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27話

「なんでって、ユマもモヴェラットに行くなら、教会に言っておかないとダメだろ」

「タイガさん、もしかして私のために!?」

「当たり前だ。これから一緒に旅をする仲間だからな」


 俺は笑顔を浮かべ、歯を輝かせて(イメージです)ユマにそう言った。


「タイガさん……」


 胸の前で手を組み、祈るように俺を見るユマは、奇跡を見るかのような目で俺を見た。

 そして――


「何が目的ですか?」

「話が早くて助かる。これをシンミーに、これをギルドの支部長に届けてくれ。それと、カモノネギの巣の場所、覚えているな?」


 北の神竜の爪痕で、リザードマン退治に行ったときに見つけたカモノネギという鳥の巣だ。


「はい、覚えています」

「そのカモノネギの巣の場所を地図に書いて、セリカに教えてやってくれ。冒険者に取りに行かせたら金になる」

「え? 無料でですか?」

「あぁ、どうせ取りにいけそうにないからな」


 俺はそう言って、プランターのネギたちを見る。

 普段は俺に面倒な依頼を押し付けてくる冒険者ギルドの受付のセリカだが、仕事はしっかりやってくれる。

 俺が王都に行っている間、セリカに世話を頼んでいたのだが、ネギたちの状態は俺が管理していたころほどではないが完璧に近い。

 思えば、この町に来てから俺は両手両足の指を使っても数えきれないくらいにセリカを助けてきたが、その半分くらいはセリカに助けられていたな。


「タイガさんって、たまに優しいですよね。そういうところがズルいです」

「一日千ゴールド払ってくれるなら毎日優しくしてやるぞ」

「そんな優しさはいらないです。それより、セリカさんは一階にいるんですから、ご自分で渡しに行けばいいんじゃないですか?」

「いや、まぁ……な」

「まさか、照れくさいとかそういう理由じゃないですよね?」

「そんな理由じゃない、いろいろあるんだよ。いろいろと……な」


 セリカは五年前、クライアン侯爵の領主町で見習い受付嬢として働いているときから、俺の専属受付嬢をしてくれていた。

 日本人としての記憶を取り戻してからなら、ゼニードの次に付き合いが長いからな。


「タイガさんはその間、なにをするんですか?」

「俺は、こいつらを連れ出す準備をするんだよ」

「インベントリに収納すればいいんじゃないですか? いつもみたいに。杏子飴も入れていましたし、植物を入れることも可能なのですよね?」

「お前な、それで済むならこいつらの世話をセリカに頼んだりしないよ。なぜかインベントリは植物を生き物扱いしていないが、それでも植物は呼吸もするし、感情もあると思う。長時間時間の止まった亜空間に閉じ込めておくとストレスが溜まって枯れやすくなるんだ……と思う」

「時間が止まっているのなら、ストレスを感じることもないのでは?」

「それはわからん。意識だけあるかもしれないだろ? 実際、インベントリに長時間収納したネギは、取り出すと枯れやすくなるという実験結果が出ている」

「そんな実験してたんですか……」


 ユマが呆れた目で言うけれど、勘違いしてもらっては困る。決して、ネギを効率よく育てるためではない。

 俺は昔、一時的だが行商人として仕事をしていたこともある。そして、行商人として運ぶ荷のなかには、植物もあるからだ。

 まぁ、インベントリから出して引き渡した時点で俺の仕事は終わりなわけで、その後は枯れようが腐ろうが知ったことではないのだけれども、しかし妙な噂が広まれば仕事がやりにくくなると思ったのだ。

 そう、決してネギのためではない。

 ましてや、ネギをインベントリに入れるのは、ネギを生き物扱いしていないようでイヤだ! とかそういうわけではない。ネギだって生きているんだ! と切実に訴えているわけでもない。

 そうユマに説明したのだが、


「説明すればするほどウソに思えてきますよ。はぁ、私、タイガさんに愛を説くために一緒に行動していましたが、ネギへの気持ちはまさしく愛なのではないでしょうか?」

「そんなわけない、これはただの実用的な趣味だ。ネギはうまいしな。さっきも言っただろ、時は金なりだ。いい加減に言われた仕事をしてくれ。先にシンミー、次にセリカ、最後にギルド支部長の順番で頼む」

「わかりました」


 そう言って、プランターを整理していく。

 とりあえず、種を採らない分は植えなおさず、食用としてインベントリに収納するとして、まだ成長途中の分はこのまま持っていくか。


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