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29話

「どういうことですか、タイガさん!」


 そう言って怒鳴り込んできたのは、ユマではなくセリカだった。


「よう、どうしたんだ?」

「どうしたんだ、ではありません! なんで私が冒険者ギルドのモヴェラット出張所に左遷されないといけないんですかっ!?」

「なんのことだ? 俺にお前の人事をどうこうする権限があるわけないだろ?」


 本当に言いがかりにもほどがある。

 そうか、セリカの奴、モヴェラットに左遷されたのか。

 なにが原因なんだろうなぁ、本当に不思議だな。


「そうだ、恋人ができないって言っていた先輩受付嬢の嫌がらせじゃないか?」

「……明らかにタイガさんがギルド支部長に渡した手紙が原因ですよね」


 後からやってきたユマがジト目で俺に告げた。

 ちっ、このことがバレる前にモヴェラットに逃げるつもりだったのに。

 セリカの人事異動は、マテス宰相の伝手により冒険者ギルド本部のお偉いさんに書かせたものを届けたんだ。

 まさか、即日に本人に通達されるとはな。

 冒険者ギルド本部のギルドグランドマスターの力って偉大だなぁ。


「タイガさん、聞いてるんですかっ!」

「あぁ、悪い。時は金なり、急いでるんだ。とりあえず、さっき渡したカモノネギの情報を金に換えて、あとから来いよ」


 俺はユマの手を握ると、大銀貨三枚を取り出し、王都の屋敷へと転移した。


 ノスティアでやることはやったし、これで本当にモヴェラットに出発できる。


「セリカさん、怒ってましたね」


 ユマがセリカに同情するように言った。

 怒るのも無理はない。

 冒険者ギルドの支部の職員から出張所の職員への配置転換といえば、二階級降格レベルの処分だ。彼女が刑事だったら、殉職してようやくもとに戻れるくらいの処分だからな。

 それでも、なんだかんだ言って仕事に情熱を燃やす彼女なら、その処分を受け入れてモヴェラットに来てくれると信じている。

 セリカがモヴェラットに来るころには怒りも冷めているだろう。

 一緒に転移して王都からモヴェラットを目指してもよかったのだが、道中ずっと怒られるのも面倒だからな。


「じゃあ、ユマ。準備ができたら出発するから支度をしろ」

「はい、そうですね。そういえば、タイガさん。さっき転移の魔法を使うのに3000ゴールドを使っていましたね。前に転移魔法を使うとき、私には往復8000ゴールド請求しませんでしたっけ?」

「あ……」


 ユマの言う通り、本来なら二人分、往復6000ゴールドで使用可能な転移を使うとき、ユマ一人分として8000ゴールド請求したことがある。


「妙ですねぇ。ノスティアから王都って、ノスティアから飛竜山に行くのと距離もそんなに変わらないはずなのに、何故でしょうか?」

「それはだな――」

「とりあえず、モヴェラットに行くまで、ゆっくり話を聞かせてもらいましょうか。馬車の旅は長いですからね」


 ユマが笑った。

 その笑顔がとても怖い。

 転移の手数料だとか、手間賃だとか言う隙を与えてくれそうにない。

 結局、怒られながらの移動になるのかと、俺はその場に項垂れるのだった。

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