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18話

「信じられないと仰いますが、しかし実際ここにこうして死体がありますから」

「倒したというのは事実だと認めている。だが、それがその方の実力かどうかは定かではあるまい。私が聞いた話によると、このブラックドラゴンは町に来るまでにも兵たちの矢による攻撃を受けていたし、バランスを崩しキーゲン卿の屋敷に墜落したという。つまり、其方と戦った時、ブラックドラゴンは既に致命傷を負っていた可能性も捨てきれない」

「いいえ、この凶悪なドラゴンの鱗をご覧ください。矢ですら跳ね返し、地面に追突してもびくともしないでしょう」

「言うのは容易いが、しかし、確証は持てない。私は其方の実力を知りたい。そう言っている」

「では、どうすればよいのでしょう?」

「私が用意した男と剣と剣で戦え。それで実力を証明してみせろ」


 マテス宰相がそう言って、俺にそいつを紹介した。

 見たことのある男だった。

 つい、先日、大通りでオークを斬り殺した剣士――ケイハルトがそこにいた。


「ケイハルト様ァァァァっ!」


 渡り廊下から、黄色い声が響き渡る。

 この平民の星と呼ばれたイケメン剣士は平民だけでなく、貴婦人方からも人気を博しているようだ。勿論、彼の人気と比例して、彼を快く思っていない貴族も多そうだ。

 たとえば、貴族第一主義を掲げるお偉い様方とか。

 マテス宰相は俺が勝ってもそれでいいと思ってケイハルトを用意したのだろう。そうすれば、平民の星を、夜空から叩き落とすことができるから。俺が負ければ負けたでその時で、俺を貶めることができる。


「決闘ですか。しかし、マテス宰相。ここは宮廷内であり、しかも陛下の御前。私も帯剣しておりませんし、ましてや鞘から剣を抜くことなど許されるわけがありません」

「ははは、安心しろ。これは御前試合として陛下の許可を既にいただいている。そして、其方が屋敷に置いてきた剣も――」


 マテス宰相が俺に鞘に収まった剣を投げた。

 間違いない、俺の剣だ。なんて用意周到な。

 変な細工は……されていないようだ。細工をしてあれば、それを理由に断れてしまうからな。


「剣を抜け、一瞬で終わらせる。安心しろ、この試合でスキルは使わない。文字通り、剣と剣の勝負だ」

「つまり、俺も銭使いのスキルを使えないってことか。はっ、無駄金を使わなくて済んだよ」


 やせ我慢を言ってみるが、俺の最大の攻撃手段は、無数にある銭使いのスキルによる、搦め手からの攻撃だ。勿論、王子だった時代には剣術は習ってきた。それこそ、師範代の免状を貰えるくらいの腕前は持っている。しかし、相手は平民の星。一日中剣を振ってるバカだぞ。

 しかも、ハンのような我流ではない。傭兵をまとめる王国の剣術だ。


「陛下の御前だ。三つの目で貴様を打つ」


 三つの目って、いまの発言。あぁ、なるほど、そういうことか。


「あぁ、確かに無様な試合は見せられないな」


 俺も剣を抜き、そして構えた。

 試合開始の合図はない。もうお互い剣を抜いた時に試合は始まっている。

 最初に動いたのはケイハルトだった。俊足による剣戟を俺はぎりぎりのところで受け止める。剣と剣のぶつかりあう音が中庭に響き渡った。

 重い剣だ。いったい、どんな剣を使ってやがるんだ、こいつ。

 俺は一度体を引き、剣を斜め後方に滑らせるように受け流すと、そのまま剣でケイハルトの首を狙う。親善試合において致命傷を狙うという他人からは信じられない暴挙だが、しかしケイハルトは屈んでそれを避け、俺の足を狙った。

 俺はそれを跳んで躱すが、それを読んでいたとばかり、ケイハルトは剣を片手持ちに変え、左手で俺に殴りかかってきた。


「ぐっ」


 腹を殴られてうめき声をあげるも、殴り飛ばされながら俺はケイハルトの足を蹴りつけた。

 剣術の試合というのに、殴り合いによるダメージしか通っていない。

 その後も、俺とケイハルトは剣で打ち合っては、隙を見ては殴り殴られの試合運びをした。

 試合は十五分ほど続いた。

 そこで、ケイハルトが剣を引き、宣言する。


「恐れながら申し上げます。このタイガ・ゴールドの実力は理解しました。これより、真剣で戦う以上、私が本気を出せば彼を殺すことになるでしょう。よろしいでしょうか?」

「それはこちらの台詞です。これが試合ではなく死合であれば、二振り目の剣はケイハルトの首を切り裂いていました」


 俺とケイハルトはそう言って、視線で火花を散らせた。

 そして、再度剣を構える。腹の痛みに耐えながら。ケイハルトも顔の痣を気にする素振りは見せず、余裕の笑みを浮かべて剣を構えた。


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