28話
次に、ゼニードが植えたプランターを見る。
ゼニードの奴、自分でもネギを植えたいと言って、結構マメに水をやっていたんだよな。
そろそろいい具合に成長している……ん?
俺は一見青ネギにも見えるそれをじっと見つめた。
青ネギにしては、平べったい。
もしやと思い、匂いを嗅ぐ。
よかった、水仙ではない。
というか――
「……これ、ニラだ」
なんでネギの種を渡したのに、ニラが育ってるんだ?
いや、まぁニラもネギ科の野菜には違いないのだけれども。
「……餃子かレバニラ炒めでも作ればいいのか?」
んー、謎だ。
まぁ、ニラは俺の趣味の範囲外なので、全部抜いてインベントリに収納だな。
あと……と、俺は床板を引っぺがす。
そこには、金貨が20枚――20万ゴールドが隠してあった。
お金に関しては、俺には《ATM》というスキルがある。しかし、万が一《ATM》が使えなくなったときのために、こうしてへそくりをしてあったのだ。
ちなみに、ゼニード曰く、《ATM》は《automatic teller machine》の略ではなく、《absolute teller magic》の略らしい。最初に聞いた時、英語の成績が芳しくなかった俺にその意味はわからなかったが、ゼニード曰く、直訳すると「完全な出納係の魔法」という意味なんだそうだ。
自分で完全な魔法と言っているあたり、百パーセント信用することはできない。実際、年末年始になると全ての機能が停止するという欠陥がある。
何故、そういういらないところだけ日本のATMに似せているかわからない。なんでも、日本人だった頃の俺を観察している時に、『妾ならもっと凄いシステムを作ることができるわ!』と、思いつきで作ったスキルだそうが、それなら欠点くらい直しておけよと思う。
「ニラも回収だな」
ネギではないので、インベントリに収納することになんの抵抗もない。
この宿に戻って来られるかもわからないからな。
他にも私物のほとんどをインベントリに収納。
部屋は俺たちが入ってきた当時の姿と変わらぬ姿になった。
随分寂しくなったな。
さて、最後に仕事をするか。
俺はインベントリに収納してあったモップと、水の入っているバケツを取り出す。
それらを使って、俺は部屋の掃除をはじめた。
綺麗に使っているつもりだったけれど、汚れは残っている。
掃除も銭使いスキルを使えば楽に終わらせることができるのだが、これだけは自分の手でしたかった。
思っていたよりも長い時間をかけて掃除を終えた。
入ってきたときよりも綺麗にしたつもりなのだけれども、しかし、ネギの匂いだけは抜け落ちなかった。
仕方がないので、これだけは銭使いスキルを使う。
《ATM》から、1000ゴールドを出金し、魔法を唱えた。
「消臭」
ただ、匂いを消すだけという魔法だ。獣の追跡を振り切るのに便利だが、しかしそれだけで1000ゴールドという割高設定のため、あまり使うことはない。
これで、掃除は本当に終わりだ。
俺は元々備えつけられていたベッドを元の位置に戻し、そして部屋を見て、頭を下げた。
「……お世話になりました」
サクティス王国から逃げ出す時は、ドタバタして別れを告げる暇なんてなかった。
それから俺は、長く居た場所を離れるときは、必ず別れを告げようと決めていた。
「さて、そろそろいいか」
ユマもそろそろ帰って来るだろう。
そう思ったときだった。




