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7話


 ついでに、俺はあらかじめ目星をつけておいた魔道具屋に向かった。

 王都の中でも一等地に構えられたこの魔道具屋は、京都の高級料亭以上に入り辛い雰囲気を出している。


「いらっしゃいませ」


 そう言って出迎えた高そうな服を着たちょび髭の男――おそらく支配人だろう――だが、俺を見ると露骨に表情を変えた。

 気にせず、俺は交渉を始めることにする。


「魔物の素材を買い取ってもらいたい」

「お客様、ここを冒険者ギルドと勘違いしていませんか? ここは王都でももっとも権威ある魔道具屋ですよ。そもそも、紹介状がなければ――」

「ノスティアで手に入れたワイバーンの素材を買い取ってもらいたいと思ったんだが」


 俺はそう言いながら、国王からの招待状をちらつかせた。

 当然、その招待状には王家にしか使用することができない封蝋の印が押してある。

 王家の印の偽造は重罪のため、当然これが本物であることはわかるはずだ。


「国王に招待されてな――王都に寄るついでに売っちまおうと思ったんだが、場違いだったら帰るよ」

「お、お待ちください、お客様。ワイバーンの素材――いったいどの部位をお持ちで?」

「一頭丸ごとだ。解体もしていない」


 俺が言うと、男は一瞬怪訝な顔を浮かべた。


「俺のスキルで異空間に収納しているんだよ。ワイバーンをすぐに取り出すことができる。異空間では時間が止まっているから、死後数分くらいは経過しているが、それ以上劣化はしていない」


 殺してからすぐに収納したが、一度リザードマンに対し、張り子の虎代わりに使ったことがある。その時に数分経過しているだろう。


「まさか、新鮮なワイバーンの血も!?」

「当然、手に入る」


 俺はそう言って不敵な笑みを浮かべた。

 支配人の態度がさらに変わり、手もみを始めた。

 まさに手のひら返しだが、そういうわかりやすい商売人は嫌いじゃない。


「こちらへどうぞっ!」


 俺は男に応接室に案内された。


「お待ちください、ただいま準備をしておりますので。解体は我々がさせていただきます――無論、代金はいただきませんし、査定見積もりに不満があれば解体後のものをお持ち帰りいただいてもかまいません」

「ああ、いくらでも待ってやるから、解体の準備だけじゃなく、金の準備も頼む。こっちは魔物退治のプロだからな、鱗一枚単位の相場もわかってるぞ」

「勿論でございます。当店は誠実がモットーですから」


 魔道具屋の裏庭にやってきた俺。いつの間にか魔道具屋は臨時休業になっており、職員が全員所定の位置に配置している。

 何人かはおそらく解体の専門家だろう。見たこともない巨大な解体包丁を持っている。

 解体の技術のない販売員も、解体した部位を運ぶ準備をしていた。


「出すぞ」


 俺はそう言うと、ワイバーンを一頭、インベントリから裏庭に取り出す。

 首を切られたワイバーンの死体がその場に現れた。

 後ろに控えていた販売員の女性が小さなうめき声を漏らすのが聞こえた。

 まぁ、見て気持ちのいいものではない。


「解体始めっ! まずはワイバーンから血を抜き、専用の保存器に入れるんだ 亜竜とはいえその血は錬金術の触媒になるっ! 竜の血の劣化は一分一秒を争うぞ! 急げっ!」


 支配人の男の合図で、解体が開始した。

 体の中に管が通され、血が抜かれていき専用の容器に保管されていった。既に心臓は止まっているので血を抜くのに苦労するかと思ったが、想像以上に早い。獣の血抜きもここまでスムーズにできたらうまい肉になるんだが、魔道具の一種だろうか?

 やっとこのようなもので牙も鱗も、一本一本、一枚一枚、抜かれ剥がされていく。

 本当に手際がいい。

 冒険者ギルドに転職してくれないだろうか?


「いやぁ、本当に素晴らしい保存状態です。首のところが焼き切れていますが、あれは特別な魔法で?」

「大したもんじゃない」

「そうですか――いやぁ、これほどまでに保存状態のいいワイバーンが手に入ったのは当店の長い歴史でも初めてのことでしょう。ワイバ―ンの肉も丁重に扱えっ! 滅多に手に入らないからな!」


 俺に礼を言いながら、解体している男たちに指示を出す。


「ワイバーンの肉って、パサパサしていてあまりうまいもんじゃないだろ?」

「ええ。ですが、美食家というのは他の者が食べられないものを食べたがるものですからね。それに、脂肪分が少なくて健康的だと一部の健康志向の方には需要があるのですよ」

「それなら、普通に鶏のササミを食ってろよって話だけれどもな。でも、そんな金の余っている奴らのお陰でワイバーンの買値が上がるっていうのなら助かるよ。ところで、亜竜じゃなくて上級竜の肉ってうまいのか?」

「それはもう、頬が落ちるほどの美味だと聞いたことがありますよ。もっとも、上級竜など――そういえば先日ブラックドラゴンがクライアン侯爵領で退治されたと……」


 男は顔色を変えた。彼の中で繋がったのだろう。

 ワイバーンはノスティアで手に入れたという話。

 ワイバーンを倒した俺という存在。

 そして、俺が持つ国王からの招待状。


「まさか、ブラックドラゴンを倒したというのは――」

「ブラックドラゴンの死にたてほやほやの死体が丸々一頭、あればどれだけの金になるかな」

「是非、是非その時は当店で、当店で買い取らせてください」


 靴でも舐めそうな勢いで男は俺に縋った。


「ワイバーンの買い取り価格を見て、国王陛下の許可をもらってからだ」


 俺がそう言うと、男は羊皮紙にさらさらと記入していく。

 ワイバーンの買い取り額――俺が当初想定していた金額よりも遥かに高い額がそこに書かれていた。

 どうやら、是が非でもブラックドラゴンを買い取りたいらしい。当然だ。ブラックドラゴンの素材はすべてが魔道具の素材として一級品。それらで魔道具を作ったという話はこの店の名声にも繋がる。

 俺は黙ってその羊皮紙を受け取り、買い取りを受諾するサインをした。ここでもう少し吊り上げることは可能だが、本番はブラックドラゴンの査定だからな。

 こうして、ワイバーンは約870万ゴールドという見積額の倍の値段で売れたのだった。

 しかも、即現金払いという、それこそ冒険者ギルドでもありえないくらい好条件で。


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