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47話

「見てください、タイガ様っ! 魚がいますよっ!」


 村の中を通る川を、川のような魚が泳いでいた。


「なんという魚なんですか?」

「ダークバスだな。もともとこのあたりにはいない外来生物だよ。いったい、誰が持ち込んだのか――あ、味はそこそこ美味いぞ。市場では一匹12ゴールドが相場だな」


 この前、魚釣りで釣れたのも全てダークバスだった。

 食欲旺盛なので、すぐに餌に食らいつく。

 日本のブラックバスなら生態系を崩すと問題になる話なのだけれど、こっちの世界ならいい食料源になるので喜ばしい話だ。

 え? 生態系の問題はどうでもいいのかって?

 そういうのは後の世代に任せるよ――っていうのはあまりにも無責任だから、俺は責任を持って釣ったダークバスはキャッチ&リリースせずに、食べたり売ったりすると誓う。

 こういう釣り人の小さなモラルが、生態系を守るに違いない。


「生態系については、国の自然保護団体も苦慮しています。ダークバスを減らすためにダークバスを好んで食べるキタクチドリという大きな鳥を国外から輸入しようかという計画もありますが」

「やめたほうがいいぞ。今度はキタグチドリが生態系を崩すからな」


 むしろ、キタグチドリとやらがダークバスを食べずに元からその湖にいる魚を食べるかもしれない。


「そんな費用があれば、ダークバスの美味しい料理について研究しろ。美味い料理ができたら人間たちはこぞってその魚を捕まえて食べるからな」

「……なるほど」

「ついでに、ダークバスの価値があがれば、この村もダークバスを売って大儲けができる」

「タイガ様、お金の話ばかりですね」

「それが俺だからな」

「(……あの人と似ているかもと思ったのですが、やはり違うようですね)」


 リーナは俺に聞こえないように呟いたつもりだったようだが、俺の耳にはしっかり届いていた。

 リーナはいまでもタイガ・サクティス――つまり過去の俺を探している。

 でも、なぜか、俺がタイガ・サクティスその人だということは結びついていないようだ。王子がこんなところにいるはずがないという思い込みによるものだと思ったのだけれども、彼女にとって、俺とリーナの知っているもう一人の俺との間には決定的な差があるようだ。

 それが何なのかわからないけれど、正体がバレないのなら、それでいい。

 さらに、村の畑を見て回る。

 すると、爺さんが手を上げて俺たちを呼び止めた。


「代官様っ! 姫様っ! おいらの畑を荒らしていたウサギさ捕まえただ! 今夜屋敷に届けんから是非食べてくんろ!」

「ウサギかっ! ありがたくいただくよっ! 毛皮は知り合いの行商人に売るから解体も俺に任せてくれ」

「はははっ、代官様はしっかりものだなぁ。わがっだ、とどけんよ」


 少し訛りがきついが、まぁ聞き取れる。


「タイガ様、随分人気ですね」

「あ、ちゃんと毛皮の代金は半分渡してるぞ」

「聞いていませんよ、そんなこと……半分だけなのですね」


 そりゃ、解体って結構手間だからな。

 インベントリに収納すれば、ウサギをウサギ肉と毛皮に解体して取り出すことは可能なんだけど、解体にも手数料がかかる。ウサギなら20ゴールドくらいだ。

(ちなみに、ブラックドラゴンの解体には10万ゴールドが必要だった)


 しかし、それは勿体ないので、ウサギ程度なら暇なとき、自分で解体している。


「ウサギ肉でシチューでも作るか。ベイリーフに、セージ、タイムはこのあたりで採れたかな……」

「…………」

「あ、そういえばリーナはタイムが苦手だったな。なら、タイムはいらないか」

「えっ!?」


 タイムと聞いて渋い顔をしていたリーナが、タイムを入れないと言ったとき、大きな声を上げて驚いた。

 え? 俺、何か変なこと言ったか?

 俺は相手が嫌いな物を無理やり食べさせる悪人だと思ったのか?

 …………待て、タイムだ。いや、ダジャレじゃなく。

 なんで俺はリーナがタイムが苦手だって知っていた?

 誰かに聞いたのか?

 違う、リーナがタイムを吐き出すところを見たことがあるからだ。

 それはいつ?

 そうだ――思い出した。

 リーナがサクティス王国に来たときだ。

 俺が王子だった頃、幼かったころ、幼き日のリーナがタイムの入っている肉を吐いてしまったのだ。

 それは、王子であることを隠している俺が知っていてはいけないことだった。


「タイガ様、何故私が、タイムが苦手だってわかったんですか?」

「そ、そりゃ、お前がタイムという名前を聞いて渋い顔をしたからだろ。バカでも気付くよ」

「本当に、本当にそれだけですか?」


 リーナが詰め寄る。

 まずい、なんとか誤魔化しきらないと。

 そう思ったときだった。

 ゼニードから《コール》が届く。

 どうせお菓子の催促だろう――と思ったが、いまは助かった。


「悪い、ゼニードから《コール》が来た」


 俺はそう言って、ゼニードの《コール》を取る。

 ゼニードと話しながら、言い訳を考えよう。

 そう思ったのだが、


《タイガ、大変じゃっ! 数えきれない不死生物(アンデッド)の群れが、この村に向かって進行しておるっ!》


 ……なんだってっ!?

 話を誤魔化すどころじゃない事態が俺たちを襲おうとしていた。

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