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48話

 高台に上り、《遠見》のスキルを使って南を見る。

 ゼニードの言う通り村の南の大地を埋め尽くすスケルトンやゾンビの群れがいた。そして、こちらに向かってゆっくりと、本当にゆっくりと歩いてくる。

 しかし、あと数時間もすれば村に辿り着くだろう。


「くそっ」


 俺はクイーナのコールを切って悪態をついた。


「どうでしたか、タイガ様」

「ダメだ、王都からの援軍は直ぐには駆けつけられない」

「何故ですっ!? これだけの不死生物(アンデッド)、まさに国の一大事です! 私から父上に――」

「違う、そういう問題じゃない。動かせる騎士がいないんだ」

「なんで……」

「余裕のある騎士は北に出兵している」


 神竜の爪痕の周囲に現れた魔物に備えて。

 余裕のある兵は全て出兵しているので、こちらまで回すことはできないのだ。

 神竜の爪痕での魔物の出現と、今回の不死生物(アンデッド)の大量発生、ただの偶然だろうか?

 そんなわけがない。


「裏でノーライフキングが手を引いている可能性がある」

「ノーライフキング?」

「死者を操る魔族だ。かつて、サクティス王国での戦いでは疫病を使い町を滅ぼし、全てゾンビに作り替えたこともある」

「どうして魔族がここにっ!?」

「不思議に思っていたんだ。ノスティアのブラックドラゴン騒動、そして神竜の爪痕に集結している魔物たちの情報――すべて魔族にしては迂闊すぎるって」


 どうせ行動を移すなら、“凪の谷”が起こると同時に仕掛ければいい。

 なのに、何故こうも段階を分け、俺たちを警戒させたのか?

 全ては陽動だったとしたら納得がいく。

 本命は“凪の谷”ではなく、この不死生物(アンデッド)だったんだ。


「しかし、何故この場所に――」

「ここでは、かつて戦争があった。なかったことになっている戦争が。多くの人が死んだ。だから、あるんだよ――不死生物(アンデッド)を作り出すための素材がな」

「戦争――私も聞いていましたが、ということは、まさかあの不死生物(アンデッド)たちは」

「ああ、戦争の犠牲者だよ。国を攻めるために戦った人間、守るために戦った人間、彼らが手を取り合った結果、生きている人間を全て滅ぼそうとしているんだ。戦争は哀しみしか生まないっていうけれど、本当にその通りだな」


 俺はリーナの方を向き、言う。


「リーナはゼニードと一緒に、危ないと思ったら村人たちと一緒に逃げてくれ。冒険者たちを護衛に付ける。この村は、俺とハンと元盗賊どもだけで守る」


 今回の相手はノーライフキングだ。

 ノーライフキング相手に数の勝負は無意味を通り越して逆効果となる。戦いで死んだ者はすべて不死生物(アンデッド)に――敵になってしまうのだから。


「私も戦いますよ、タイガさん」

「……ユマ……お前は逃げろ、って言いたいが相手は不死生物(アンデッド)だ。確かにお前の力は必要になるな」


 そして、俺は控えていたハンとその弟子たちに命令した。


「村人全員、屋敷の前に集めてくれ。これからすべて説明する」


 代官としての役目を果たすため、俺はそう命令をした。


 十分後、最低限の見張りを行っているハンの弟子たちと、そしてダンティーを除き村に住むもの全員が屋敷の前に集まった。


「皆、現状はおおむね理解していると思うが、改めて言う。この村に向かって、一万を超える不死生物(アンデッド)の群れが向かってきている」


 俺の宣言に、ざわざわと村人たちが声をあげるが、俺が口を開くと、また全員黙って俺の話に耳を傾ける。


「まぁ、安心しろ。不死生物(アンデッド)の一万匹や十万匹、ブラックドラゴンを倒した俺の敵じゃない。ハンの弟子たちもいるし、破邪魔法を使える修道女(シスター)もいる。俺たちの課題は、いかに被害を出さずに戦うかってことだ。ゾンビの肉が食べられないのが残念だな。肉は腐る前がうまいって言うが、腐った肉はさすがに食えん」


