42話
俺のモヴェラット改革は始まった。
まず、休耕地を平に均し、ネギを植える作業だ。
本当は数週間前から堆肥と元肥を鋤き込むべきなんだが、村人のモチベーションが高いうちに苗床づくりを始めたかったので、今回は俺がインベントリに保存している大量のネギの苗床用培養土を使うことにした。
「種は一から二センチ間隔で条まきだ。深く埋めすぎるなよ。白ネギは酸素の要求量が多いから深く埋めすぎたら生育が悪くなる」
「「「「はい、代官様!」」」」
「水はたっぷりやれ。土が乾燥すると発芽率が悪くなる」
「「「「はい、代官様!」」」」
「水をやったら小麦のもみ殻を撒いてやれ。もみ殻は俺が用意している」
「「「「さすが代官様!」」」」
こうして一日がかりでネギの種を植えた。
当然、元の芋畑の世話もあるので、全員が元盗賊たちとともに交代で行っている。
昨日の会合に参加しなかった者たちは遠巻きに俺たちを白い目で見てはいるが、特に邪魔をするということはないようだ。
さらに翌日。
ライアートと一部の村人を連れて、湖にやってきた。
「さて、これから水路を作る」
水路と言っても、全部を一から作るわけではない。かつての川の部分を利用しつつ、瘴気の強い土地を迂回させるためのバイパス工事だ。迂回させるための場所を決め、そこに杭をうちつけた。川を作る点では問題ない。というのも、戦争が行われるとき、モヴェラット周辺の開発を進める手筈だったらしく、それに備えて川のバイパス工事の計画もあったそうだ。その時に調査を済ませており、いま俺が杭を打っている場所に川を作れば治水的に問題はないそうだ。
「ライアート、みんな期待しているぞ」
「ああ、力仕事なら任せておけ」
ライアートが胸を張って言う。
だが――
「いや、力仕事じゃないぞ? ほら、これを持て」
俺はインベントリから、大量に楓の樹液が入っているバケツを差し出す。
ライアートたちは怪訝そうな顔をしながらも、そのバケツを受け取った。
「お前たちにしてもらうのはこいつらの管理だ」
俺はそう言うと、ATMから小銅貨を一万枚取り出した。合計10000ゴールドだ。
そして、
「召喚、巨大蟻」
俺がそう魔法を唱えると、一万枚の小銅貨が全て中型犬サイズの蟻に姿を変えた。
「なっ! タイガ、これは――」
「巨大蟻だ。ゴブリンやスライムよりも雑魚と言われる最弱の魔物の一種だな。ただし、力持ちで地面を掘るのが得意でな。巨大蟻が掘った穴は絶対に崩れないって言われている。水路を掘るのにも適している」
「雑魚って言ったって、お前――こんな大量の巨大蟻を召喚して操ってるっていうのか?」
「操っている――というのとは少し違うな」
銭使いの召喚魔法というのは、普通の召喚術師の召喚とは違う。
魔力ではなく、お金を引き換えに呼び出し、言うことを聞かせる。
その関係は雇用者と従業員に近い。
金による契約だ。
金に見合う仕事しかさせることができない。
そして、今回の仕事は、その金に見合わない仕事だ。
「金と、そしてお前たちが持っている樹液を対価に、この巨大蟻に働いてもらう。いいか? この巨大蟻、二割はかなり働く。六割はそこそこ働く。残りの二割は全然働かない。その働いている割合を見極め、適切な樹液をあげるんだ」
「適切って、具体的にどれだけ――」
「よし、蟻ども! 樹液が欲しければこいつらの言うことを聞くんだぞ」
と俺が言うと、巨大蟻たちは牙をカチカチと鳴らし、作業を開始した。
ちなみに、この巨大蟻は夜になると自動的に送還される。
まぁ、これを三日も続ければ、迂回路はできあがるだろう。
ちなみに、俺は蟻が掘った土を次々にインベントリに収納していく係だ。
蟻によって掘られた土を収納し、迂回するのに邪魔な部分の川を埋め立てる。
本来ならショベルカーとトラックを何度も使わないといけない作業だが、インベントリを使えば作業が何段階も短縮できた。




