34話
「じゃあ、部屋を決めておくか。リーナはゲズールが使っていた部屋で寝て貰うぞ」
「部屋を見てからでいいでしょうか?」
「……そうだな」
確かにあのゲズールが使っていた部屋だ、なにがあるかわからない。
変なものとかないよな。
俺とリーナが隣の個室に向かうと、そこからゼニードが出てきた。
「ゼニード、こんなところにいたのか。金目のものは見つかったのか?」
「えっ!」
リーナが俺のことを「子供になにを言ってるんですか?」という目で見てきたのだが――
「うむ、見たところ大したものはなかったの。あのゲズールという男、金は好きじゃが、物には執着せんようじゃ」
部屋を覗くと、ゼニードの言う通り部屋の中はとてもシンプルだった。寝るための部屋という感じだ。
女を連れ込む部屋は別なのだろうか?
これなら消臭を使う必要はなさそうだ。
「ほれ、隠し金庫の中は帳簿しかなかったぞ」
ゼニードはそう言って、俺に一冊の本を見せた。
それは間違いなく、ゲズールがつけている裏帳簿だった。
「……あいつ、結構真面目に帳簿を付けてるんだな……」
「裏帳簿をつけるのを真面目とは言いませんよ」
リーナはそう言うが、しかし面白い。
ゲズールの奴、通行税だけかと思いきや、一部商会と手を組み、そこそこ稼いでいやがった。先ほど話していた、ライオット商会を襲ったというのもその商会を盛り立てるために行っていたそうだ。
他にも、村民ごとの資料を集め、どれだけ税金を搾り取っても大丈夫かまで記してある。
マテス宰相からもらった資料では、ゲズールは取り立ててなんの功績もあげていない無能な男だという話だったが、しかしこれだけ見ると金を稼ぐという点だけにおいては優秀だったと言わざるを得ない。
もっとも、その方法は俺とは全然違う。
こういう禍根しか残さない方法は俺は好きではない。
金を搾り取るのではなく、金は相手に稼がせてその上前を撥ねるのが理想だからな。
帳簿はこの一冊だけでなく、絵画の裏に隠していたらしい壁に埋め込まれた金庫の中には他にも何冊か帳簿が入っている。
ゲズールがこの村に赴任してからずっと書いているらしい。
他にも、この村の作物の資料や周囲の地図、村民の個人情報なども詳しく書かれていた。
「へぇ、湖で貝が採れるのか。あまり活用されていないみたいだし、こっちも商売のタネになりそうだな」
「魔物が出るから、近付けないって書いておるな。退治するのか?」
「ああ――ついでに湖から水を引いて水路を整備するつもりだ。金はかかるが、治水は必要だからな」
「治水か――なら稲作はどうじゃ? 準備はしておったじゃろ? 平地が少ないが、棚田をするには最適じゃと思うぞ?」
「それは湖の水量を見てからだが、いきなり村民に慣れない稲作を勧めるのはな。小麦と違って育つまで時間もかかるし、捕縛した盗賊たちの調教が終わり次第でいいだろ」
もっとも、田植えの時期を考えると、急がなくてはいけない案件でもあるのだが。
しかし、急いで失敗するくらいなら、来年に回してもいいくらいだ。
「いきなりアイデアが湯水のように出てきますが、いつもこのような話をなさっているのですか?」
リーナがあきれ顔だ。
「うむ。タイガとはピロートークとしてこのような話ばかりしているな」
「ピロートークって言うな。こっちは絵本の読み聞かせ感覚だよ」
しかし、本当にいろいろと話をしたものだ。
「そうじゃ、普段通り、会議をしてみるか」
こうして、リーナという観客のいるなか、俺とゼニードの会議が始まった。




