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4話

 そして翌日。

 俺とゼニードとクイーナは待ち合わせの場所に向かった。


「クイーナ、荷物はどうしたんだ?」


 俺とゼニードは各々インベントリを持っているため、必要な荷物はすべてその中に入れている。

 クイーナもゼニードの信者であり、銭使いスキルを持っている。

 ゼニードの信者ならインベントリを使うことができるのはできるが、しかし最初に入れることができる荷物の量はせいぜい手荷物程度であり、修行(お金を消費すること)しても荷馬車の半分くらいしか入らなかった

 俺ですら、ゼニードと出会う前は、クイーナが買い込んだ荷物をインベントリに収納することはできなかっただろう。

 昨日、クイーナはゼニードのお世話のためのグッズを大量に買い込んでいたのを確認していたので、それが全部入るとは思えない。


「インベントリに収納しています。先日容量が大きく上がりまして、ゼニード様が仰いますには、ご主人様と同じく、無限に入れることができるそうです」


 ゼニードに尽くしているから信者としての格が上がったのか?

 ……俺はゼニードと出会うまで十五年、いくら努力しても無限に入ることはなかったぞ。五年前のあの日、容量が無限だったら、城の調度品を全部持ちだすことができたのに。

 奴隷が優秀になるのはいいことだが、複雑な心境だな。


 待ち合わせ場所には馬車が停まっていて、キーゲン男爵ともうひとり。


「…………なんでお前がいるんだ?」


 馬車の中に、先にユマが座って待っていた。ただし、むすっとしていて機嫌がいいようには見えない。

 今更5000ゴールドを払うと言っても、クイーナが来るって決まってるから定員オーバーだぞ?


「儂が雇った。回復魔法が使えるラピス教徒の修道女(シスター)無料(ただ)でついてきてくれるというのだ。断る理由がないだろう」

「文句はありませんよね、タイガさん」


 当然、文句などあるはずがないのだけれども――ユマの奴、なんで機嫌が悪いんだ?

 やはり女心はよくわからん。

 ちなみに、キーゲン男爵のもうひとりの従者が御者をしているので、今回は俺が馬を操る必要はない。


 ※※※


 二日後、俺たちはクライアン侯爵領の領主町に辿り着いた。

 クライアン侯爵はキーゲン男爵にとって主家であり、恩人でもあるらしい。かつて商人だったキーゲンを貴族に取り立て重用したのだとか。実際、その判断は間違っておらず、キーゲンは貴族としてかなりの成果を上げ、貴族になりわずか十年で国王より男爵の地位を賜ったというからなかなかのものだ。


「タイガさんは行かなくてよかったんですか? クライアン侯爵は冒険者ギルドとも強いコネを持っていますから、顔を繋ぐことは悪くないと思いますよ?」

「面倒なんだよ、あのおっさんは――」


 俺はもともとこの町に住んでいたことがある。

 その時に、ここのクライアン侯爵とも知り合いになった。そのせいでいろいろな事件に巻き込まれたのだけれども、そのことをすべて思い出すとなると夜が明けても終わらないので、割愛しておこう。というかできることなら封印しておきたい。

 ということで、俺たちは応接室で待たせてもらうことになった。

 ゼニードは応接室にあったクッキーを、全部食べてしまうのではないかという勢いで食べており、クイーナは甲斐甲斐しく世話をしている。


「ゼニード、全部食べるんじゃないぞ」

「そうですよ、ゼニードちゃん。はしたない――」

「インベントリに入れて持って帰れ」

「……タイガさんのほうがはしたないですよ」


 ユマに言われたが、いいんだよ。ここは金が余ってるんだから。


「うむ、確かに一度に食べるのは勿体ないの。クイーナ、残りは持って帰るぞ」

「はい、畏まりましたゼニード様。ではこちらで包みましょう」


 クイーナが水玉柄のハンカチを取り出して砂糖菓子を包んだ。それをゼニードが受け取り、好きな時に食べられるようにとインベントリに収納した。

 甘いだけの砂糖菓子は俺はあまり好きじゃないんだけど、でもこれでゼニードのおやつ代が節約できる。

 ついでに茶葉も貰っておこうと瓶を取り出して手を伸ばしたところで、扉が開いたので、慌てて手をひっこめた――が、


「なんだ、キーゲン男爵か。驚いて損した」


 茶葉を手掴みで瓶の中に入れ、インベントリに収納した。その様子を見たキーゲン男爵が自らのコメカミを手で押さえる。


「タイガ、仕事だ」

「仕事? 男爵様はいつから俺のマネージャーになったんだ? 話をするだけじゃなかったのか?」

「仕方あるまい、ここで一番使えるのは貴様だからな。それに、侯爵様からの依頼なら断れん。これは絶対に受けてもらう。なに、仕事はただ、近くの山でゴブリンに盗まれたものを取り戻すという仕事だ。実力者であるお前たちなら余裕だろ。期限は明日までで頼む。出立を遅らせるわけにもいかん」


 これまた面倒な依頼を受けてきたものだ。

 ゴブリン退治と言っても、普通の冒険者が引き受ける仕事というのはその辺の山の中にいるゴブリンを適当に倒し、討伐証明としてその右耳を切り取ってくるという仕事だ。しかし、今回のゴブリン退治の仕事はそういう簡単なものではない。

 まず、ゴブリンの巣がどこにあるかもわからない。

 そこを探すとなると普通の冒険者には難しいだろう。


「盗まれたものというのは?」

「クライアン侯爵の御息女――リシア様の首飾りだ。侯爵様の母君から譲り受けた首飾りらしく、近くの村で修繕していたものが運ばれる途中に盗まれた――護衛の冒険者は全員殺され、荷が盗まれたという。唯一御者の男が馬に乗って逃げたので助かったそうだ。報酬は50万ゴールド。悪くはないだろ?」


 確かに悪くはない。だが、群れで護衛のある馬車を襲うとなると、知恵のある者―ーそれこそゴブリンキングやゴブリンシャーマンが率いている可能性が高い。

 面倒だが――リシアの首飾りか。


「タイガさん、助けてあげませんか?」


 祖母の形見の首飾りという話が、ユマの琴線に触れたらしい。


「……仕方ないか。ただし、経費はそっちが支払ってもらうぞ」

「ああ、3万ゴールドまででいいなら、儂が支払おう。ただし、経費だといって必要もない、本来買う予定ではないものを購入するなどは認めん。そこのユマが証言した経費に限る。あと、必要ないと判断された経費は支払わないからな」


 ちっ、ゴブリン退治に剣とか買い直そうかと思っていたのに、先に注意されたか。

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