26話
未確認生物の話はともかく、俺は事前にモヴェラットについて調べたことを二人に話す。
山に囲まれた地形で、平らな面積は少なく作物を育てるにはあまり向いていない。
特徴としては水が綺麗なことだろうか?
山の向こうには主要な街道が通っているのだけれども、その山を越えるのに丸一日かかってしまうため、行商人もほとんど訪れることはないという。
人口は百七十人。うち百人が六十歳を超えているという村だ。なんでもマイヤース王国において六十歳以上の割合が三番目に多い村らしい。じゃあ一番目と二番目はどこだよという話だが、それはエルフ自治区とドワーフ自治区のそれぞれの村だという話になった。
ドワーフもエルフも人間の数倍生きるんだから、そりゃ六十歳以上の割合が多いのは当たり前だ。
「少子高齢化とは流行の先取りのような村じゃな」
「それよりも過疎化のほうが問題だろ……なんでこんなことになってるんだって思ったよ」
五十年前の人口は五百人を超えていたらしい。いまの三倍近い数だ。
流行り病か、それとも大飢饉か? と思ったが、実際はそうではない。
戦争だった。
「この村はマイヤース王国の最南端に位置し、コストラ帝国との国境沿いにある。三十年前に起こった戦争で多くの若い人間が亡くなったそうだ」
「マイヤース王国とコストラ帝国の戦争? そんなのありましたか? 確か両国間には五十年以上前から同盟協定が結ばれてずっと続いていますよね?」
「歴史上はなかったことになってるんだ。そもそも、コストラ帝国は、三十年前まではコストラ首長国連邦だったんだよ。三十年前にユング皇帝が革命を起こし、国を統一。コストラ帝国に生まれ変わった。当然国が変わったんだから、すべての協定も破棄され、コストラ帝国はマイヤース王国に攻め込んできたんだ」
「なっ!? そんな話、聞いたことがありません」
ユマが驚きの声を上げた。
「だから、戦争は歴史上なかったことになったって言っただろ。この国の貴族が裏で動いて、コストラ帝国の世論を操作したんだ。その結果、国を統一した以上、暫くは戦争ではなく内政を優先するべきという風潮になったんだ。お陰で戦争は開戦わずか三日で終わりを告げられ、政治的な取引の結果、奪われたわずかな領地を返還してもらう代わりに、今回の出来事は戦争ではなく演習であり、同盟協定は続いているという話になったんだよ」
「じゃあ、モヴェラット村に若い人が少ないのはまさか――」
ユマの想像通りだ。戦争で死んだからだ。当時、十五歳から三十歳までの男性が戦争に参加したという。
もっとも、書類上は違う。
戦争はなかったことになっているため、村民は原因不明の死を遂げたということになっている。
もしかしたら、チュパカブラの話も、村民の原因不明の死に関連付けられて囁かれた噂なのかもしれないな。
「当然、戦争が起こったことはモヴェラットに住むお年寄りの多くが知っている。しかしその話をすることは禁忌となっている。まぁ、このあたりがモヴェラットの村が王国の直轄地である理由だな」
そんな土地を俺に任せるとか、国王は何を考えているのか。
毒を以て毒を制すとか考えてそうで嫌だな。
毒ではなく薬と思っていて欲しいが、生憎俺は薬という感じではないことくらい自分でもわかっている。
「それで、モヴェラットにはいつ出発するんですか?」
「準備出来次第直ぐだ! 時は金なりだ!」
ユマの手を握り、金を取り出すと、魔法を唱えた。
「転移」
「って、なんでノスティアに戻ってるんですかっ!?」
転移魔法を使って、俺とユマのふたりはノスティアに戻っていた。




