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35話

「第八九二四回この世界でどのように儲けるか! の会議じゃな」

「いきなり回数を盛るな! 赤ん坊の頃から一日一回会議をしていてもそんな回数にならねぇよ」

「しかし、何回か忘れてしまったからな。四桁にはなっておるんじゃないか?」

「まだ八百回くらいだよ」

「そうじゃったか……では、八〇一回でいいな。さて、今回は村おこしじゃ。うむ、やはり村おこしといったら、名産を作って売りだすのが一番ではないか? 激辛料理専門店を並べて町おこしなんてよく聞く話じゃろ?」

「当然だが却下だ。料理だけで人が集まるほどこの世界は簡単にできていないんだよ」


 SNSもインターネットもないから情報の伝達速度も遅いし。ほとんどが口コミに頼っている。

 そして、交通網も整っていない。俺が実際盗賊に襲われたように、町から町に移動するのも命懸けのこともある。

 そんな世界で、日持ちのしない名物料理なんて作っても行商人すら寄り付かん。

 貴族が喜ぶような高級品なら話は別だが、それでも商品のブランド価値を高めるには、やはり時間がネックとなる。

 目に見える成果で一番わかりやすいのは、作物の増産だろう。

 そのことをゼニードに話すと、彼女は何やら考え込む。

 そして――


「なら、やはり輪作じゃな。手始めにノーフォーク四圃輪栽(よんぽりんさい)はどうじゃ?」

「四圃輪栽か。それも却下だ。なぜなら――」

「あの……」


 俺がその理由を言おうとしたところで、リーナが手を上げる。


「その四圃輪栽というのはなんでしょうか?」

「あぁ……えっと、農業について、リーナは詳しいか?」

「書物の知識に偏るところはありますが、修学しております」


 さすがは王女様といったところか。

 自分で書物の知識に偏るということに気付いているのも偉い。

 書物に書かれていることと、現地で行われている農業にはたいてい差があるからな。


「なら、同じ土地で小麦を育て続ければ作物が育ちにくくなるという話はしっているか?」


 同じ土地で作物を育てれば、育ちが悪くなったり、病気になったりする。

 小麦だけでなく多くの作物でそのようなことが起こる。これを連作障害という。

 ちなみに、ネギは連作障害になりにくい。ネギ最高だ。


(まぁ、実際はセンチュウなどの寄生虫が発生した場合、連作はNGになるんだけれども)


 と俺がネギを内心絶賛していると、リーナは頷いて答えた。


「はい。そのため、国内の多くの小麦畑では三年に一度、その土地を休耕地とし、農地の回復を促すように命令しています」

「ああ、それだけわかれば十分だ。四圃輪栽というのは、それが勿体ないという考えでな、小麦、カブ、大麦、クローバーの順番に育てる。カブとクローバーを育てることで地面の回復を促し、作物の増産を促すことができる農法のことなんだ。あ、クローバーは家畜の餌としてな」

「そんな素晴らしい方法があったのですか。ですが、何故それがダメなのですか?」

「理由はいろいろとあるが、まず第一に、この四圃輪栽をするには広大な土地が必要になる。次に、カブを育てるのは、小麦を育てるよりも労働力が必要になる。この村の人口で賄えるもんじゃない。そもそも、カブはこのあたりで育てられていない植物だからな。知識不足過ぎる。素人が手を出したら失敗する可能性が高い」


 実験農園として作るのであれば話は別だが、それこそ計画から実行に移すのに何年かかることか。

 こっちの世界の農業事情に関しては、ネギを育てるためにいろいろと勉強したが、地球での農業の知識は、ゼニードがアニメとか漫画とかで入手した俄か知識が多い。どうしても理想論での話が先行している。

 

「農業革命は個人でするには限界があるということか……なら、素直に肥料の調達で手を打つとするか」

「だな。それも土壌の様子を見てからだけどな」


 こうして、俺たちの話し合いというか雑談は、いつものように何事も進展しないまま終わる。無駄な時間とは言わないが、勿体ない気はする。


「あの、ゼニードちゃんといつもこんな話を?」

「いや? 普段はゼニードが寝落ちするまでだから、きっと肥料についてももっと詰めた話をしていたと思うしな。というか、本当に雑談だよ」

「そうですね、確かに。そもそも、モヴェラットで多く栽培されているのは小麦ではなく芋類ですからね」


 ……芋類だったのか。

 そういえば、そんな資料を読んだ気がする。

 赤っ恥だった。

 ん……芋か。


「口コミ、ブランド価値、連作障害、知識不足、芋」


 これまでのキーワードが俺の頭の中で繋がっていく。

 そうか、そういうことだったのか。謎は全て解けた!

 と犯人を特定した探偵と同じようなドヤ顔で俺はそれを思いついた。


「いいぞ、いい案が思いついた」


 と思ったところで、ちょうどユマとハンが部屋に来た。


「あ、タイガさん。ゼニードちゃん見つかったのなら教えてくださいよ。屋敷の外まで探しに行ったんですから」

「だが、幼子が無事でよかったな」

「ユマ、ハン、悪いが村人の代表を呼んでくれ。挨拶と、そして大切な話がある」


 と俺はふたりに命令した。


 そして、ふたりは嫌そうな顔をしながらも、村の代表を呼びに行った。

 准男爵とはいえ、代官の命令だ。

 当然、その代表は即座にこの屋敷に訪問――しなかった。


「『俺は忙しいんだ。用があるならそっちからこい』って言われました」


 ……おいおい、この町の代官、舐められすぎだろ。いったいどういう仕事をしてたら村人にそんな舐められるんだ?

 あ、ゲズールのせいか。

 なら仕方ないな。


「この村の次なる課題は、湖の活用でもなければ、農業革命でもない。人と人の絆を築くってことか」

「それって、タイガさんが一番苦手なことじゃないんですか?」


 俺がため息をつくと、ユマの奴が余計なことを言ってきやがった。

 まぁ、その通りだけどさ。

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