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21話


「それはまさか――神々の宝玉の欠片っ!?」


 神々の宝玉。それは、神の力を与えることで王国の領土全土にその恩恵を与えるという秘宝だ。

 大国と呼ばれる国々にはこの神の宝玉が存在する。


「いまは機能しておりません。魔族の攻撃から守るために力を使いすぎ、このような姿になってしまいました。魔族の狙いがこの宝玉だったのだとするのなら、私は一度身を隠したほうがいいと思いました」

「殿下。それでしたら、マイヤース陛下にお預けになられてはいかがでしょうか? 我が国の金庫でしたら魔族もやすやすと手を出せないでしょう」

「申し訳ありませんが、やはり一番安全なのは私のインベントリの中です。ここに入れておけば、私が死なない限り、いえ、たとえ私が死んでも取り出すことはできません」


 俺が死んだ時、インベントリの中身を取り出すことができるのはゼニードだけとなる。

 一番恐れているのは、俺が捕らわれ、脅しに屈したり、魅了の魔法により俺が自分の手で神々の宝玉を取り出したりすることのほうだ。


「父――レイク陛下は仰っていました。自分にもしものことがあったとき、必要とあればマイヤース王国のマテス宰相を頼るようにと」

「レイクがそんなことを……」


 マテス宰相はワインの瓶を見て、感慨深げに言った。


「殿下、それで殿下は何故この国の貴族に? しかも領地をお求めになられるのです?」

「祖国を取り戻すためです。ヘノワール辺境伯領はその足掛かりとしてこれ以上ない土地ですから。そのための作戦は既にできています」

「なるほど――わかりました。それでは早速、陛下に進言して――」

「あ、それは待ってください。マテス宰相にはこれまで通り、貴族第一主義を掲げてもらい、私とは敵対関係を装っていただきたいのです」

「それは何故?」

「理由は二つあります。まず、マテス宰相の広い人脈は、貴族第一主義に賛同した貴族のものが多いでしょう。ここで私の味方をし、その貴族たちの造反を誘発させるのは得策ではありません。それと、意見というのは反対派閥からの妥協案というのが採用されやすいものです。そこで、私にとって最高の妥協案をマテス宰相から提案してもらいたいのです」

「それ自体は構いませんが、しかし妥協案といえども、殿下が貴族第一主義の貴族を説得できるだけの力や見どころを持っていることを示さねば、通りませんでしょう」

「そのために、今度の晩餐会を利用させてもらうつもりです。宰相の取り巻きには、血の気の多い者も多いようですから」

「それは……」

 とマテス宰相は口籠もったが、確かに晩餐会の場で、取り巻き達が俺に何か罠を仕掛けようとしている、と語った。


 具体的な話はなかったが、面白い。


「では、全部止めずにそのままにしておいてください」

「よろしいのですか?」

「はい。ピンチをチャンスにするくらいでないと、成り上がり貴族はやっていけませんよ」


 マテス宰相が俺に加担するような行動をして疑われても困るし、できることなら、自然な演技で対応したい。


「なにか?」

「い、いえ。思い出してしまいましてね。レイクとは何度か手紙のやり取りをしたことがあるのですが、その大半は『タイガは自分の息子とは思えないくらいに優秀な思考の持ち主だ。きっと大物になるだろう』という親バカと思えるものばかりでしたが、レイクの言う通りだったのだと思いました」

「陛下がそのようなことを」


 俺にはかなり厳しかった印象が強い。

 けれど、親バカな一面があったんだな。

 二十歳になってからそんな話を聞くと、嬉しくもあり、恥ずかしくもある。


「あとは愚痴ですね。殿下が自分のことをパパと呼んでくれないと書かれていました」

「あぁ、そのことですか。一度呼んだことがあるのですがね」


 子供の頃の俺は、他の子に倣って陛下のことをパパと呼んだことがある。

 そのときの陛下の表情は、それはそれは言葉にしがたいものだった。

 現在思えば、パパと呼ばれた喜びと、しかし息子であろうとも自分のことを陛下と呼ばせようとしている教育の方針に背いていることを叱責しなければという気持ちと、その狭間で揺れていたのだろう。

 しかし、子供にそのような大人の機微などわかるはずもなく、笑いながら怒り顔を浮かべつつ、なにも言わない陛下に恐怖を覚えた。

 それから、陛下に請われることがあっても、俺は二度と「パパ」と呼ばなくなった。

 懐かしい思い出だ。

 その後も、マテス宰相とは陛下について語り合い、親交を深めた。


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