンビを亜聖域まで誘導する。俺の足ならそうそう追いつかれない」
そう言って、湖の方に走っていきました。
なんて無茶を――しかし助かりました。
ライアートさん、絶対に無事に生きてください。
タイガさん、早くノーライフキングを倒してください。
アスカリーナ様――あなたにはまだ黙っていたことがあります。この戦いが終わったら全て話しますから、絶対に生きてください。
私はそう願いながら、《守護者の盾》の魔法を唱えました。
※※※
「グルーさん、代官様は本当に大丈夫なんじゃろうか?」
「大丈夫です、タイガさんが倒してくれますから。僕も妹のコロナもタイガさんに何度も助けられたんですから」
僕はそう言って、不安がるお婆さんにいかにタイガさんが立派な人かを話しました。
タイガさんだけではありません。
この村には僕たち冒険者もいるのですから、この人たちは僕たちが守らないといけない。
「グルー、もっと肩の力を抜け。ほら、杏子飴じゃ。食べるじゃろ?」
タイガさんといつも一緒にいるゼニードちゃんが、僕に杏子飴を差し出してくれた。
「ありがとう、ゼニードちゃん。でも、僕は大丈夫だよ」
「そうか……仕方ない他の者に配るか。今日中にあと百本は消費したいのじゃがな」
ゼニードちゃんは残念そうに言って、他の人のところに杏子飴を持っていった。
でも、いまは緊張して喉がカラカラだから、杏子飴なんて食べたら余計に喉が渇いちゃうよね。
「グルーさん、喉が渇いているなら水を飲みますか」
そう言って、僕に水の入ったコップを渡してくれたのは、同じ冒険者の人だった。緊張しているのか、顔色はあまりよくない。もしかしたら、僕も同じような顔色をしているのかな?
「ありがとうございます。喉が渇いていたので助かります」
僕はそう言って水を飲もうと――
「飲むな、バカ者っ!」
ゼニードちゃんが怒ってそう走ってきた。
杏子飴を食べなかったのに水を飲んでいることに怒っているのかな?
そう思ったときだった。
ゼニードちゃんは金貨を一枚取り出し、
「《神を穿つ矢》っ!」
タイガさんが使うのと同じスキルを使った。
そして、僕に水をくれようとした冒険者の頭を射貫いた。
「うわぁぁぁぁっ!?」
村人たちがゼニードちゃんの突然の攻撃に、悲鳴を上げた。
「ゼニードちゃん、なにやってるのっ!?」
僕も驚き声を上げたが、
「えっ!?」
額を貫かれたはずの冒険者の男は、ぼーっと立ったまま、自分の頭に開いた穴を手で確認した。そして、貫かれた頭からは血が一滴も流れていない。
まさか――
「人間じゃない――不死生物かっ!?」
僕はようやく冷静になり、水の入ったコップをその場に捨て、その冒険者の首を切り落とした。
その冒険者は首を切り落とされるも、手足をバタバタと動かし、そのまま動かなくなった。
「山で山菜を摘んでいるときにノーライフキングに殺されておったのじゃろ――タイガの読み通りじゃったというわけじゃな」
ゼニードちゃんはそう言うと、地面に染みこんだ水を見る。
「遅効性の猛毒じゃな。飲めば不死生物の仲間入りじゃったわけじゃ。村人全員に配るつもりじゃったようじゃ」
「……生きている人と変わらなかったのに」
「まぁ、動き、聞き、見て話しもする。生きている人間との違いなんて些細なものじゃ」
ゼニードちゃんはそう言うと、無邪気に笑った。
そして――
「妾はちょっと用事がある。タイガが戻ってきたら、ちょっと金を貰うと伝えておいてくれ」
「え?」
僕が気付いた時には、ゼニードちゃんの姿はどこにもなかった。
その代わり――
「忙しいところすまんが、タイガって坊主の村はここでよかったのかな?」
見知らぬドワーフさんが現れたのでした。




