19話
「もうよい、それまでだ! マテス宰相、タイガ・ゴールドの実力は十分わかったであろう。あのケイハルトをここまで苦しめる冒険者などこれまでおらなんだ。ケイハルトも大儀であった。双方ともに褒美は後日届けさせる。下がって良し!」
陛下の宣言により、俺とケイハルトの試合は引き分けとなった。
「ふん、命拾いしたな、冒険者よ」
「そっちこそ、平民の星殿」
俺とケイハルトは互いにそう言い捨てた。
そこに、侍従たちがやってくる。
「皆様、先ほど料理人よりドラゴンステーキが焼けたと報告がありました。どうぞ広場にお集まりください」
その話を聞き、渡り廊下に集まっていた観客たちが去っていく。
今回の試合で負った怪我は自分でも治せるが、金が勿体ないからユマにでも治してもらおう。
と思ったが、ユマの奴、なんでいないんだ?
……ってあぁ、あいつ、ドラゴンの解体作業を見るのが嫌で広間に行ったんだった。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「……あぁ、ちょっと足腰がヤバイ。悪い、クイーナ、肩を貸してくれ」
「はい……あの、私の魔法で治しましょうか?」
「いや、勿体ないからいい。とりあえず、こんな状態で貴族たちの前には出られないからな。医務室に行ってくれ」
「は、はい」
俺はクイーナに連れられて、治療室へと向かった。
その中で待っていたのは、治療院から出向されているラピス教徒の法術師――ではなくキーゲン男爵だった。
「タイガ・ゴールド、待っていたぞ」
不機嫌そうに自分の髭を触るキーゲン男爵を視界の中に入れながらも、室内を見る。回復魔法を使える神官も修道女もいない。
「よく俺がここに来るとわかったな」
「治療室なら無料で怪我を治せるからな。悪いが、ここにいた法術師には隣の部屋に行ってもらった」
「そうか、じゃあ俺は隣の部屋に――」
「待て。貴様、マテス宰相と和解をしたと儂に言ったが、嘘だったのか? 先ほどの決闘は明らかに貴様を貶めるための策略だ。陛下が止めなければ、貴様はあのケイハルトという男に殺されていたぞ」
「殺されてっ!?」
俺を支えているクイーナが顔を真っ青にした。
「そんなわけないだろ。それより、俺は怪我を治したいんだよ」
と部屋を出るために扉を開けた。
しかし、そこに思わぬ人物がいた。
マテス宰相とケイハルトだ。
「貴族第一主義の宰相様と平民の星……凄い組み合わせだな」
マテス宰相は部屋の中に入り、周囲を見た。
「キーゲン男爵と……彼女は?」
「彼女はクイーナ。俺の奴隷ですよ」
と俺が言ったところで、クイーナがその場に跪き、頭を下げた。
「も、申し訳ありません、宰相様。私のご主人様がなにか無礼なことをしたのでしょうが、どうか、ご主人様をお許しください。私の命でよければいくらでも差し上げますから。ご主人様は私に光を与えてくださった恩人なのです」
涙を浮かべて必死に縋るクイーナを見て、マテス宰相は酷く困っているようだった。
まぁ、いきなりそんな素っ頓狂なことを言われたらそうなるよな。
「大丈夫ですよ、マテス宰相、それにケイハルトも。この通り、クイーナは俺の忠実な奴隷ですし、キーゲン男爵も俺の今後の計画には、まぁ、少し必要な人材ですから正体をばらしても」
俺がそう言うと、ケイハルトが跪き、俺に言い放った。
「先ほどは失礼しました、殿下」
マテス宰相も笑いながら言う。
「いやはや、私もケイハルトから話を聞いていましたが、さすが、お父上譲りの見事な武術でしたよ、殿下」
マテス宰相とケイハルトの突然の態度、そして俺への呼称に対し、キーゲン男爵は顔を真っ青にしていった。
「で、殿下だとっ!? ま、まさか、貴様――いや、あなたはマイヤース陛下の隠し子だというのかっ!?」
いや、全然違うぞ?




