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3話

「王都ですかっ!? しかもゼニード様とご一緒できるのですかっ! 是非! 是非、お供させてください」


 明日から暫くクイーナを休ませるとセリカから了承をもらって、裏庭で洗濯物を干していたクイーナに王都に行く話をしたところ、彼女は二つ返事どころか喰いつき気味に返事をした。


「必要な旅費は私の借金に上乗せしてくださってもかまいません! 是非!」


 しかも、人生経験の差か、ユマよりも物分かりがいい。

 クイーナはゼニードが神であることを知っている数少ない人間であり、そして彼女は熱心なゼニードの信者でもある。

 そのゼニードと一緒に王都に旅行に行ける。日本人の感覚で言えば、一番好きなアイドルと温泉バス旅行(しかも隣の席に座ってくれるオプション付き)と言い換えればわかりやすいだろうか?


「借金の上乗せはしなくていい。その分働いてもらう。あと、お前の主人は俺だってことを忘れるんじゃないぞ」

「勿論存じております、ご主人様。あぁ、ゼニード様の飲み物とおやつを用意しないといけませんね。セリカさん、セリカさぁん、午後休いただいてもいいですかっ!」

 と俺の話もほとんど聞かず、クイーナはゼニードに尽くすための準備をはじめた。

 んー、熱心な信者を持ったものだ。ゼニードの人間的にダメな部分を俺の次に見ているはずなのに、それでも彼女に対する信奉心はまったく減っていない。それどころか、


「神様が信者に傅かせるのは当然のことであり、それは信者にとって最大の喜びでもあるのです」


 と言っていた。根っからの信者体質である。


 まぁ、あの調子なら、ゼニードの世話係としてはこれ以上ない人材だろう。ゼニードが増長しないように注意はしないといけないけれども。

 ふと横を見ると、ゼニードがタイニャーと名付けたトラネコが俺の顔をじっと見ていた。


「お前も一緒に行くか? 猫一匹くらいなら席に余裕はあるぞ?」

 と尋ねたところ、そのトラネコは「ふんっ」と鼻を鳴らすような仕草をし、おもむろに歩き去った。


 なかなか威厳がある。猫にしておくのは勿体ない。


「真実の姿を映す鏡を使えば、どこかの王子様になったりしないかな?」

「タイニャーが王子じゃと? それはないな。タイガが王子であることくらいない」

「俺は国が滅んだとはいえ一応王子なんだが……で、なんで急に現れたんだ?」

「そろそろ時間かと思っての」


 ゼニードは落ちていたドングリを三つほど拾い上げた。

 このあたりにはブナの木も椎の木も生えていない。

 いったいなんで――と思ったが、そうか。

 あのトラネコが持ってきたのか。


「最近、タイニャーの奴、妾にドングリを持ってくるのじゃ。命を救ってやった恩返しのつもりかもしれんな。()い奴め」

「普段いじめてくる嫌がらせかもしれないぞ……ドングリなんてもらってどうするんだ?」

「勿論、インベントリに保存しておく。信者からの貢ぎ物を粗末にしたくないからの」

 と言ったところ、ゼニードの手の中からドングリが消え去った。


 インベントリに収納されたのだろう。

 意外と神らしいところもあるんだな。


「ところで、タイガよ。地球にはドングリをもとに作る縄文クッキーが存在すると聞いたことがあるがレシピを知っておるか?」


 訂正――ただ食い意地が張っているだけだった。

 勿論、俺はそんなレシピを知らない。


「クック〇ッドで調べれば出てくると思うのじゃが」

「この世界にクッ〇パッドはねぇな。スマホもパソコンもないんだからな。Amaz〇nで料理本を取り寄せることもできん」


 そもそも、俺の世界のドングリとこの世界のドングリが同じものかどうかもわからないからな。


「というより、ゼニード。お前こそ日本の知識とかいろいろ知っているんだからレシピを知らないのか?」

「んー、妾が日本に意識を飛ばしていたときは、ほとんどアニメと漫画を見ておったからな。ミ〇ター味っ子にそんな料理はあったかのう?」

「ないと思うぞ……もうそのドングリ、全部豚に食わせたらどうだ? イベリコ豚ができるかもしれないぞ」

「おぉっ! その手があったかっ! タイガ王国ができた暁には、養豚場事業を始めることにしよう」


 タイガ王国って、そんなダサイ名前にしないけどな。

 でもまぁ、養豚場は悪くないかもしれないな。ブランド豚というのはこの世界ではまだ浸透していない。

 適当に言ったんだけど、将来設計のひとつにしておこう。

 ただし、豚は病気に弱いから寄生虫とかには気をつけないといけないし、やはり素人が手を出すにはリスクが高く手間もかかるので、アイデアだけ出して誰かにやらせよう。


「ところで、ゼニード。準備は済んだのか?」

「うむ、クイーナが妾のところに来て、準備はすべて任せるように申したからの。任せることにした」

「そうか……一応あいつも自分の生活があるんだから、ほどほどにしてやってくれよ」

「わかっておる。金を稼ぐには体は大切なことくらい金の神である妾はわかっておる」


 それならいいんだが。

 まぁ、クイーナの給仕の仕事は、住み込みで食事も提供されるから、仕事をしている限り死ぬことはないだろう。

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