41話
「あれからもう一カ月――町もほとんど元通りじゃな」
ゼニードがベランダから町を眺めて言った。
元通りといっても、さすがにブラックドラゴンに壊されたキーゲン男爵の屋敷と、東の壁は修理中だ。
ただ、逃げ出した町の人々は全員町に戻った。
シンミーは一度買い取った奴隷を再度売りつけてかなりの儲けを出したみたいだ。
グルーたちはダンジョンに町の人を避難させた時に、活躍して表彰されたらしい。さすがは一階層を知り尽くした冒険者だな。
「ラピス神様が降臨したとかで、教会のお布施も普段の三倍くらい集まっているんですよ」
ユマは俺が焼いたネギ焼きを食べながら言った。
ちなみに、代金はボッタクリ価格の500ゴールドだ。
ブラックドラゴンを倒したはいいが、素材の換金はまだできていない上、グルーたちにもミスリルゴーレムの代金の一部を渡したせいで、こっちは金欠だからな。
「本当に人間ってたくましいですね。あんなことがあったというのに、次の日から皆さん一生懸命壊れた家や壁を建て直しているんですから」
「ネギと一緒だよ。ネギが水を与えるだけで根っこから元の大きさに戻るのは、ネギが根に栄養を溜め込んでいるからなんだ」
「つまり、この町を大事に思う人の愛が、この町の栄養というわけなんですね」
「違う、栄養というのは金のことだ」
俺は忌々し気に言った。
「キーゲンの野郎が金庫の中以外の別の場所に大金を隠してやがったんだ」
今回の事件で、俺がキーゲン男爵の金を無断で使ったことに関しては不問となった。
そもそもの発端は、キーゲンがシルバーゴーレム欲しさに北の竜神の谷を見張っていた魔術師を動かしたことにある。その罪を無くすには、それ以上の手柄を上げるしかない。
そのため、キーゲン男爵は俺に命じ、ブラックドラゴンを退治させたということにしようとしたわけだ。
1億ゴールドはその経費ということになった。
しかし、それでも男爵の立場は微妙だ。
だからこそ、私財を投じてでも壊れた建物の修復を自ら買って出たのだろう。
「キーゲン男爵――あいつはもしかしたら俺と似ているのかもしれないな」
「どっちもお金に汚いということですか?」
「金は貯めるものではなく、使うためにあるということがわかっている。金が目的ではなく手段だということがわかっているんだ」
あいつ、今回の町の修復にかなり金を使っていたからな。
お陰で、キーゲンは私的な理由で兵を動かして町を危険にさらした悪者ではなく、私財を投げうって町を復興した良き町の長になっている。
「タイガ・ゴールド。いるか?」
ノックもせずに、そいつは俺の部屋へと入ってきた。
キーゲン男爵だ。
「よう、男爵様。ちょうどあんたの話をしてたんだ。それにそろそろ来る頃だと思っていた」
「国王陛下からの召喚状が届いた。ワシと貴様の分だ」
だろうな。
ブラックドラゴンはまさに災害級の敵。
それを倒したんだ。
日本で言うのなら国民栄誉賞以上の功績だ。
国王自ら祝ってくれるということだ。
「出立は明日。従者は二名まで同行可能。一度領主町で侯爵様と挨拶したのち、王都に向かう。拒否権はない」
「大丈夫か? 胃薬なら売ってやるぞ、男爵様」
「うるさい――が胃薬は買おう」
国王からの召喚状。
これが俺の目標の第一段階だ。
ここまで来るのに五年かかったが、もうすぐだ。
もうすぐ、俺はこの国の貴族になることができる。
そして、俺はそれを足掛かりに王へとなる。