 俺が笑って言うと、村人たちの緊張がいくらか和らぐ。

 しかし、そんな話ではない。

 俺の銭使いのスキルは、良くも悪くも一対一の戦いに有利なものが多いのだ。

 魔族の数はそれほど多くない。魔族さえ倒せば魔物は烏合の衆となる。そう思ってのことだったが、やはり集団相手のスキルがないというのはこういう時に困る。


「これから指示を出す。ユマは不死生物(アンデッド)たちの進行上に結界を張って足止めをするんだ。ハンとその弟子たちは鍛えた肉体で足止めした不死生物(アンデッド)を各個撃破していけ。ただし無茶はするな。死ねば不死生物(アンデッド)として敵になるからな。不死生物(アンデッド)の中には毒をもつものもいる。毒にかかった奴はゼニードのところに連れていけ。ゾンビやスケルトン程度の毒なら100ゴールドもあれば治療できる。治療費は町の運営費から負担するから遠慮するな。村人たちは村の北側に避難。冒険者たちは彼らの護衛を頼む。これは冒険者ギルドからの正式な依頼だ。報酬はひとり一日3000ゴールド。魔物と戦う必要はない、ただトンネルを通って北の村に逃げてくれたらいい」


 俺の命令に全員が頷いた。

 そして、最後に――


「俺はひとりでノーライフキングの元に向かうつもりだ」

「タイガさん、待ってください、それはあまりにも危険――」

「忘れたのか? 俺には転移スキルがある。いざとなったら逃げて、態勢を整えられる」

「でも、万が一のことがあったら――どうしたんですか? ブラックドラゴンと戦うときはあんなに渋っていたのに」

「別に――大した理由じゃない。しょうもない理由だよ」


 それこそ、ダンティーが俺の下で働かないのと同じようなくだらない理由だ。

 村を守るためとか、俺のために働くやつのために働くのが王になる男の役目だとか、そんな話ではない。

 自分勝手で我儘でひとりよがりな――って全部同じ意味か――まぁ、つまりは利己的な理由だ。


「じゃあ、ちょっくらいってくる」


 俺は歩いて村の外へと向かう。

 村のことは皆に任せて。


「――タイガ」

「なんだゼニード。お前は村のみんなと避難してろって言っただろ?」

「転移魔法は周囲の空間を己の者とし、操る魔法じゃ。だから、敵の多い場所では使えん。その程度知らぬ貴様ではないじゃろ」

「なんだ、ゼニードも知ってたのか」

「当たり前じゃ。それは妾が与えたスキルなのじゃからな」


 そりゃそうだ。

 この銭使いのスキルは、ゼニードによって与えられているものなのだから。


「それでも行くのか?」

「ああ、行かねばならん。あいつも先に行ってるだろうしな」

「そうか――」

「なぁ、ゼニード。ひとつ頼みがあるんだが――」


 俺は先ほど妙なことに気付いた。

 杞憂だったらいいのだが、しかし相手がノーライフキングだというのなら、俺の予想が当たっている可能性も決して低くない。


「なるほど――それは確かに皆に話せば混乱を生みかねん。わかった。しかし妾は全能の神ではあるが、その力を行使するには――」

「ほら、これを使え」


 俺は金貨五百枚――500万ゴールドをゼニードに渡した。


「な、ななな、なんじゃこの大金は!?」


 金を要求してきたくせに、渡したら狼狽えるって。

 かつて始祖の七柱に数えられた神のくせに、500万ゴールドで狼狽えているのか。


「まさか妾へのプロポーズか!?」

「余った分は返せよ」


 俺の現在の所持金の約三分の一なんだからな。

 くそっ、ネギ畑を作るのに土を買ったり、増えた人口の食糧を賄うために穀物や芋類を買ったりして、お金を使いすぎた。

 最近、家計簿が真っ赤だったんだよ。ワイバーンを売って得たお金がなかったらどうなっていたことか。

 本当、これ以上無駄遣いをしたくない。


「とにかく、任せたぞ」


 俺はそう言うと、南に向かって歩いていく。

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