49話
本当はひとりで戦うつもりだったが、余計な先客がいた。
「ダンティー、こんなところでなにをしてるんだ? 危ないから下がってろ」
「この不死生物は戦争で死んだ奴らだ。俺は、彼らを利用している奴が許せない」
「だから戦うっていうのか――不死生物相手に、その骨とう品のような剣だと碌に戦えないぞ」
俺はそう言うと、腰に差していたミスリルの剣をダンティーに渡した。
「これを使え――ミスリルの剣なら不死生物にも有効だ」
「お前は何を使う?」
「俺が使うのはこれだよ」
そう言って金貨を一枚弾く。
不死生物が苦手なのは、光属性の攻撃。その次に苦手なのが火属性の攻撃だ。
つまり、《ファイヤーソード》は有効なのだ。
制限時間があるので、いまはまだ使わないが、しかし、相性が悪い相手ではないということだ。
「……借りておく。しかし、普通の武器が効かないのなら、村の戦士たちは大丈夫なのか?」
「完全に効かないわけじゃない。ただ、ダメージを与えにくいってだけだ。頭を潰せばいずれ動かなくなる」
すぐに死なないところが恐ろしい話だ。
そして、一番恐ろしいところは――
「ダンティー。俺たちの目標は、不死生物が村に近付き過ぎるまでにノーライフキングを倒すことだ。時間を掛けずに行くぞ」
俺はそう言うと、大銀貨を二枚取り出し、速度上昇の魔法を使う。
「急ぐぞ、ついてこい」
「――貴様に従うのはいまだけだぞ」
「わかってる、それで十分だっ!」
速度を上げた俺たちは、アンデッドの群れを回り込むように隠れて走り、ノーライフキングを探した。
完全なスケルトンは別にいいのだが、中にはゾンビが混ざっており、その死臭のせいで鼻が曲がりそうだ。
勿体ないが、大銀貨を使い《消臭》スキルを使う。
「おい、あれじゃないか?」
ダンティーが何かを見つけた。
よく見えないので、《遠見》のスキルを使い、それを見た。
不死生物共が担ぐ神輿の上に乗せられた、神官の服を着て仮面を被っている男(?)がそこにいた。
目立つところにいる――あれがノーライフキングか。
しかし、距離が遠い――ここからだと《神を穿つ矢》では狙えない。
「時間がないんだろ、タイガ。なら、ここは突撃するしかないだろ」
「――かなり危険だ。覚悟はできているのか?」
「俺はひとりでも行くつもりだった。覚悟はとっくにできている」
「わかった。お前が死んだら、俺が責任を持って死体は処分してやるよ」
俺もまた、金貨を《ATM》から引き出し、《ファイヤーソード》を生み出した。
そして、ふたりして不死生物の群れ目がけて走る。
が、まずは先制攻撃だ。
いきなり大技をかますっ!
「追加投資、50万ゴールド!」
金貨50枚が一瞬に消え、剣の長さが五十メートルくらいにまで伸びた。
剣は炎でできているので、重さは変わらない。俺は剣を構えると、それを薙ぐように払った。
俺を中心とし、半径五十メートルの半円の範囲の不死生物たちが次々に炎の剣によって胴体を焼き切られていく。
と同時に、《ファイヤーソード》が消えうせた。
追加投資の額が高ければ高いほど、剣の刀身も伸びるのだが、しかし持続時間が減少してしまう。
「凄い。一撃でこれだけの不死生物を」
「これだけ倒しても、焼け石に水って感じだな。まぁ、焼いたのは俺の方なんだが」
俺たちの存在に気付いた不死生物たちが俺たちに向かって歩いてくる。
ここからが本番だ。
そう思ったときだった。
『よく来た、勇敢な冒険者よ』
声が周囲に響いた。
と同時に、ノーライフキングが座っている神輿への道が開かれた。
俺たちを呼んでいるのか?
「罠……と見ていいな」
「だが、時間がない。ここは罠に乗るしかないか」
ダンティーが警戒するも、俺はその罠に乗ることにした。
敵たちの中心に行けるのなら、それに越したことはない。
それに、俺はどうしてもノーライフキングに聞きたいことがあった。
『よく来た、強き戦士たちよ。貴様たちは北の村の住人だな。その勇気に免じ、貴様らに機会を授けよう。貴様たちが私の部下になるというのなら、貴様たちだけは生きたまま配下に加えよう。そうすれば、貴様と、そして貴様たちにとって大事な者ひとりの命だけは助けてやる』
「なるほど、いい条件だ。しかし、その前に聞きたいことがある――ノーライフキング」
『なんだ?』
「北のサクティス王国、王城が攻め滅ぼされる直前、魔族からの言葉を聞いた人たちが城門の扉を開けた。城門を開けた人間は外からやってきた魔物に真っ先に殺された」
『私も同じように嘘を吐く――そう言いたいのか?』
「その目撃者の話によると、扉を開けた人間たちは、まるで死んでいるかのように青白い顔の男だったという。その人たちは、本当に魔族の言葉に耳を貸したのか?」
俺はノーライフキングを睨みつけて言う。
「そいつらは、最初から死んでいて、お前に操られて城門を開けたんじゃないのか?」
『ほう、よく気付いたな。その通――』
ノーライフキングが言い終わる前に、俺は《神を穿つ矢》を放ち、ノーライフキングの頭を打ち抜いた。
面が割れ、その素顔が現れ――なかった。
面の向こうにあったのは骸骨――スケルトンだった。
スケルトンは頭を打ち抜かれ、糸の切れた操り人形のようにその場にバラバラになって崩れた。
『交渉は決裂か――ならこの場で死ぬがいい、愚かな冒険者よ』
交渉に乗っていたら乗っていたで、大切な人を人質に取られ、使い潰された挙げ句、結局俺もダンティーも、その大切な人も全員殺されていただろうな。
もしかしたら、寝ているときに不死生物に作り替えられたかもしれない。
しかし、事態はよくない。
本物のノーライフキングがどこにいるか、まったくわからないのだから。
村は無事だろうか?




