5話
ユマの言う通りだ。
この場所は、俺の前世である小金大河に銭使いのスキルを与え、この世界へと転生させた張本人、ゼニードを奉っていた遺跡だ。
「今でこそ資料は残っていませんが、その神を奉っていた――という話だけが伝わっています。しかし、それは間違いです」
「……は?」
「だって、始祖の七柱と言えば世界を創ったと言われるとても偉大な神ですよ。その神の遺跡がこんな廃墟同然になっているわけがありません。ここはきっと別の目的で作られたんです」
いやいや、あってるからな。ここはゼニードの遺跡であっている。
「ここはきっと、宇宙人が乗る船の発着場だったんですよっ!」
「…………はぁぁぁぁっ!?」
「驚くのも無理はありません。しかし、本来ここにあった十二の柱は綺麗な円状に並べられています。これはあまり知られていないことなんですが、宇宙人が目撃された場所というのは大抵、円状の何かが残っているんです」
「ミステリーサークルって奴か?」
「ご存知なんですかっ!?」
ユマが目を輝かせて詰め寄った。
「――回復魔法の手が止まってるぞ、さっさとしろ」
「あ、もう大丈夫です。腫れも引きましたし、直に目を覚まします。それより、私の話を聞いてください」
ユマはその後、謎の飛行物体の目撃談や生物の変死事件などについて長々と語った。
まさか、こいつ――極度の宇宙人マニアなのか?
宇宙人の概念は地球でも古代より存在した。
日本の最古の創作物語と言われている竹取物語に登場するかぐや姫だって、月の住民――つまりは宇宙人だ。
そして、確かにこの世界にも宇宙人という概念そのものは存在するそうだが、しかし宇宙人マニアを見るのははじめてだ。
ついには宇宙船の話にまで持っていく。
この世界の宇宙船は俺の知るロケットやアダムスキー型のUFOではなく、翼の生えた方舟の形をしているらしいということはわかった。それ以上は何を言っているのかさっぱりだったが、少なくとも愛について語っている時よりも遥かに迫力があり、そして愛について語っている時よりも。遥かに荒唐無稽な話だった。
「ん……んー」
俺が困っていると、ようやくハンが目を覚ました。
「よう、目が覚めたようだな」
「「「「師範代っ!」」」」
弟子たちがハンを取り囲んだ。中には涙を流してハンの回復を喜ぶものもいた。
「そうか、我は負けたのか。それで、我はどうなる?」
「盗賊行為については被害者の偽証もありそうだし、奪った剣を返せば情状酌量の余地もあると思う。しかし、遺跡の破壊と占拠は重罪だからな。戦闘奴隷として一生過ごすことになる……恩赦は期待するな」
「かまわん。我はどうなっても。しかし、我の弟子たちは――」
「そっちについては、一年の労働義務が与えられる程度で済ますよう、俺も掛け合ってやるよ。一年後はそうだな――仕事くらいなら紹介してやる」
「いいのか?」
「気にするな。処刑される罪人を捕縛するより、奴隷になる人間を捕縛したほうが金になるからそうするだけだ。罪人を奴隷として売り払う場合、捕縛した人間にはその代金の半分が報奨金として上乗せされるからな。そのためにこっちは最初から馬車に乗って来てるんだよ」
「恩に着る」
ハンがそう呟き、目を閉じた。
「「「師範代ぃぃぃぃっ!」」」
涙を流し、ハンに駆け寄って抱き着く弟子たち。
それを見て、ユマまでもらい泣きをした。
「愛です、これこそ愛です。とても素晴らしいです」
「そうか? 見ていて暑苦しいだけだと思うぞ」
「そんなことはありません。綺麗な涙じゃないですか。タイガさん、私も彼らと同行してよろしいでしょうか? 彼らに情状の余地が十分にあることを私からも説明させていただきます」
「好きにしろ。馬車代は勘弁しておいてやる」
男たちの野太い声の号泣はこのあと三十分続き、最後感極まった時、馬車を見張らせていたアラートマウスが驚いて鳴きだす騒ぎにまで発展した。
その後、全員が俺の馬車に乗って運ばれた。
俺はひとり、ドナドナを口遊んでいた。