6話
俺は目的の施設に辿り着いた。
犯罪戦闘奴隷の収容所だ。一般人が立ち入ることはできないけれど、キーゲン男爵からの紹介状があったため、すぐに俺は個室に案内された。
そして、暫くすると、黒い首輪をしたスキンヘッドの男が部屋に連れてこられた。
「久しぶりだな、ハン」
かつて、俺が捕縛した格闘家だ。
かつてよりも少し痩せたように見えるが、体はむしろ引き締まっているように見える。しっかり鍛えているのだろう。
「久しぶりだ。貴殿が面会に来るとは思ってもいなかった。タイガ・ゴールドの名を騙る偽者であったほうがまだ納得したくらいだ」
「よく喋るな」
以前に会ったときも喋ってはいたが、ここまでではなかったと思う。
「独房に入れられて久しいからな。退屈しておったのだ」
報告は受けている。
ハンの奴、この施設に入ってから周囲の人間を次々にタイラン神の信者へと勧誘をしていったそうだ。本人には悪気はないようなのだが、看守まで勧誘に成功したことでさすがに放っておけなくなったらしい。
いまはラピス教の信者が見張りにつき、独房に閉じ込められているそうだ。
ラピス教徒の改宗率の低さは有名だからな。
それにしても、ただの筋肉バカだと思っていたが、どうやらかなり交渉上手のようだ。
「それで、何をしに来たのだ?」
「用があったのは、あんたの舎弟たちについてだ」
「我が弟子がどうかしたのか?」
「全員死んだよ」
俺が言うと、ハンから表情が消えた。
怒りもせず、泣きもせず、ただ無表情で俺に言う。
「詳しく話してもらおう」
最初からそのつもりなので、俺は語った。
ハンの弟子たちはキーゲン男爵の部下の男が全員殺したこと、そしてその男も既に俺によって殺されていることを告げた。
魔族については戒厳令が発令されているので、看守が近くにいるため話すことはできない。
詳しい事情は話せなかったが、ハンは俺の話を信じたようだ。
「お前たちを捕まえたのは俺だ。責めたければ好きなだけ責めていいぞ」
「貴殿は悪くない――悪いのは我が弟子たちを、魔物を召喚するための生贄に使ったという男だ。それに、彼らは元々、あのあたりにいた盗賊だ。碌な死に方ができない覚悟はしていただろう」
「盗賊だったのか?」
知らなかった。
盗賊に間違われていたとはいえ、こいつらが捕まった罪状は盗賊行為ではなく遺跡の破壊行為であり、ハンも弟子たちも盗賊活動については何も語らなかったから。
「うむ。我が殲滅し、畑を耕させて自給自足を命じ、武道家として鍛え直した。ようやく更生し、武道家として第二の生を全うできるはずであったのに」
ハンが俺に背を向けた。
体が震えている。
「辛い……余りの辛さにこの身が焼き焦がれそうだ。復讐の業火に身を委ねるのは武道家としての罪だと知りながらも、その復讐の相手が既にこの世にいないという事実が行き場のない怒りとなり我の中に溢れそうだ」
「キーゲン男爵も悪くないぞ。あいつも何も知らなかった。当然、お前等を男爵に売ったシンミーもだ」
「……わかって……いる」
ハンの声が震えていた。
彼の心の中がどのようになっているのか、正確なところは俺にもわからない。いや、おそらくハン自身にもわからないのだろう。
しかし、復讐の相手が既にこの世にいない――というのは間違いだ。
キーゲン男爵の部下だった男を誑かし、利用しようとした魔族がいる。
「その復讐の炎は沈めるんじゃないぞ。燻っておけ」
「貴殿はなかなかに厳しいことを言う。果たす方法のない復讐の炎を常に抱えろというのか」
「安心しろ、復讐を果たす先はある。俺もその手伝いをしてやるよ。保証するから、それまで独房の中で鍛えてろよ」
「……その言葉を信用してもいいのか?」
ハンはそう尋ねた。
「ああ、金を賭けようか?」
「はははっ、ならば我がこれより得るすべての金銭を賭け金としよう」
「犯罪奴隷のお前がどれだけの金を稼げるかわからんが、その勝負受けたよ。というか、こっちはお前を使うために知り合いにガントレットを作ってもらっているんだ。絶対に利用させてもらうからな」
俺はそう言って笑った。




