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31話

 倒木が道を塞いでいた。

 こんな道を、偶然倒木が塞ぐことなどありえない。

 ということは、あの時間か。


「ハンっ!」

「任せろっ!」


 馬に向かって飛んできた矢を、飛び出したハンが鉄のガントレットで叩き落とす。

 矢を拳で叩き落とすとは、無茶な野郎だ。まぁ、その無茶を命じた俺が言うのもおかしな話だが。


「なんですかっ!」

「盗賊だっ! ユマ、《風の加護(ウィンドカーテン)》を使えるなっ!」

「は、はい!」


 ユマが馬車を守るように《風の加護(ウィンドカーテン)》を発動させた。

 風の結界が馬車を包み込み、飛んでくる矢をあらぬ方向に弾き飛ばす。

 その後も何本も矢が飛んできたが、すべて弾き飛ばされたのを見て、とうとう盗賊たちが姿を現した。

 数は三十人――盗賊の数としては多い。


「ゼニードはそこで丸まってろ」

「もうなっておる」


 ゼニードがインベントリから鉄の板を取り出して自分の上に掲げ、丸くなっていた。

 手のひらには大銀貨が握られているので、本当に危なくなったら転移魔法で逃げる準備もできているのだろう。

 これでゼニードの心配をすることなく戦える。


「ハン、鈍ってなさそうだな。殺さずに捕まえるぞ」

「我が主人こそ、このような些事で絶息するでないぞ」

「あたりまえ……おい、ハン。できるだけ殺すなよ」


 俺は盗賊たちが抜いた綺麗に研がれた剣を見て、ある程度事情を察した。

 想定内――というか予想通りだな。

 ならば、遠慮することはないか。

 俺は馬車を曳いていた馬の耳の穴に、馬用の耳栓をはめ込み、


「《眠れ(スリープ)》」


 100ゴールドを使って眠りの魔法でその場に眠らせた。

 戦いで混乱して、暴れられたら厄介だからな。

 俺は《ATM》から500ゴールド――大銅貨50枚を取り出す。


「ユマ、ゼニード、ハンっ! 塞げっ!」


 あらかじめ決めていた合図を送ると、三人がそれぞれポケットに忍ばせていた耳栓で耳を塞ぐ。

 なにか来ると気付いた盗賊たちだが、剣を持っているため、耳を塞ぐことはできない。

 俺は即座に、真上に大銅貨を投げた。

 投げた大銅貨は《風の加護(ウィンドカーテン)》を内側からすり抜けて空に上がったが、落ちてくるときに《風の加護(ウィンドカーテン)》に弾かれ、周囲に飛び散った。


「《召喚(サモン)アラートマウス》」


 その魔法を唱えると同時に、俺もまた耳栓で耳を塞いだ。

 大銅貨一枚一枚がネズミの姿に変わった。

 総勢五十匹のアラートマウス。アラートマウスの特徴は、周囲に敵がいると大きな声を出して鳴くことにある。

 では、最初から敵がいる場所で呼び出せばどうなるのか?

 答えは簡単――最初から鳴くのだ。


「「「「「「「「MYAAAAAAAAAAAA――っ!」」」」」」」」


 大音量――なんて言葉では片付けられない。耳栓で耳を塞いでいても頭が痛くなるくらいの音――まさに音爆弾だ。

 魔物に対しては追い払う程度の効果しかないが、これが人間相手だと超有効。

 耳を塞いだバカは剣を落とし、ハンの拳の餌食となった。

 それでも必死に戦おうとする奴らも混乱している。俺の敵ではない、それぞれ腰に差していたミスリルの剣で斬り倒していった。

 致命傷は避けている。

 賢い奴は逃げ出そうとしたが、しかし、


「アラートマウスっ! 逃がすなっ!」


 大音量に負けじと、俺もまた大きな声で命令をした。まぁ、アラートマウス以外にはその声は届いていないだろうけれど。

 召喚者の命令は絶対――アラートマウスたちは逃げ出そうとする盗賊に群がった。

 大声で鳴きながら。

 そんな声で鳴かれたらどうなるか?

 まぁ、逃げるどころじゃなくなるな。


 意識のある盗賊がいなくなったところで、俺はアラートマウスたちを送還。

 そして、


召喚灰狼(サモングレーウルフ)!」


 1000ゴールドを使い、灰色の狼を呼び出すと、


「もし森から逃げようとしているやつがいたら捕まえてこい」


 と命令を下す。


 狼は一度頷き、森の奥へと消えていった。

 俺たちは耳栓を外す。


「タイガさんらしい卑怯な戦い方ですね」


 ユマが呆れ口調で言う。

 誉め言葉として受け取っておこう。


「まともに戦えば大小あれどリスクはあるからな」


 別にスキルを使わなくても盗賊を全員倒すことはできただろう。

 しかし、失敗したときのリスクを考えると、やはり安全に越したことはない。


「ユマ、盗賊たちの耳を治してやれ。処置が遅れれば、最悪失聴する」


 特に、逃げ出そうとしてアラートマウスに群がられた奴、耳から血が出ているからな。

 鼓膜は破れているだろう。

 破れた鼓膜も治すことができる――本当に魔法って便利だな。


「わかりましたけど、タイガさんも手伝ってくださいよ」

「俺の《ヒーリング》は金がかかるから嫌だ」

「もう……大変なんですよ、本当に」


 文句を言いながらも、さすがは愛の伝道者。盗賊相手に丁寧に治療をしていった。


「さて、お前ら、自分の立場がわかっているな」


 盗賊たちのリーダーらしき男を見て、俺は尋ねた。


「ふん」

「随分余裕そうだな。誰に雇われた?」

「俺たちは盗賊だ。誰かに雇われるもんじゃねぇだろ。それより、俺たちを近くの村まで連れていきな、俺たちは多少は名の知れた盗賊だからな。報奨金がたんまりもらえるぜ」

「そうか――いや、金に興味はないから、この場で殺そう。どうせ村まで連れて行っても盗賊なら死刑だしな」


 俺がそう言うと、盗賊のリーダーの顔色が変わった。

 まぁ、確認するまでもないことだが――


「仮に捕まっても出してやるって雇い主に言われてるのか? いや、本当に出してもらったことがあるのか」

「タイガさん、どういうことですか?」

「この盗賊たちはモヴェラットの代官に雇われているんだろうよ。俺たちを殺すように」


 盗賊の落とした、よく研がれた鋳造剣を拾いながら、俺は言った。

 普通の盗賊なら、こんなに綺麗に研がれた剣は使わないはずだからだ。

 ましてや、同じ型で作られた規格物の剣など。

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