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9話

 俺たちが王宮に呼び出されたのは、それから三日後のことだった。

 晩餐会は後日開かれるそうなので、今回は俺とキーゲン男爵のふたりでの登城となる。

 招待しておいて三日も待たせるなよ。俺たちを苛立たせることが目的なら最高だけどな。

 王宮はとても立派だ――この建物の一部をホテルに改造するだけで年間何億ゴールド稼げるだろうか? 調度品も高そうなものが多く、ひとつふたつ持って帰りたくなる。サクティス王国の王宮は、調度品よりも寒さ対策に金を使っていたからな。窓とかこの世界には珍しい二重構造になっていたし。


「いいか、タイガ・ゴールド。余計な事をするんじゃないぞ」

「まるで俺が余計なことをしそうだって言いぶりだな」

「その言葉も余計だ。黙って国王陛下の言葉に従っておればいい」

「へいへい」


 俺はそう言いながら、謁見の間に通された。

 と同時に、重厚な空気が俺たちを襲った。

 左右で槍を持つ近衛兵たち。

 中央右奥にいるのは、第一将軍のコラソン元帥だろう。そして右奥にいる明らかにカツラと思われる男は宰相のマテス・ジ・アライエか。ふたりとも国の重鎮と呼ばれるお偉いさんだ。王子だった頃の俺はともかく、一冒険者である俺は滅多に会える相手ではない。

 最後に、中央にいる最も高貴なオーラを纏った人物――エドワード・マイヤース三世が玉座から立ち上がってそこに立っていた。

 俺の親父、レイク・サクティス・ゴルアにも勝ると劣らぬその気質に、俺は演技ではなく自然とその場に跪かされた。


「よくぞ参った、キーゲン男爵。そして、冒険者タイガ・ゴールド。表を上げてかまわぬ」

「「はっ」」


 俺とキーゲン男爵は同時にそう言い、跪いたまま正面を見据えた。

 興味深そうに俺を値踏みする国王と将軍。打って変わり、宰相のマテスは終始不機嫌そうな表情を浮かべている。王族及び貴族の純血を良しとする信念を掲げていると噂されている彼にとって平民ということになっている俺の成り上がりと、既に平民から成り上がっているキーゲン男爵、共に気に食わないのだろう。


「キーゲン男爵。その方が兵を無断で動かし、結果としてブラックドラゴンの来襲に際し、出兵が遅れたという報せが届いている。それに間違いないな」

「はっ、間違いございません」

「うむ。しかし、其方によって雇われたそこの冒険者――タイガ・ゴールドが見事ブラックドラゴンを打ち滅ぼし、結果として誰一人犠牲者を出さずに事を収めたという話も聞いている。双方ともに間違いないな」

「はっ、間違いございません」

「その通りでございます」


 本当は少し違うのだけれども、そういうことにする約束になっている。

 俺は素直にキーゲン男爵の言葉に合わせて肯定した。これで一億ゴールドの借りは無しだ。


「こちらがブラックドラゴンを打ち倒した証でございます。お納めください」


 俺はそう言って、国王陛下に木箱を献上した。

 木箱は近衛兵の手に渡る。


「そこには何が入っている? ブラックドラゴンの牙か? 鱗か?」

「ブラックドラゴンの卵でございます」


 俺がそう言うと、俺を除くその場にいた全員が度肝を抜かれた表情となった。

 キーゲン男爵も同様だ。彼にも卵の存在は黙っていたからな。


「ブラックドラゴンを打ち倒した時、その亡骸の上に突如として現れた卵でございます。間違いなく、ブラックドラゴンの転生した卵だと思われます」


 俺が説明しているなか、近衛兵が木箱から卵を取り出して国王陛下の前に掲げた。

 国王陛下は自らその卵を手に取り、観察する。

 見る者が見れば、それが普通の卵でないことはわかるだろう。


「最上級の竜は死ぬとき卵となり、永遠の時を過ごすという伝説があるが――まさか事実であったとは。大儀であった。これはなんとも素晴らしい贈り物だ」

「はっ、勿体なきお言葉です。また、ブラックドラゴンの亡骸も私が保存しております。こちらは王国の魔道具店に解体を依頼し、買い取りを願おうと思うのですがよろしいですか?」

「ああ、構わない。余の方からも紹介状を出しておこう」

「ありがたき幸せです」


 俺はそう言って頭を下げた。

 そして、国王はキーゲン男爵の方を向く。


「キーゲン男爵。本来なら兵を無断で動かすことは大罪であるが、男爵の機転により事が無事に収まったことも事実。よってその方への咎めはないものとする。皆、異議はないな」


 コラソン元帥、マテス宰相ともに異論を挟むことはなかった

 国王の決定に逆らうことは、大袈裟に言えば国家反逆罪にも相当する。

 よほどの事がない限り、異論を挟む者はいない。


「続き、タイガ・ゴールドにはブラックドラゴン討伐の恩賞とし、五百万ゴールド、そして士爵の地位を授けるものとする。異議はないな」


 この国では、士爵は貴族――つまり俺が貴族の仲間入りをするということだ。

 それに、誰も異論を口にすることはない。

 先ほども述べたがここで異議を唱えるのはバカしかいない。


「異議がございます、国王陛下」


 バカがいた。

 俺だった。

 横でキーゲン男爵が、開いた口が塞がらない状態になっている。

 ブラックドラゴンと戦ったのが一度目の命懸けの賭けだったとするのなら、二度目の賭けはこの場だ。


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